短所は長所とも言えるので
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
また、やった。
「...で、ご趣味は?」
話題を切り替えようとしただけなのに、雑談タイムのスタート時と同じ内容を振ってしまうなんて...こんなに会話下手だったっけ、私。
「それ導入のボケやなかったんやな」
「ある意味では導入でしょ」
「否定せんとくわ。んー、趣味なぁ...」
「え、あるの?」
「聞いといそれ言う?」
「ないか黙秘かのどっちかだと思って。さっきスルーだったし」
「別にええけど、思ったうえで二度目ぶつけてくるん強ない?」
「誰かさんのおかげでね」
「へぇ、誰やろ?」
「...ご趣味は?」
「奈緒子さんのその強行的なとこ好きやな、ボク」
「それはどうも」
「ほな、三回目やしいい加減ちゃんと答えんとな... 強いて言うんやったら料理サイト見ること」
「料理サイト?」
「せや。同じ食材、調味料でいろんなもん作れんの、結構楽しいで?...っちゅーても最近やけど」
「最近?」
「そや、ここ来てからの話」
「あら、予想より遥かに最近」
「人の為に作るんやったらそれなりに出来る方がええかな、て」
「意欲的ねぇ、有難いわ。手慣れてるから元々料理とか好きなのかと思ってた」
「好きとか嫌いとかの領域以前の話やろか。ボクの母親、生活力身につけんのに男も女も関係あらへん!てタイプで一通りのことは実家居った頃から仕込まれとったし」
「お母様素晴らしすぎじゃないの」
なるほど。
あまりにも自然にこなしていたせいで逆に疑問に思わなかったが、彼の家事スキルはお母様直伝のものだったのか。感謝は当然として、発揮させる場がここでなんだか申し訳ない。
「ま、必要最低限でええとも言われとったし、それで事足りとったから追求もしてへんかったけど...こうして新たな趣味に繋がるとはなぁ」
「良い意味よね?」
「もちろん」
「そう、楽しめてるならなにより」
「今後も期待しとってな」
「うん。だから早く良くなって......あっ」
「どうかしたん?」
「すっかり忘れてた。食欲どうなのか聞こうと思ってたのよ、さっきのゼリーは食べられたみたいだけど...ちゃんと摂れそう?」
「そやなぁ...いつもよかないけど食べられん程ちゃうかな」
「うーん、一応お昼は消化に良さそうなものにしとこうか」
「奈緒子さんが作ってくれるん?」
「ええ。お粥とかうどんとかスープあたりの簡単なものだけど。どれなら食べられそう?」
「そやなぁ...んー............ふ、あはは」
「おいおいおいちょっと?今の笑いはなに?ねえ?スッポンゼリーの方が良いならそう言いなさい?」
「ああいや、ちゃうくて。こういうのもええなぁ、て」
「どういうのよ」
「初めは体調管理出来てへん自分が情けないだけやってんけど、奈緒子さんと話とったら気が楽になったっちゅーか......怪我の功名、みたいなもんやな」
「なに言ってんのよ...」
「ホンマ、なに言うてんのやろなぁ」
いつもより悪いはずの顔色なのに、いつもと同じくらい良い笑顔。
言うこと聞かないし、心配させるし、マイペースオブマイペース...なのに、屈託のない笑みひとつで絆してくる。これが母性をくすぐるってやつなのか、それとも自分の意志が弱いだけなのか。
どちらにしても、自分よりずっと若い子に甘くなるのは一般論だし...一般論だよね?
「...あー、ほら。そろそろ10分経つから寝なさい。薬も効かないと困る「奈緒子さん」...ん?」
「ワガママ、聞いてくれておおきに」
「...ん、おやすみ」
あれだけ駄々を捏ねられた後にこんな素直な一面を見てしまったら、かわいく思うのも仕方ない。
「あ、それと」
「ん?」
「梅としらすとネギ」
「...は?」
「オプション」
「おぷしょん」
「お粥の」
「おかゆの」
「お願いします♡」
...誰、素直とかかわいいとか言った人。
ちょっと弱ってるとこ見てギャップに触れたくらいで判断するもんじゃない。語尾にハートマークが付いていると断言出来る”お願い”を聞いたら速攻考え変わる、絶対。
「...早よ寝ろ!」
「はいはーい」
楽しそうな声の返事を確認し、寝室のドアを閉めてから長く深い溜息をひとつ。
あーーー、疲れた。普段より余計に疲れた気がするのは、錯覚じゃない。
...そのはずのに、何故かホッとしている自分が不思議だった。
6/6ページ