臨機応変と言ってほしい
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「...それにしたって馴染みすぎよね」
つい先日のことを思い返していると、鏡の中の自分が苦笑い。なるほど今はこんな表情なのか、と呑気に観察してしまう。
良く言えば順応性が高く、逆に言えば適当で物事を深く考えない性質。
私達の場合どっちなのかと問われれば、答えは両方である。
「奈緒子さーん!コーヒーと紅茶どっちー?」
「こーおーちゃー」
「フレーバーはー?」
「あっぷるー」
「ホットー?」
「そー」
部屋を跨いで飛び交う言葉は一見、数年来の付き合いがあるように思えるだろうが、実の所まだ出会ってから1週間も経っていない。
自分の性格はさっぱりしている方とは言え、ここまで猫を被らずにいる相手も珍しい気がする。まあ既にかなりの失態を見せているから今更取り繕ったところで滑稽なだけなのだけど。
スキンケアが終わるのと同時に考え事もやめ、鏡でささっとチェックを済ませ、ダイニングへ戻った。
既に置かれたティーカップから仄かにりんごの甘い香りがして、まだ湯気立つそれを一口含むと、なんだかほっとする。出勤前のコーヒーも良いけど、紅茶にも違った良さがある。
ちなみに身体を冷やさないよう基本年中ホット派。でもアイスも好き。
「ホンマになんもいらんの?」
「...ん?」
雑念と余韻に浸っていたせいで少し反応が遅れる。けれど、彼の問いたいことはすぐに察した。
「...昨日も言ったけど、朝は食べれないんだよ」
なんとなくバツが悪くて目を背けてしまう。
不摂生と言われても仕方ないのだが、食べれないものは食べれない。無理したところで気分が悪くなるだけ。なお、経験済み。
ヨーグルトや飲み物だけなら口にすることもあるが、固形物はキツい。トーストですら食べれても2、3口程でギブアップする始末。
「仕事中おなかへらんの?」
「平気。休憩とかに補助食品つまんでるし」
「お昼ホンマに食べとんの?」
「食べてるよ、ちゃんと。買ったり社食だったり」
「おにぎり一個とかちゃうやろな?」
「違うって......お母さんかっ」
「目に入れても痛ない妹もったシスコン兄さんとかのがええわ」
「そこはお父さんでいいでしょ。あんた地味に設定細かいのよ」
「拘りは表明する派やねん、ボク」
「ふーん...てか私のが年上だし虚しくなってきた」
「お母さんはそない自分のこと卑下するような子に育てた覚えあらへんで」
「育てられてないし...え、結局お母さんなの?」
「ボクはボクであり兄であり母でもあるんや」
「なにそれ哲学っぽい」
それでも父とは言わないところに謎のプライドを感じた。
彼が大阪人だから...かは分からないが、ほぼ毎回コントみたいなやり取りを繰り広げてしまう。一応会話のキャッチボールは出来ているのだろうけど、何故こうも全力投球なのか。
...まあ、自分も悪ノリしてしまうところがあるため人のことばかり言えない。
「とにかく、私は朝いらないから。淳君はちゃんと食べてよね」
「自分は食べへんのに?」
「食べないんじゃなくて食べれないの」
「一人で食べるんさみしいなぁ」
「今度はなに、弟モード?」
「裕福な家庭に生まれたものの両親は共働きで多忙故にいつも一人で飯を食べる愛情に飢えた9歳の女児や」
「だから細かいのよ設定!なにノンブレスでさっきより詳細な説明してんの......って女児なの?!」
「年下ポジションに男はいらんねん」
「えぇ......」
「ところで奈緒子さん、紅茶お代わりいる?」
「...あー、そろそろメイクとかしなきゃだしいいわ。ありがと」
「ん、りょーかい」
もう切り替えの速さには触れないでおこう、と空になったカップをシンクへ運び、残りの支度に取り掛かった。