事実を言ったまでですが?
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「おはよう奈緒子。早速で悪いけど、いろいろ話さなきゃならないこと...あるよね?」
「とっ......とりあえずさ、中入ったら?」
「...ええ、そうね」
いつもと違い穏やかさを含まない笑顔、そして声のトーン。多分これが肌で感じるってことなのだろう。静かな怒りがヒシヒシと伝わってくる。
自業自得と覚悟はしていたものの、やはり居心地の良いものではない。
短い廊下を抜けて開けっ放しにした扉の先にある部屋の中、真っ先に目に入るのは姉にとって二度目の対面となる彼。
「あなた......昨日の?」
「はい。土屋淳、言います」
どうでもいいけど、わざわざ立ち上がって挨拶する礼儀を弁えているなら私にももっと示してほしい。
ひとまず二人に座るよう促し、自分は淳君の隣へ腰をおろす。
......これじゃ本当に家族と恋人の顔合わせみたいじゃないか。状況全然違うけど。
「昨日のアレはどういうことか説明してくれる?」
微妙な空気が流れる中、沈黙破る姉。
まあそうくるよね、むしろそれしかないよね。
「あ、あのねお姉ち「ボクが説明します」...ヒェッ」
「あなたが?」
「はい。昨日はご挨拶もせんとすみませんでした」
「いえ、こちらこそ...取り乱してごめんなさい。お話聞かせてもらえる?」
「はい。身の上話からになるんですけど、実はボクの入居するはずやったとこがダブルブッキングしてしもうたんです。相手は女性やし追い返すんも気ぃ引けて...譲ったはええけど、近くで泊まれそうなとこも頼れる人も居らへんしどないしよ思てたんです」
「そんなことが...」
「ただ、幸か不幸か必要家財は設置されとったんで移動はキャリーケースだけで済みました。そんで街を彷徨う中、一休みしに入ったお店で奈緒子さんと知り合うたんです」
「まあ...」
「出会ったばっかの素性も知れん男のことやのに手を差し伸べてくれはって... けどさすがに一人暮らしの女性のお宅にお邪魔すんのはいろいろ問題ある思うたんです。ボクこっち来たばっかで職探しの段階やったし......せやけど結局は住込の家事代行やと思えばええて彼女の言葉に甘えたんです」
「...じゃあ昨日の奈緒子の奇行は?」
「一応身内に伝えとかな後から大変や言うて、でもボクのこと気遣うてあないな感じに」
「そうだったの...」
出鼻を挫かれ完全に傍聴者と化した私を他所に話が進むのは仕方ないが、揃いも揃って奇行扱いはどうかと思う。
......いや、それよりも。
物は言いようなんて諺はあれど、この短時間でここまで絶妙な言い回しを思いつくだろうか、普通。
まあ説明の節々で闇を感じる気もするけど...元カノ宅を家具家財付きの物件扱いするとことか。
「あの、私がちゃんと説明しなかったから...連絡も早く返すべきだったし......ごめなさい」
「いいの、私も早とちりしちゃったから.....妹が勢いで知らない男性を連れ込んだんじゃないかって」
その通りですお姉ちゃん。あなたはなにも間違っていません、100%こっちが悪いです......なんて、優しい笑みに戻った姉に言えるはずもない。
結局、困ったことがあったらいつでも言いなさいと残して姉は家を後にした。
あれだけ心配だった嵐はあっさりと過ぎ去り、彼と二人きりの空間に舞い戻る。
「な?上手くいったやろ?」
「私のメンタルを犠牲にしてね。なんなの、ダブルブッキングの相手に譲ったとか出会い方の表現の仕方とか」
「事実やろ?」
「脚色しすぎでしょ」
「けどお互い言いたないこともあったやろ?」
「そっ......そう、だけど」
昨日は酒の肴にサラッと話したものの、私の心情も彼の体験もなかなか複雑ではある。身内と言えど第三者にペラペラ話せるものじゃない。
「......これも過ぎたことか」
「昨日から過ぎっぱなしやなぁ」
「誰のせいよ」
「お互いの人を見る目がないせいやろ」
「その通りだけど急に現実叩きつけないでよ!てかそれ自分にもダメージくるでしょ、絶対」
「戒めとして心に刻んどかなあかんやろ?」
「達観しすぎでしょ...あんたホントに20歳?」
「どうやろ?」
「年齢詐称者なんか自宅に入れるの嫌なんだけど」
「冗談やって」
「...はぁ、それより今後のこと話し合わなきゃ」
一段落したからなのか、紙とペンを用意し対面に座り直した今がドタバタ続きの中で一番落ち着けている気がした。