過ぎたことは忘れましょう
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食後用のりんごジュースをチビチビと口に運びながら、向かいに座る淳君へ再び質問を投げる。
「ところでさ」
「ん?」
「結局なんで職場に居たの?」
「あー...って、もう怒ってへんの?」
「私にも非がないわけじゃないもの」
彼が帰った後に発覚したことだが、彼は事前にメッセージを送っていた。昼休みに入ってすぐ確認した時まで音沙汰がなかったものだから、つい気を抜いてスマホを見ないまま過ごし、会社でのやりとりに繋がる。
つまり、落ち度はこちらにもあるのだ。
(...まあ連絡入ってたの着く5分くらい前みたいだったけど)
「とりあえず、今回のあれは過ぎたことだから」
「ホンマ、奈緒子さんて懐広いなぁ」
「はいはい、分かったから。で、なんで?」
「夕飯なに食べたいんかな、て」
「...え、わざわざその為に?」
「言うても買い物行く通り道でもあったからなぁ」
「なるほどねぇ......って、肝心のその質問されてなくない?」
「え、言うたやん」
「いつよ」
「ヒソヒソ話の途中で会社のお姉さんらに話しかけられた時」
数時間前の記憶を手繰り寄せ、頭の中で逆再生してみる。
あまりにサラッと言い放つものだから流してしまったけれど、たしかにそれっぽい発言はあった。
(嘘か本当か分かりづらいな...別に良いけど)
「...言ってたわね、一応」
「な?」
「オーケー分かった、その話はもうここで終わりにしましょう」
「その話、て...他にもなんかあるん?」
「あるわよ、大事なことが」
私を訪ねてきたことより、お風呂に浮かぶおもちゃのことより、もっと重要な話。
この関係を誤魔化す為に、彼が言い放ったセリフ。
「許婚で誤魔化したことについての釈明」
「黙秘で」
「却下」
「えー」
「えー、じゃない!はぁ、せめて従弟ってことにしてくれたら...」
「んー...けど、親族は関係抹消難しいで?」
「そ、それはそうだけど...」
「あん時も言うたけど、許婚やったら解消しました〜で終わりやん?ま、下世話な人間やったら詮索するやろけど」
言わんとしていることが分からないわけではない。
同じ他人なら、血縁関係がない方を引き合いに出した方が後々の融通は利く。幸い、人の不幸に深く首を突っ込もうとする人はあの場にはいなかったし。
「...はぁ、じゃあもうこの件はここまでにするわ」
「懸命な判断やと思う」
「腑には落ちないからね?」
「奈緒子さん、過ぎたことは忘れよ?」
「あんたが言うな!」
「ははっ。あ、ほなボクもそろそろ風呂いただいてくるな」
「あー、うん」
「コップはシンクに置いといてええから」
「流石にこれくらい洗うわよ。どうせ明日休みだし」
「あかんて、ボクの義務やろ?」
「いーからほら、とっとと行きなさい!」
やや困った表情を浮かべる淳君の背をグイグイと押し、ドアの方へと追いやる。
実のところ若干の八つ当たりも込めているのだが、これくらいは許してほしい。
(てかホント、変なとこ律儀な子だな...)
もう少し手を抜くよう話し合いでもしよう...と考えながら、しっかりとお風呂場まで見送った。