臨機応変と言ってほしい
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「美味しかったですね」
「うん、噂通りだった。ご馳走様」
「いえいえ」
お昼の楽しみに向け意気込んだ結果、佐藤さんからの言葉を思い出したのは昼休み3分前。
慌てて会社近くのお店を検索し、目に止まったのが先程彼女とランチを共にしたお店。最近社内で評判を耳にしていたおかげで即決出来て助かった。
若干雑な決め方な気が否めないから本人には言えないけど。
「さて、ランチ食べて英気を養ったことだし午後も頑張りましょうね!」
「そうだね、頑張ろう......あ、そうだ備品室寄ってかなきゃだった」
「手伝いましょうか?」
「ううん、平気。先に戻ってて大丈夫」
「分かりました、じゃあまた」
「はーい」
上に行く前に思い出せて良かった、と思いながら目的地へ足を向ける。
一階にある備品室と三階にあるうちの部署、距離は大したことないように思えるが、不運なことにどちらもフロアの端に位置しているせいで地味に遠いのだ。故に何度も往復するのは避けたい。
「...よし、これで全部っと」
必要なものを揃えて備品室を後にし、来た道を引き返すように歩いていると、数分前に別れたはずの佐藤さんの姿が遠目に見えた。
少し不思議に思っていたその矢先、振り向いた彼女に名前を呼ばれ、塞がった両手の代わりに笑顔で応える。
どうやら会話の途中だったらしく、断りを入れてこちらに向かってくれたようだ。角度的に相手の方は確認出来なかったから恐らく、だけど。
「どうかしたの?」
「上田さんに来客があって...ちょうど良かったです」
「来客?」
「はい」
話は逸れるが、受け答えをしつつナチュラルに荷物を引き受けてくれるあたり、さすがだなぁと思う。資料室の時といい、有難い。
「わざわざごめんね」
「いえ、気にしないでください」
「ありがとう。でもおかしいな、今日来客の予定はなかったはずだけど...」
「あ、仕事の関係者じゃなく上田さん個人へのお客さんなんですよ」
彼女の様子からして急ぎの案件ではないのだろうとは思っていたが、余計にクエスチョンマークが頭の中を飛び交う。
プライベートな相手が訪ねてくるなんて............あ。
「......まさか」
ある考えが思い浮かぶ。
小走り気味に進めていた足が急に重くなり、件の相手がいるであろう場所の手前でついに歩みは止まってしまう。
朝、言葉を交わした彼の、同居しているあの彼の顔が過ぎった。
しかも満面の笑みで。
いやいやまさか、来るなって言ったし、そもそも用事なんかないだろうし、あったとしても連絡入れるだろうし。
あれ、そういえば最後にスマホ確認したのって何時だったっけ?
検索した時に見て、ランチの前も見て、食事タイムはマナー的にって触らずに、その後は.........?
「奈緒子さん」
使用履歴を頭の中で辿っていると、それを遮るように名前を呼ばれた。頭上から、ものすごく聞き覚えのある声で。
いや、呼ばれた気がするだけかも、うん、そうだきっとそう、多分幻聴。
「もしもーし、聞こえてへんの?」
「聞こえません」
「聞こえとるやん」
「聞こえません」
「ホンマ冗談言うん好きやなぁ」
...こんなやりとりをする相手、脳裏に描いていた人物と同じに決まってるんだよなぁ。
見上げると、頭の中のことが具現化でもされたのかってくらい表情まで完全に一致。
「...〜〜〜!!!なんでいんの?!!!」
そう、同居相手の淳君、その人である。