赤ずきんちゃん


お母さんの心配をよそに、もくもくと歩き続けた赤ずきんは、早くも森の入口にある花畑へさしかかりました。
うららかな日和、心地良い風、美しい花々。先程までの物騒な会話で沈みかけた心が癒されていきます。

気持ちが落ち着いてくると、おばあさんの容態とオオカミのことが頭をよぎりました。ひとまずおばあさんは大丈夫だと判断したものの、オオカミの方が気がかりです。
森の中には凄腕の猟師がパトロールをしているためそれ程恐怖はありませんが、お母さんからの扱いを気の毒に感じていました。
絵面が気になって仕方ない赤ずきん。つい立ち止まって考え込んでしまいました。

その時です。
なんと、目の前にオオカミが現れました。

「こんにちは、赤ずきんちゃん」

オオカミはニコニコしながら話しかけます。綺麗な顔をしていて、言葉は自信に溢れているようでした。
お母さんが言っていた”多分無害な奴”と別の個体かもしれないので、赤ずきんは無視を決め込みました。

「赤ずきんちゃん、今からどこへ?」

赤ずきんは答えません。

「おつかいですか?」

赤ずきんは答えません。

「そのバスケットにはなにが入ってるんですか?」

赤ずきんは答えません。
と言うよりもこれに関しては答えられません。

「...もしもーし、聞こえてますか?」

赤ずきんは答えません。

「あの、無視はやめてもらえませんか?」

ほんの少し迷いましたが、赤ずきんは答えません。

「...グスッ」

思わず足を止める赤ずきん。ゆっくり振り返えってみると、オオカミがシクシク泣いていました。
動物好きの赤ずきんは、良心が痛みます。
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