桃太郎


「誰が鬼だ。しめんぞオメェ」
「いやもうしめ...ちょ、ギブギブギブギブギブ!!!」
「無事だったのか、河田」
「久しぶり。帰ってこないからどうしたのかと」
「誰か止めろよ!!!」

必死の叫びに、ようやく桃太郎を解放した河田は、これまでの経緯を語り始めました。

「鬼共を退治したは良いが、荒れ放題で見過ごせなくてよ。もとの住達人とこの島の再建活動をしていた」
「それで前より雰囲気が良かったのか」
「途中で放り出すわけにもいかねぇからな。気づいたら長みたいにされてよ、離れるに離れらんねぇ状況になっちまった」
「責任感強いから不思議じゃないけど...まさか統治してるとは」
「物も人間もなおりかけが一番気を抜けねぇからな」
「そっかぁ...でも連絡くらいはほしかったよ、心配したんだ」
「すまんな、美紀男」
「あのー...ちょっと良いっすか?」
「なんだ...つーか結局誰だべ?こいつ」
「桃太郎だ。こいつも鬼退治にここへ来たんだ...意味なかったけどな」
「ほう、なかなか良い心意気じゃねぇか。で、なんか質問か?」
「いや、あの...鬼退治の件短くね?......ですか」

少なくとも、桃太郎にとっては、途中何度も...むしろ最初から逃げ出したくて仕方のなかったこのミッション。
それをたった一節、しかも完全な過去形で済まされてしまい、思考が軽いバグを起こしました。

「個々での強さは然程なかったからな。それに、ああいうのはボスを倒しゃ自動的に壊滅するもんだ」
「で、でも...そのボスのとこに行くのだって大変なんじゃ...そんな強くなくても数があったでしょうに」
「全てを相手にする必要はねぇ。挑んでくる奴だけ薙ぎ倒しゃ良いんだ」
「小慣れすぎぃ...」
「ま、幸いそんな向かってくる奴もいなかったしな」
「あ、仲間だと思われてたとか?」
「お前さっきから喧嘩売ってんな?」
「いや、ちょ...!違いますよ!」
「じゃあオレのことなんだと思ってるか言ってみ」
「おに......いちゃん、美紀男の」
「他に残す言葉はないな?」
「待って待って!ごめんなさい!それ悪役が言うやつ!」

本音を隠せない桃太郎。
鬼もいないこの島で命の危機とはシャレならない...と、心の底から謝ります。

「次はねぇぞ」
「はい...あ、ところでこれからどうするんです?オレはもうやることないから戻りますけど。松本さん達もそうですよね?」
「ああ。元々付き添いに来ただけだからな」
「オレも」
「美紀男と河田さんは?」
「兄ちゃんが残るなら...」
「いや、お前は先に帰れ。近いうちオレも戻る。こっちもだいぶ落ち着いてきたからな」
「う、うん!」
「良かったな、美紀男!」
「ハイッ!ありがとうございます」

さてさて、ここまでいろんなことがありましたが、最後は円満解決。
もうしばらくここへ残る河田と別れ、三人は再度海を渡り、自分達の村へと帰って行きました。

「なんとか期限日に間に合いそうで良かったです、ホント」
「まあ出発して一日も経ってないからな」
「時間軸に歪みが出来てましたからね...」
「そういえば桃太郎、おばあさんにお土産頼まれてたんじゃなかった?」
「あ、やっべ...でも鬼がいなかったんじゃどうしようもないし...いっか!」
「兄ちゃんに頼んどけばよかったですね...ところで何が必要だったんですか?」
「あー...いや、ホント大したもんじゃねぇし気にすんな!」
「?そうですか......あ、じゃあここで失礼します」
「オレもここで」
「オレも。みんなお疲れ様」
「じゃあここで解散ってことで!ホントありがとうございました!今度は普通に会いましょ!」

仲間達と笑顔で別れ、桃太郎はおじいさんとおばあさんの待つ家へと向かいます。


行きはよいよい、帰りは怖い。
家に帰るまでが旅、最後まで油断は出来ません。おばあさんの仕掛けたトラップに掛からぬよう、地図を見ながら慎重に逆走でルートを辿っていきます。

そうしてやっと、桃太郎は家に帰ってきました。

「桃太郎、ただいま戻りました!」
「鬼の臓器は?...ピョン」
「第一声それ?!」
「おお、帰ったのか桃太郎」
「あ、おじいさん!ただいま!」
「やけに早かったな」
「それが、なんか先に乗り込んでる人いて...鬼退治の必要なくなっちゃったんすよね」
「そりゃラッキーだな」
「鬼の臓器はどうしたピョン」
「まだ言ってるし...オレが行った時はもう鬼ゼロだったんすよ!」
「...チッ」
「舌打ちした?今舌打ちしました?」
「うるさいピョン」
「もー!...ま、いいですけどね!」
「おっ、短時間のうちに成長したか?」
「フフン、道中いろいろありましたからね!」
「涙の数だけ強くなったかピョン」
「泣いてませんよ!......そんなに」

おばあさんとよく似たイチノと共にいたものの、やっぱり本物は違うな...と、懐かしさを感じる桃太郎。
外の世界へ飛び出し、目まぐるしく過ぎていった時間の中で、桃太郎はたくさんの人々を知り、そして感情を得ることが出来ました。


その後、桃太郎は旅で知り合った仲間達ともよく会い、絆を深めたり時々技をかけられたり。おじいさんおばあさんと仲良く、そして全力でツッコミをし、幸せな日々を送りましたとさ。
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