さよなら悪夢、こいこい吉夢
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人のことばかりでなく、自身も疎かにしてはならない。
ピピピッ。
高い機械音が合図を出す。アラーム程の主張はない音量だが、静かな部屋では存在感を持っていた。
まあ単純に、些細な物音も気になるくるい、自分が過敏になっているだけかもしれないけれど。
「...さんじゅうはち...なな...」
ぽつりとこぼした数字は、当たり前だが気温ではない。真夏でもないのに、こんな数値の気温を叩き出されてたまるものか。
じゃあなにかと言うと、今測ったばかりの自分の体温。
通りでふわふわするわけだ。
「...気温の方が、マシ」
屋内ならば比較的調整の容易い気温と違って、体温は簡単に上げ下げ出来るようなものではない。
ああでも、冷水に浸かれば表面的には下がるかも。もしくは業務用冷凍庫に入れば、あるいは。
...なんて、その場凌ぎだとしても賢明とは程遠い思考になるのも高熱のせいだろう。
「奈緒子さん」
呼ばれた名前に少し遅れて顔を上げると、いつの間にかベッドサイドにやってきていた声の主と目が合う。
否、本当に合っているのか、正直なところ自信がない。視界だか脳だかがゆらゆらして、ちゃんと見据えられていないような気がする。
「どやった?」
「...ん」
「んー?...うっわ、たっか!」
手渡した体温計の数字に、彼はオーバー気味に反応を示した。大袈裟だと、普段なら思ったままを言葉にして返すところだが、今回は彼の反応の方が正しい。
だって、つい先日、自分よりも低い体温(それでも平熱の範囲を超えていた)の彼に対し、しっかり病人扱いしたばかりなのだ。
「なかなか下がらへんなぁ...ほら、横なって。起きとんのもしんどいやろ?」
「...面目ない」
「なに言うてんの、悪いことしたんとちゃうんやから」
「だって、こないだ淳君に説教紛いなことしといて...この体たらくよ...」
「それやったらボクの看病したせいかもしれんやん?」
「...いや、それはない」
たしかに、こうなる少し前は私と彼の立場は今と逆だったけれど、彼の場合は疲労からのダウン。結局病院にかかることはなかったものの、それが風邪などではなく疲れからきたのだと裏づけているようなものだった。
対して、私は専門医から風邪と診断を受けている。
大体、少し前と言っても彼の看病期間からはやや日が空いているし、彼の回復後しばらく私は元気だった。
つまり、ただ風邪をひいているだけで、強いて言うのなら不運。
「次の薬までもうちょい時間空けなあかんし...しんどいやろけど、もう一眠りしてな」
「そーね、寝なきゃね...」
「ほら、お水飲んで。喉とか痛ない?」
「へいき」
高熱以外の症状が大してないのは不幸中の幸いだ。
目を閉じてもすぐには眠れないけど、半ば気絶するように意識が落ちていくのを待てばいい。寝ないよりも効果はあるだろう、多分。
「...うつるから、淳君ももう向こう行って」
「せやな、いらん心配させたないし」
「...ありがと」
「あ、そしたらちょっと買い物行ってくるわ。すぐそこやから大丈夫やと思うけど...もしなんかあったらすぐ連絡してな。奈緒子さんのスマホここ置いとくで」
「うん...」
「ほな、いってくるわ。おやすみ奈緒子さん」
「いってらっしゃい...おやすみ...」
部屋の扉が閉まる音をぼんやりとした頭で聞き流し、気怠さに従って瞼を下ろした。
