臨機応変と言ってほしい
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「あっ上田さんまたですか?」
「ん?」
「手に持ってるやつです」
それ、と言うセリフと共に自分の手...正確にはその手に持っているものへ注がれる視線。
お分かりかもしれないが、今朝方玄関先で同居人との確認事項に挙げられたうちのひとつ、補助食品である。余談だが今食べているのはビスケット。
「そんなのばっか食べて」
「でも栄養補助食品だからバランスは良いよ」
「あくまで”補助”でしょう」
「仰る通りです、はい」
「もう...だいたい、そう言う問題じゃないです。そんなんじゃ倒れちゃいますよ?ただでさえ細いのに」
「ははは......」
つい最近似たような会話をしたばかりで思わず苦笑いしてしまう。
そんな自分の態度に、先程からの会話相手である佐藤さん(あだ名はシュガー)は呆れたようにため息をついた。ちなみに歳下上司や歳上の部下などで敬語を使い分けるのがややこしくて嫌!とビジネス関係は例外なく統一しているらしい。同僚の自分に対して敬語なのもそのせい。
「私もたまに食べますし手軽で美味しいけど、そればっかりってどうなんです?」
「いやそうなんだけどさ......」
「お節介なのは自分でも分かってます。でも上田さんの仕事量と食事量、合ってないから心配になっちゃうんです」
「佐藤さん...」
彼女はお節介と言うけれど、決して押し付けがましいものではなく、純粋に自分を心配する気持ちからきているのだ。それが分かっているからこそ嬉しくもあり申し訳なくもある。
「と言うわけで今日飲みに行きましょう」
「ごめん、どう言うわけで?」
まあこうした突飛な言動で申し訳なさの方はすぐ消えるのだけど。
「上田さんこの前お誕生日だったでしょう?お祝いしなきゃ」
「そんな...別にいいのに」
「ダメです。私の時はちゃんとプレゼントいただきましたし、お返しさせてください」
「うーん......」
「遠慮しないで、ね?美味しいワインのお店見つけたんですよ。一緒に行きましょ!」
「でもほら、部署のみんなからもお祝いしてもらったし」
何故か誕生日の人の名前がホワイトボードに記される習慣があるうちの部署。
おかげで当日誕生日の人はあちこちからお祝いの言葉をかけてもらえる。しかも一日中。
ところであれ、毎年のことながらいつ誰が書いてるのか未だに分からないままなの、あまりにも謎すぎでは?
「そうですけど...いつもお世話になってるからなにかさせてほしいんです」
「気持ちだけで充分嬉しいよ、ありがとう。実はしばらく禁酒するつりだから...どっちにしてもなの」
「え、禁酒?」
「そう、ごめんね」
「それなら仕方ないですけど...急にどうしてです?」
酒に酔って見ず知らずの若い男を連れ込んだ挙句に同居生活を始めてしまったから......とは口が裂けても言えない為、とりあえず人に迷惑をかけた戒めと言うことにしておいた。全体的に端折ってるけど事実だもの。
残念がりながらも納得しつつ、それでもなお食い下がる彼女に、妥協案として今日のランチを奢ってもらうことで話は決着。
個人的には補助食品の詰め合わせとかでも良かっのだけど、それを提案したところ言い終わる前に被せる形で却下されてしまった。冗談だったけどちょっとだけ残念。
「なに食べたいか考えておいてくださいね」
「うん、ありがとう」
「よし、午前の業務頑張らなきゃ......あ、それ資料室に持ってくやつですよね?私用事あるのでついでに行きます」
「本当?助かるよ」
「任せてください」
「ありがとう、じゃあお願いします」
「はーい!」
元気な返事と共に足早で向かう彼女を見送り、再び仕事に取り掛かった。