過ぎたことは忘れましょう
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「はい、終わり。あとは自分で整えて」
コードを手繰り寄せて整える。
乾かすだけでボサボサにしたまま、後は本人任せにしてしまうあたり、きっと私は美容師に向いていない。一応丁寧にはしたつもりではあるけど、自分なりに。
(...正直ちょっと楽しかった)
「奈緒子さん」
「なによ、文句なら数分前の自分に言いなさい」
「はは、文句ちゃうよ」
「あら、それは失礼しました。それで?なに?」
「お礼、言いたいだけ」
私とは違うイントネーションの「ありがとう」を言いながら笑いかける姿に、つられてこちらも表情筋が解れる。
きっかけは置いといて、だけど。
「...どういたしまして」
「お返しに今度はボクが乾かしたるな」
「あーはいはい、それはどうも」
「ボク、結構上手いで?」
「あーそれは...うん、美容師でも違和感ないもんね、雰囲気。手先器用そうだし」
「せやろ?」
「でも......そもそもやったことあんの?」
「ない」
「なんなのよ......さて、今度こそ見るか」
「さっきの?」
「そーよ。淳君も見るでしょ?」
「それなんやけど、奈緒子さん。ひとつ提案してええ?」
「なに?」
「それ、明日に変更せえへん?今からやと夜更かしなるし」
「夜更かししても別に...明日休みだし、子どもじゃないし」
「あかん。夜更かしは美容と健康に悪いで」
「ついさっき健康に害が出そうな状況だったのはどこの誰よ」
「それはもう問題解決したから置いとこ?」
「構わないけど...」
「とにかく、や。明日起きてダラダラした後に娯楽タイム入った方がええと思わん?鑑賞のお供に好きなもの作るで」
健康的且つ魅力的な提案は流石の掌握力とでも言うべきか。
拒否する理由など見当たるはずもない。
「分かった、見るのは明日にする」
「決まりやな。なに食べたい?」
「うーん......でもダラダラ過ごすならしっかりしたものじゃなくても...」
「ボクに気ぃ遣う必要ないで?」
「そうもいかないでしょ。てか淳君も一緒にダラダラして」
「そうは言うてもなぁ...」
「あ!ご飯は頼めば良いのよ、ピザとか。私ピザ食べたい。映画とピザ、最高じゃない?」
「あー、それええなぁ......いや、ちょお待って」
「え、なに?」
「実はな、奈緒子さん...」
「う、うん...」
「...この家の冷凍庫には今、お手製のピザ生地とソースがある」
「...まじか」
「突然食べたなる時に備えて作っといたんや」
「まじか」
「ストック分もあるし、いっぱい作れんで」
「まじか...!」
「ちなみに具材もカット済み」
「天才か...!」
「今晩のうちに冷蔵解凍しとけば明日は塗って具材のっけて、あとは焼くだけで済むで」
またしても心躍る提案に、ダラダラ過ごすという当初の目的が崩れ始める。
(ダラダラはしたい、けどお手製ピザも捨て難い...てか捨てない、そして淳君も道連れにしたい......となれば)
「...よし、じゃあ明日の午前は午後を堕落して過ごす為に尽力しましょ」
どちらかひとつを選べないのなら、半々で妥協すれば良いだけの話。
「堕落するために働き回るて、矛盾やなぁ」
「そんなこと気にするんじゃないわよ。良い?明日は手抜きで過ごすのよ!」
高らかに宣言する様が面白かったのか、淳君は口元に手を当てている。多分笑っているんだろうけど、今日は気にしない。
だって、家で過ごす休日にワクワクするなんて、すごく久々なことだから。