過ぎたことは忘れましょう
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既に洗ってある食器類が並ぶキッチンドライヤーに、先程使用した二人分のコップを加えてスイッチオン。
入浴も食事も、小さな家事もこれで終わり。
持ち帰りの仕事も今日はない為、完全にフリータイム。娯楽にふけるも良し、すぐ寝るも良し。
但し、大人の楽しみのひとつである晩酌は当然NG。
(明日は休みだし......あ、そうだ久々に映画見よ)
見ると言っても、上映期間が終了したものばかりだから劇場へ赴くのではなく自宅。最近はDVDを借りなくとも動画配信サービスで気軽に見られるから有難い。
(あらすじもすぐ調べられるし...便利な世の中ね、ホント)
ジャンル毎に検索をかけ、ヒットしたものを適当にピックアップしていく。更にそれをまた検索して、特に興味を惹かれたものをメモに記録。
好みのものを選んでいるから当然だが、ひとつに絞るのが難しい。
「うーん、迷う「これとかええんちゃう?」...あーやっぱ?............うわっびっくりした!」
「嫌やなぁ、バスタイムだけで忘れてしもたん?」
「わ、忘れたわけじゃないけど...急に入って来られたら驚くでしょ!」
「なんや考え事しとったみたいやから」
「お気遣いどーも。それより早くない?ちゃんとあったまったの?」
「しっかり100数えたで?浦島と一緒に」
「浦島は喋んないでしょ......まあそれなら良いけど」
「あとな奈緒子さん」
「なによ」
「ボクがリビング出てから30分以上経っとるで」
「えっ」
時間を確認してみると、たしかに体感より時計は進んでいた。
どうやら思ったよりも熟考してしまったらしい。このままでは選ぶだけで今日が終わってしまいそうだ。
「あ、掃除は終わらしとるから」
「あ...ありがと...」
「いーえ。それより、お悩みの方はええの?」
「あ、うん...せっかくだしこれに.........って、ちょっと!」
「ん?」
「髪濡れてるじゃない!」
「あ、水滴かかった?ごめんなぁ」
謝りながら乗り出していた身を引く彼の髪は、しっとり濡れていて普段と少しだけ違って見える。顔の良さ故かなかなか様になっているのが、何故だか悔しい。
...なんて言ってる場合じゃなくて。
「風邪ひいたらどうすんのよ」
「へーきへーき。ほら、タオル巻いとったらあんま冷えんやろ?」
「そんな変わんないでしょ。せっかくあったまったのにこれじゃ台無しじゃないの」
「けど、別にずぶ濡れなわけちゃうしなぁ」
「油断が一番良くないのよ。まったく、人にはいろいろ言っといて...」
「はは、ボクのこと心配してくれるん?」
「は?するでしょ。なに当たり前のこと聞いてんのよ」
「...あかんわ、殺し文句やそれ」
「また変なこと言って......はぁ、もう。ちょっと待ってなさい」
この調子だとまた彼のペースにのせられてしまう。
そう判断し向かった先は、彼が先程までいたバスルーム。ドライヤーを手にして再びリビングへ戻ると、コンセントへプラグを差し込んで準備はOK。
「ほら、淳君」
「わざわざ持ってき「そこへ直りなさい」...え」
「そこへ、直りなさい」
「や、あの、奈緒子さん...」
「早く!」
そろそろ私が優位に立っても良い頃だろう。
毎回毎回、素直に話し合うから言い負かされるのだ。有無を言わせなければ、こちらに勝ち目がないわけではない。
現にほら、いつも余裕飄々なあの淳君が若干困惑しながらも大人しく言葉に従っている。
さて、映画鑑賞は一旦変更。
まずは自身に少々無頓着気味な同居人の髪を乾かしてやらねば。