桃太郎


四人は無事、鬼ヶ島へと上陸を果たします。

「いや......着くの早くね?」
「早い方が良いんじゃなかったのか?」
「そうですけど...!物理的距離と時間の流れ無視してません?」
「細かいことは気にしないで良いと思う。ねえ美紀男」
「そうですねぇ」
「えぇー...」

兎にも角にも、もう鬼は目前。ここまで来たら、後は倒すだけです。

「...にしても、全然鬼ヶ島っぽくなくないですか?」
「鬼ヶ島見たことあるのか?」
「ないですけど...もっとこう、怖いとかヤバそうみたいなイメージあったんで...」
「うーん、たしかに...桃太郎の言うことも一理あるな」
「おお!イチノさんが珍しく肯定的...!」
「本当か?イチノ」
「うん。前に向こうから見た時はもっとどんよりしてた気がする」
「そういえば...兄ちゃんが行くって言ってた時も、そんな感じだったような...」
「美紀男もか?」
「ほらね!ほらね!」
「いくら鬼でも綺麗なとこ住みたいって思ったんじゃないかな」
「鬼にそんな人間臭さあるのか?」
「さぁ?」
「とりあえず行ってみましょ!」

謎は残ったままですが、いつまでもここで駄弁っているわけにもいきません。

「急にやる気だな、桃太郎」
「や、なんか思ってたより雰囲気ヤバくなさそだしイケる気がしてきて」
「単純だな」
「まあ良いんじゃない?結果やる気に繋がってるし」

なんだか勇気が出てきた桃太郎は、勢いのままに鬼ヶ島の門を叩きました。

「たのもー!」
「道場破りか」
「あながち間違いではないよ」
「桃太郎さん、かっこいいです...!」

桃太郎の掛け声から少しして、門の方が騒がしくなり、一行は固唾を飲みます。

「ちょ、松本さん...先頭行ってくださいよ」
「なんでだよ!お前がリーダーだろ!」
「リーダーが最初に出ちゃダメっしょ!」
「そうだとしてもなんでオレなんだ!」
「一番頼みやすいからですよ!」
「お前どんどん無遠慮になってくな?!」
「おかげさまで!これまで出会った中で松本さんより自由になれる相手いないです!」
「だから嬉しくねぇよ!あとお前生まれて半日くらいだろ!」
「良かったじゃないか松本、期待を寄せられて。オレは殿を務めるから、頑張れ先鋒」
「おい!」
「ほら!イチノさんもこう言ってるし!し、しんがり...?枠は埋まっちゃいましたよ!」
「殿の意味分かってないだろお前」
「そ、それは今どうだって良いんすよ!」
「あの...お二人とも嫌なら自分が...」
「美紀男、ほっといて良いよ」
「で、でも...」
「二人とも、美紀男に気を遣わせるなよ。ジャンケンでもして決めな」
「イチノお前...自分は不参加だからって...!」
「殿だって危険度は高い。ほら、早くしないと扉開くよ」

イチノの言う通り、大きな門がギギッと音を鳴らしながら開き始めました。もう考えている暇はありません。


命運を賭けたジャンケン、軍配が上がったのは松本でした。

「悪いな、桃太郎」
「ああああああああああ!!!」
「だ、大丈夫ですか?桃太郎さん...」
「良かった良かった、無事決まって」
「無事って言葉の意味知ったうえで言ってます?」
「いいから早く行きなよ、ほら」

バッサリ両断するイチノに、何度目かのおばあさんの面影を浮かべる桃太郎。
どんな武器よりも、この人かおばあさんの方が強いに違いない、そう思いました。


不安は消えませんでしたが、桃太郎は覚悟を決めます。

「...援護はしてくださいよ」
「ああ」
「頑張ります!」
「骨は拾うよ」
「最後!イチノさん!!!」
「ちょっと、ちゃんと前向きな」

うっかり顔を背けた桃太郎の少し上から、声が降ってきました。

「誰だお前」
「ギャーーー!!!!!!出たー!!!!!!」
「幽霊みたいに言うな」
「あ、兄ちゃん!」
「鬼ー!!!!!......えっ?!兄ちゃん?!」

まさかまさかなことに、声の主は美紀男の兄だったのです。
8/9ページ
スキ