事実を言ったまでですが?
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私は今、文字通り頭を抱えている。それこそ頭を抱える、と言う意味に挿絵として使われいても不思議ではないくらい。
事の始まりは彼と握手を交わした直後の会話だ。
*****
「あ、せや奈緒子さん」
「ん?」
「もう電源入るんとちゃう?」
「アッ」
忘れていたわけではない、決して忘れていたわけではないが正直ちょっと忘れていたかった気持ちもなくはない。
後回しになるだけで解決策としては不十分であると分かっていても、だ。
電池切れが発覚してすぐ充電を開始した端末はまだ僅かしか溜まっていないだろう。それでもケーブルと繋ぎっぱなしにしていれば問題く使える。
先程とは別の緊張感に包まれて電源を入れると予想を遥かに超える数のメッセージと着信履歴。よく見ると一時間前にも着信がある。
もう折り返すのが恐ろしい。
「やばい」
「夜カフェのとこのお姉さん?」
「そーよ、私の実の姉」
「ああ、せやからお姉ちゃん?」
「うん......てかどうしよう、なんて言い訳すれば......酒、いやダメだそれも怒られる......」
立ち寄ったカフェは姉夫婦が経営しているものだ。
いつも通り仕事を終えて片付けをしている最中、妹が見知らぬ若い男を連れて一緒に住む宣言をしてきたのだから、さぞ困らせただろう。おまけに言うだけ言って止めるのも待たず帰ってしまう始末。
......お姉ちゃん、ごめんなさい。
「ボクが言うんもアレやけど、早よ返信したった方がええと思うで」
「分かってるけどなんて返せば良いのか」
「とりあえず謝っとき。やらかしたらまず謝罪や」
「...うん、まあそれはたしかに」
微妙に釈然としないが言ってる事には賛成だった。
ひとまず謝って、理由はまた落ち着いたら話すと言ってしまえばこの場はなんとかなる.......のではないかと思いたい。電話だと尋問タイムに入ったらお終いだしメッセージの方にして。
いざ、と意を決して画面を開く。
昨日最後にこの画面を見たのはたしか職場だった。姉は祝いの言葉、私はそれに礼を述べて...となんとも穏やかなやりとり。
まさかその十数時間後、質問と呼びかけの嵐で埋め尽くされることになるとは思わなかった。姉はもちろん私自身も。
流すように読み進めたからか、割とすぐ最新のものに辿り着く。
良かった、読んでる最中に新着が入ったら怖気付いてスルーしかねな............ん?
「......淳君、ちょっと」
「んー?」
「私まだ寝ぼけてんのかな?これちょっと意味分からないんだけど」
「どれ?」
「これ、この一番新しいやつ」
「別に変な事書いてへんけど?」
「ならやっぱ私の見間違いか、じゃあもう一度............おかしいなさっきと変わってない......あ、見てるものが違うのかも」
「ほな、せーので読んでみる?」
「あ、それいいね、そうしよう。いくよ、せーの」
「「今から家行くね」」
「同じやったなぁ」
「......同じ?」
「イントネーション以外一緒やったやん」
「......?」
「え、なにその理解出来てません、て感じの顔」
その通り、出来てません。
同じ文章を読み上げたはずなのに、おかしなこともあるもんだ。
......なんて、さすがに無理がある。
たった10文字に満たない文が分からないはずない。寝起き直後から衝撃的な出来事の連続で頭はハッキリしているのだから。
「あのさ」
「うん」
「もしかしてさ」
「うん」
「もしかしなくてもさ」
「うん」
「.........此処に来るって意味だった?」
「せやな」
つまり、だ。
姉は今、此処へ来ようとしている。
恋人でもない男を連れ込んだうえ、同居をスタートさせてしまった言い訳もまだ考えていないのに。
現実逃避を止め全てを理解した瞬間、正常に戻っていた脈拍が再度速まる。
こうして冒頭へと繋がるのだった。