事実を言ったまでですが?
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「どうしようどうしよう......どうしよう!!?」
メッセージが届いた時間から考えてあと10分もしないうちに姉が来てしまう。
この短時間の内に何度も動揺する事態に陥っているけれど、今が一番ピンチと言っても過言ではない。
そしてやはりと言うかなんと言うか、分かりやすくパニくる私の横で彼は落ち着いたままだ。
「まあまあ、そない慌てんと」
「いやそう言われても!」
「深呼吸してみ?」
「し、深呼吸...?」
言われた通り、ゆっくり呼吸を繰り返す。
.........そうだ落ち着け自分、もともと謝罪だけは先にする予定だったじゃないか。ちょっと計画がズレただけ、まだなんとかなる。
「ようなった?」
「...うん、なんとかね。ありがと」
「ええよ、これくらい」
ニコッ、なんて効果音がつきそうな笑顔。
状況が違えばときめいてたかもしれない。現状から言うと笑顔より優しさより、その謎に落ち着き払った態度の方が正直気になる。
本当に成人したての若者か?それに比べてアラサーの自分ときたら......うん、やめておこう。
「...じゃあ気を取り直して作戦を発表します」
「おー」
「ひとまず淳君は隠れなさい。その間に私は上手いこと言い訳する。以上」
「作戦言う割に短すぎひん?」
「なによ、簡潔で分かり易いじゃない。他になにか質問ある?」
「はい、質問」
「はい、どうぞ」
「ボクなんで隠れなあかんの?」
「話がややこしくなるから」
「同居人やのに?」
「いや、だからね?そこに至った経緯の説明を考える時間がないんだって」
「ホンマのこと言うたらええやんか」
「そりゃそっちの方がいいんだろうけど...」
「けど?」
「......事実をそのまま話す勇気がない」
彼のことは昨日のアレで知られてしまっているから仕方ないとして、実は酒の勢いによる痴態でした、とは言えない。しかもその連れ込んだ相手はついこの間まで未成年だったわけで。
「当人達だけで秘めておくのと周知されるのは違うんだよ、淳君」
「なるほどなぁ」
「お、分かってくれた?」
「つまり、奈緒子さんはヒミツの関係ご所望っちゅーことやろ?」
「全然違うわ!その言い方だと語弊しかないじゃないの!」
「まあ冗談はここまでにして、や」
「あんたの冗談、心身共に悪影響すぎるんだけど」
「気ぃつけるわ」
「頼むわよホント......さっきの続きだけど、お姉ちゃんが帰るまで寝室にでも大人しく隠れててよね」
「なあ、それなんやけど」
「今度はなに」
「ボクにええ考えがあんねん」
「考え?」
「せや」
これまでの彼の発言からして不安しかないが、聞かずに流さなくとも意見のひとつとして参考に出来きるかもしれない。
心なしか自信ありそうにも見える。
「どんな?」
「まず前提としてボクも同席する」
「却下で」
「そんで奈緒子さんの代わりにボクが説明する」
「却下で」
10秒前にした僅かな期待を返して欲しい。
それともなにか、こうなると解っていながら期待した自分が愚かだったのだろうか?
あとなんで即否定されて笑顔で話し続けられるのか本当分からない。スルー力とメンタル強すぎない?
「これやったら奈緒子さんは言い訳考える必要あらへんしボクも堂々としとったらええ。お姉さんも知りたいこと知れて円満解決、オールハッピーや」
「却下だっつってんでしょ話を聞け!つーか私だけ肩身狭いくてアンハッピー!全然円満じゃない!」
「大丈夫やって」
なんの根拠があってそう言い切れるのか、それを訊ねることは出来なかった。
口を開いたそのタイミングで、インターフォンの高い音が鳴り響いたからである。
「来はったみたいやな」
一瞬なかったことにしようと目論んだが、彼の一言でその浅はかな企ては失敗に終わってしまった。