桃太郎
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
「今日は洗濯が良いピョン。芝刈りはおじいさんに任すピョン」
二人は、芝刈りと洗濯を交代制でやっており、本来なら今日は芝刈りのはずのおばあさんは、川へ行くと言ってききません。
「なんで今日に限ってそんな川に拘るんだ?呼ばれてるのか?」
「んなわけないピョン。ハリガネムシに寄生されてるみたいに言うなピョン」
「いや、そこまで言ってはねぇけどよ。正直おばあさん方が芝刈りと相性良い気がするんだが...お前あれ得意だろ?デスサイズみたいなやつで狩るの」
「否定はしないピョン。でも今日は川の方から何かが流れてくる予感がするピョン。だから川にするピョン」
「...本当に呼ばれて「ないピョン」...おう」
おばあさんの言葉に頭を傾けながらも、まあ別にそんな大したことじゃないし良いか...と、おじいさんは山へ向かいました。決して圧に負けたのではありません。
おばあさんも川へ向かう支度を始めます。
「さて...念の為準備を整えて行くピョン」
用意周到なおばあさんに、抜かりはありません。鉤縄とベニヤ板を適量取り出し、他いくつかの道具と共に大きめの荷台に乗せて家を出ました。
「...やはりいつもと流れが違うピョン」
徒歩数分程のところにある川へ到着したおばあさんが、最初に行ったのは水流の確認。
普段と異なるのは、水嵩もでした。雨も降っていないのにやや増しています。
「ふむ...先に縄を渡しておくピョン」
朝と同じくなにかを感じ取ったおばあさんは、鉤縄を反対岸の木へ引っ掛けておきました。
「これでよし...ピョン」
作業を終えたおばあさんは、ようやく本題の洗濯を始めます。
「...洗濯機ほしいピョン」
洗濯板を使ってひたすら擦り洗いをするだけの作業。
おばあさんは嘆きながらも、手を抜きません。熟練の技で効率良く済ませていきます。
「裏返しにしたままにするなとあれほど.........ん?」
時々愚痴をこぼしつつ洗い続けるおばあさんの目に、あるものが映りました。
それは、大きな大きな桃です。
「...きたピョン」
どんぶらこ、どんぶらこ...と、上流から流れてくるそれを見たおばあさんは、今朝感じた予感はこれだと確信しました。
自分よりも大きな桃を見たのは生まれて初めてでしたが、おばあさんは動じません。
「縄の壁を作っておいて正解だったピョン」
そうです、桃の向かう先には、おばあさんの見事な投擲技術によって生まれた縄壁があるからです。
桃は、おばあさんの視線を浴びながら縄壁に堰き止められました。
「ここからが本番ピョン」
いつの間にやら装備した、フルフェイスのヘルメットと軍手、そして長靴。準備は万端です。
「...多少傷物になるのはこの際仕方ないピョン」
本当なら銛か何かを差し込みたいところですが、さすがに傷みが酷くなるので諦めました。
代わりに、ベニヤ板で簡易的なスロープを設置してもう一枚のベニヤ板を使い、テコの原理でゆっくり桃を転がしていきます。
「これで良いピョン」
無事に桃を荷台へ乗せ、鉤縄を回収すると今度はそれを桃に括り付けました。
「...疲れたピョン」
洗濯はもちろん、芝刈りよりも重労働な桃の収集作業に、おばあさんは珍しく疲労を感じます。
残りの洗濯を光の速さで終えると、おばあさんは桃を乗せた荷台を引きながら帰宅しました。
「帰ったピョン」
「おう、おかえ......なんだそれ」
「桃ピョン」
ひと足先に帰宅していたおじいさんは、おばあさんの後ろにある桃を見て顔を顰めます。
「朝言ってたのはこれのことか?」
「だったみたいピョン」
「...で、どうするんだ?これ」
「もちろん食べるピョン」
言うや否や、おばあさんは包丁を振り下ろしました。
すると。
「ギャー!!!」
なんということでしょう。
おばあさんが叩き切った桃の中から、男の子...と言うには少々大きすぎますが、とにかく男の子が泣きながら這い出して来ました。