多分、睡眠導入剤
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小さい頃からずっとお世話になってる近所の病院。
...に、今来ている。
それも、大大大嫌いな注射(点滴)をしに。
「大変だったねぇ、最近忙しかった?」
心配そうに話しかけてくれるのは、これまた小さい頃からお世話になってる看護師さん。
口調こそ穏やかだが、点滴を準備する動きには一切の無駄がない。さすが、熟練である。
「季節の変わり目だから体調崩す人多いものね」
「はい...」
「相変わらず注射嫌いねぇ、奈緒子ちゃん」
「す、すみません」
「謝ることじゃないのよー」
ニコニコと笑顔を崩さぬまま、看護師さんの視線は向かい...私の横たわるベッドのすぐ脇へと移る。
「でも、今日は良かったね。一成君が一緒で」
ベッド横の椅子に腰掛ける彼は、幼馴染であり今では恋人の一成君。
体調不良を見かねて、ここへ連れて来た超本人。まあ、ほぼ連行に近かったのだけど...それでも大人しく従ったのは、注射より彼に心配と迷惑をかける方がもっと嫌だから。
そうじゃなきゃ、治るまで家から一歩も出なかったと思う。
良心と、惚れた弱みってやつかな、うん。
「昔を思い出すわぁ...もう十年以上も経つのねぇ」
「せ、先生にも、看護師さん達にも、一成君にも、昔からお世話されっぱなしで、本当...」
「ふふ、予防接種で一成君の後ろに隠れてた頃が懐かしいわね......さて、右手で良かった?」
どうやら準備は整ったらしい。
消毒綿のひんやりとした感覚が腕にかかり、反射的に顔を顰めてしまう。
「は、はい...」
「怖かったら一成君に手握ってもらっててね」
「それだと血の巡りが異常に良くなっちゃうので」
「惚気る元気はあるね、よしよし」
それまでゆるゆるとしたレスポンスが、突然饒舌になってしまうのも、ここでは今更のこと。
話題の主役である人物にチラリと目をやるも、気にも留めていない様子。無視するでも口を挟むでもなく、ただ静かにやりとりを眺めている。
「はい、ちょっとチクっとするよー」
「あ、はい......ゔっ...!」
くると分かっていても、未だ慣れないこの痛み。
針が刺された瞬間、空いている手に力が込もり、彼の手を握らないのは正解だったと改めて思う。
危うく傷をつけてしまうとこだった。
「あはは、痛かったねー」
「だ、大丈夫です」
本当は全然大丈夫じゃないです、泣きそうです、いい大人が、年甲斐もなく。
「はい、それじゃあ終わるまで休んで。腕曲げないようにしててね。なにかあればこのボタン押して」
「はい...」
「じゃあ一成君、看ててあげてね」
一成君が頷くのを確認すると、看護師さんは病室を後にした。
さて、点滴が終わるまでおよそ一時間といったところ。
付き添わせてしまったこともだけど、なにもせずにここで時間を過ごさせてしまうのは忍びない。
「あの、どこかで時間潰してきても大丈......ぶ...!?」
目元を覆う大きな手。
エクスクラメーションとクエスチョンマークが飛び交う頭に、更なる衝撃が訪れる。
「しーっ......」
まるで子どもでもあやすような、優しい囁き。
本来の私なら、軽くパニックを起こししまうくらい刺激の強いものだけど、不思議と今感じるのは心地良さだけ。光も遮断されているからか、さっきよりも気分が落ち着く。
(おっきい...あったかい...)
ウトウトと眠気に襲われる中、加速させるかのごとく温もりに包まれた左手。
一成君の「おやすみ」の言葉を合図に、夢の中へと沈んでいった。