だから人生おもしろい
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事件が起こるのはいつも突然だ。
「ボク、お姉さんのとこで働かせてもらう予定やねん」
「なんて?」
*****
「健康って大事だわ」
体調が回復して数日。
普通のありがたみを改めて実感しつつ、食後に出された紅茶を一口。熱さが喉を通り抜け、身体の内側からじんわりあったかくなる。
「せなやぁ」
「淳君も無理はしないように」
「りょーかい。あと、はいこれ。本日のデザート、林檎のアップサイドダウンケーキでーす」
「おおー!」
「タルトタタンと似とるけど、大きな違いはタルト生地かケーキ生地か、やな」
他にも発祥地域の違い、名前の由来、果物は洋梨やパイナップルなんかでも作るのだと、楽しそうに話してくれた。
「詳しいね」
「作り方とか調べとるうちに自然と。はい、どーぞ」
「ありがとう。いただきます」
「召し上がれ」
形は保ちつつ、フォークでスッと切れる絶妙な柔らかさの林檎は最早芸術にさえ思える。
香ばしさの残るキャラメルソースと、酸味の効いた林檎、更に相性抜群のシナモン。生地はしっとりふんわり、優しい甘さ。
「んー...美味しい!」
食べる前から美味しいのは確定してたけど、想像以上。
「至福の味がする...」
「嬉しいなぁ。奈緒子さん好みに仕上げた甲斐あったわ」
「淳君は?食べないの?こんなに美味しいのに」
「奈緒子さん見とったらなんや満足してもうたわ」
「そういうのいいから早く。美味しさ共有したい」
「はは、それやったらボクもいただくわ」
そう言って盛られたケーキは、こちらよりも少し小さめにカットされている。
(甘いもの苦手...ではなかったよね、少なくとも人並みには食べてたし......え、食いしん坊だと思われてる?)
まあでも、甘いものが苦手だとか、悪い意味ではないはずだ。
現に今も美味しそうに食べている...ように見えるし、外食でデザートを頼む事もあれば、家でもおやつタイムが設けられたことが何度かある。当然一緒に、だ。
「...どう、シェフ?ご自身の作ったスイーツは」
「自分で言うんもなんやけど、なかなかの出来やな」
「なかなか?とても良い出来、でしょ。ストイックなのは嫌いじゃないけど、こういうのはもっと甘くしてもバチ当たらないと思うわよ」
「サラッと照れること言うなぁ」
「だって、ホントに美味しいもの。なくなってくのが悲しい」
「そんな奈緒子さんにええニュースがあります」
「聞かせてもらいましょう」
「余った林檎はアップルパイにリメイク予定」
「有能!」
「ちなみに、カスタード入れるんとバニラアイス添えるん、両方で仕込む予定」
「超有能!」
「せやろ?今度の休み、モーニングに焼き立て食べよな」
その言葉でふと気がついた。
最近、朝食を摂らない日がない。体調を崩していた時も、服薬の関係で最低限のものは口にしていた。
彼と出会う前もこの生活が始まって最初の方も、朝は食べないのが主だったのに。
(...もしかしなくても、生活改善してくれてた?)
考えると、思い当たる節もいくつかあるが...だとして、まんまと誘導される自分は相当単純なんじゃないか。
「どうかしたん?」
「...最近よく食べるようになった気がして」
「ええことやん。健康的になったわけやろ?」
「まあ、そうだけど」
「っちゅーか、まだ標準よりだいぶスレンダーなんは変わってへんよ?」
「えーそんなに?」
「あ、でも、確実に進歩はしとるで。前より寝る時の不安減ったし」
「なに特殊な経過観察してんだ」
「んー、健康管理の一環やから堪忍な?」
「罪悪感が微塵も感じられない」
「ええから、な?奈緒子さんは安心してボクに身を任せて。後悔はさせへん」
「その言い方わざと?わざとね?...あー答えなくていいわ、話を変えましょう」
「あ、せやったら、はい。ボク、近状報告みたいなんしてええ?」
なんだろう。
どこも不自然なところはないのに、衝撃に備えて身構えてる時のあの感じ。本能...とはまた違うけど、とにかく何か予感のようなものがする。
「...聞かせてもらいましょう」
展開が読めないこともないが、予感が当たるとも限らない。
でも、心の準備だけは一応しておこう。その方が良いって本能...いや、経験値が語りかけてくるし。
「ボク、お姉さんのとこで働かせてもらう予定やねん」
「なんて?」
ほら、やっぱりしといて良かった。
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