さよなら悪夢、こいこい吉夢
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「ごちそうさまでした」
空になった食器を置いて一息。
少量とはいえ、食事をするにも体力が削られる。弱っているからなのか、加齢のせいなのか。
「お粗末さま」
「美味しかったよ、ありがとう」
「せやろ?ビタミンと愛情たっぷりやからなぁ」
「愛情って味ついてんのね」
「そやで。しかもフレーバー豊富。今回はハニー&フルーツや」
「随分爽やかな愛情だこと」
「少女漫画みたいやろ?」
「はいはい」
悪夢で毒が抜けでもしたのだろうか、まだ本調子には程遠いものの、こうして軽口を叩き合えるくらいには回復してきたらしい。
「他になんか食べたいもんある?」
「今はもういいかな。薬飲んで休むわ」
「せやな。ようなってきた時は特に気ぃつけなな。はい、薬」
「ありがと」
「夜は無理ない範囲でちゃんと食べてな。栄養摂らんと治り遅なるから」
「努力するわ」
「そしたらボクはそろそろ退散させてもらうわ。起こさんとくからしっかり休み。用あったら遠慮せんと呼んでな」
「悪いわね、なにからなにまで」
「そんくらい当然のことや。あ、倒壊したらあかんしタワーは撤去しとこか」
仰向けに布団へ入り直しながら、林檎が手際良く回収されていく様子を横目で見る。
積み上げられていた赤いタワーは、2つだけを残して綺麗に解体された。本来のフォルムを取り戻したのもあって、ちょこんと並ぶ姿が可愛らしい。
「見守り番はこの子とこの子...と」
「見守り番?」
「ボクの代わり兼、魔除けやから」
「魔除け」
「退魔とも言うな」
「退魔、ねぇ...」
悪夢にも効くんだろうか、と出かけた言葉を一旦飲み込む。
魘された姿を見られたのも、その原因の夢を話すのも正直恥ずかしい。特に内容。
...が。
(悪夢は人に話すと良いって聞いたことあるんだよなぁ...)
羞恥心があるのに変わりはなくとも、この同居生活を始めるに至った経緯の醜態に比べれば小さなこと。
相手も相手で、まさにその醜態を晒した当人。
「...ついでに聞いてってもらえる?これだけ話したら休むから」
頷くのを確認し、いろんな意味でまとめるのが難しい内容をどうにか要点だけ絞る。
悪夢のオールスターだったこと、全然目が覚めなくて心労が加速したこと、だけどヒーローのような存在が出てきたこと、そのヒーローもなかなかクセが強かったこと。
「...なんかあの子、ちょっと淳君と似てたな」
「それやったら、ボクが奈緒子さんのヒーローっちゅーことやな」
「流石、ポジティブね」
「けど実際、奈緒子さん魘されとった時これで目ぇ覚ましたわけやん?」
「まあ、たしかに...じゃあ淳君がヒーローってことでいいわ」
「そのヒーローから朗報や。林檎は病魔にも悪夢にも効果バツグン」
「林檎農家の回し者みたい」
「そこは気にせんと。効果のことは保証する、大丈夫や」
「絶対?」
「絶対」
「...よし、信じる!あともう寝るわ、おやすみ!」
「勢いあってええわぁ、それでこそ奈緒子さん。体調不良者の寝る前のテンションとは思えへん」
「入眠するにも時には勢いがいるのよ。じゃ、おやすみ!」
「あ、待って」
「ん?...んぇ?!」
彼の大きな手が頭に置かれ、まるであやされる子どものような絵面。
置かれたも状況だが、自分から出た間抜けな声にも驚く。こんな、いかにも油断してましたみたいな声、他人のものだって聞くのは久しい。
え、なんですか、これ。
「え、なに、なに?」
「ヒーローから最後にもうひとつ」
「は...」
「安心してな、悪夢はホンマに終いや」
「...あ」
「そんだけ」
「そ、それ...」
「ほな、おやすみ」
「あ......はい、おやすみ...」
いつもなら腑に落ちないこの流れが、今は素直に受け入れられる。
(私のヒーロー、か...)
一人になった部屋の中、気づけば視線は代わりを託された林檎たちに向いていた。
ただぼんやり眺めているだけなのに、段々眠気に誘われてくる。はっきりしない頭で、それでも対照的に確信めいたことがひとつ。
今度はきっと、悪夢は見ない。
だから、起きたらちゃんとありがとうを伝えよう。
