臨機応変と言ってほしい
name change
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「なんでって......通りがかって?」
「どうしてあんたが疑問系なのよ、聞いてんのこっちなんだけど?本当になんで?」
「んー...ボクも入るつもりはなかってんけど」
「...けど?」
「ちょっと覗いとったらそこのお姉さんらが入れてくれはって」
「そこの...?」
「そこそこ」
彼の視線を辿るように示された方向を見ると、そこには先輩が数名集っていた。
「先輩方...!!!」
「いやー、熱烈な視線感じると思ったらこの子が外にいてさぁ」
「最初は自分の顔に見惚れてんのかなって思ったんだけど、そんな感じじゃないっぽくて。じゃあ面接でも受けに来たのかなって」
「でも今募集とかかけてないし?まあ仮にあっても連絡入ってるはずだから違うなって」
「一応声かけたら知り合いがいるって言うしなぁ」
「とりあえず入る?って感じで連れ込んじゃった」
謎の連携プレーのおかげでおおよその流れは掴めたけど、なんだろうこの脱力感。最後に至っては語尾にハートマーク付きそうな感じがするし...。
お茶目さアピールですか、先輩よ。他人事なら素直にかわいいと思えたはずです、先輩よ。
ちなみに佐藤さんは上に行く直前に先輩方(with淳君)から声がかかったらしい。
まあ一緒にいるのは周知されていたから当然と言えば当然、なのか...?
「本当、ナイスタイミングでした」
「シュガーに聞いたらすぐ戻るって言うし、じゃあ待ってよっかってね」
「まさか上田ちゃんの知り合いだとは」
「驚きよねぇ」
「なになに?二人どういう関係?」
「あ、もしかして彼氏...?!」
「違います!ただのい......」
「い?」
いそうろう、その言葉を言いかけて口をつぐむ。
身内である姉にすら言えない失態を、ほぼ毎日の如く顔を合わせる職場の人達に言えるだろうか、いや言えない。
たった五文字、されど五文字である。
「い?なに?」
「あ、イケメン?」
「いやいや違...わないけどそうじゃなくて、えっと...い、い「許婚です」...?!!!」
「許婚?!」
「はい。奈緒子さんとボク、許婚なんです」
うそー!とか素敵!なんて言葉が飛び交い盛り上がる光景に一人取り残される自分。
勢いについていけず、もはやテレビを見ているような感覚になってきた。
が、それはそれとして。
こんな状況を作り出した張本人をそろそろ問いたださねばと、身を屈めるようジェスチャーを送った。話に夢中な先輩達には聞こえないよう、声を顰めて尋問を開始する。
「...ちょっと、誰が誰と許婚だって?」
「居候やと世間体あんま良くないやろ?」
「どう考えても許婚の方がややこしいわ!」
「許婚やったら解消しました〜!て言えばそこで終わりやん?」
「そういう問題じゃないの!その場凌ぎでテキトーなこと言うなってことよ!ってか軽いな!」
「あのままでおる方が奈緒子さん的にピンチやったんやない?」
「くっ...!」
姉の時といい、またしても彼に主導権を握られてしまったのは腑に落ちないが、今更否定するのも面倒だ。そもそも彼が職場の人と関わりを持った時点でどうしようもなかったことなのだから。
「せやから臨機応変て言うてほしいわ」
でもやっぱ素直に受け止めるのは癪に触る、うん。
「ここが会社じゃなければ良かったのに」
「そないボクと二人っきりがええの?」
「そうね、バイオレンス的な意味と目的で」
「過激な奈緒子さんも悪ないけど、ここ公共の場やから自重してな?」
「自重とかあんたにだけは言われたくな「なに二人でヒソヒソしてんの?」...ぅえっ?!」
「なにその叫び声、ウケる」
「あ、もしかして私達に聞かせられないような話の途中だった?」
「空気読めなくてごめんね上田ちゃん...」
「えっ?!ち、違いますよ!えっと...ちょっと今後の予定的な...ね?」
「そうです、夕飯なんにしよかって話です」
「え、う、うん」
毎度のことながら、よくこんな堂々と嘘吐けるなぁこの子...。正直言って尊敬に値する、悔しいけど。
見事に溶け込む彼のその姿に、”臨機応変”の四文字が頭に浮かぶ。
不思議なことに、今度は容易く「なるほど」なんて気持ちにさせられた。