過ぎたことは忘れましょう
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キッチンで食事の支度する姿をカウンター越しに眺める。
先に言っておくが、手伝わず踏ん反り返っているわけではない。お風呂から上がった時にはもう、必要なカトラリーなんかは出揃っていて、出来上がるのを待つだけの状態だっただけ。
だから、断じて私が気の利かないダメな人間とかじゃない。
「...ねぇ、淳君」
「んー?」
なにもせず待っているなら、私なりにこの時間を活用させてもらおう。
例えばそう、
「なに、あのカメ」
つい先程お風呂で遭遇した謎のこととか。
「ああ、浦島のこと?一人で入るよりええやろ?賑やかで」
「たった一匹増えただけじゃん」
「されど一匹、や」
「そうだけどさ...」
「浦島がおったらもし入浴中に停電なっても怖ないやろ?」
「そんな歳じゃないんだけど。暗がりもある程度は平気だし」
「そない浦島を否定せんといてあげてや」
「別に否定してるわけじゃ...ってか浦島ってなに?さっきから地味に気になんのよ」
「名前」
「でしょうね」
「名前ある方が愛着わくやん」
「それはまあ......じゃなくて、聞いてんのは由来の方なんだけど。もしかしなくても浦島太郎のこと?」
「そやで。カメ言うたら浦島太郎やから」
「分からなくはないけど、浦島太郎は助けただけで別にカメじゃなくない?あと太郎の方じゃダメなの?」
「太郎はいろんなんおるからなぁ...その点、浦島やったらそうあらへんし」
「へー...」
自分自身が受け流している部分もあるとは言え、なんだろうこの妙な説得力。
別に丸め込まれたわけでもないのに、ああそうか...と思えてしまう感が否めない。堂々としているからだろうか。
いずれにしても、内容がお風呂のおもちゃなせいでなかなかシュールである。
「ん、出来た」
「おぉー」
「奈緒子さん、そっちで受け取ってな」
「了解。ありがとね」
ちょうど良いタイミングで食事が出来上がったらしい。二人分の料理を受け取り、ダイニングテーブルに並べていく。
向かい合って着席し、揃って「いただきます」をしたら食事のスタート。
「...うまっ!」
「お口に合うたみたいで良かったわ」
「え、なにこれなんて名前のパスタ?」
「さぁ?調べてへんから...調味料と材料適当に混ぜただけやで」
「そうなの?私これ好きだな」
「ホンマ?」
「うん。すごく美味しい」
「嬉しいこと言うてくれるなぁ。あ、奈緒子さん食後にりんごジュース飲む?」
「りんごジュース?...ああ、ニンニク入ってるから?」
「そ。牛乳とか緑茶でもええみたいなんやけど...食後のデザート感あるやろ?」
「ふふ、たしかに」
「ちゃんと100%タイプ買うてきたで」
「さすが。じゃあもらうね」
「ん、りょーかい」
「まあ明日休みだし、そんな気にしなくても良いんだけど」
「え、ボクが居るのに?」
「え、別に」
「一緒に住んどるのに?」
「におい気にする程の距離では話さないし...」
「はは、ホンマ飾り気ない人やなぁ」
「女子力ないって思ったでしょ、今」
「んー?どうやろなぁ」
笑顔にジト目で返したところで途切れた会話。
淳君と暮らし始めてからの食事タイムは、最早これがテンプレートと化している。
でも、気兼ねなく過ごせるこの時間は、一人で過ごしていた頃よりずっと心地良い。