桃太郎


「あ、いたいた」
「ああ、あいつか」
「松本さんも知ってる人?」
「まあな」

どうやら二人の知り合いらしく、桃太郎はホッとします。

「美紀男」
「あれ、イチノさんに松本さん?こんにちはぁ......後ろの人は...?」
「あ、オレ桃太郎。本名は沢北!」
「沢北桃太郎さん...?」
「いや、ピーチ・沢「桃太郎って呼んでやれ」...ちょ、なんで松本さんが遮るんですか!」
「その件長いからじゃない?」
「そういうことだ。あと美紀男は素直だからな。余計なことまで聞かせるな」
「もー!分かりましたよ!」
「と言うわけだ、美紀男。こいつのことは桃太郎って呼んでやってくれ」
「あはは、分かりましたぁ」

三人の愉快なやりとりに、美紀男は微笑ましくなりました。

「なあなあ、美紀男はここでなにしてんの?」
「絵を描いました。雉です」
「へー......って、うっっっまっ!そして意外にもリアルタッチ?!」
「また上達したな」
「生きてるみたいだよ、ホント」
「え、なに?前からこんな上手いの?」
「うん。美紀男が描くより上手い絵、見たことない」
「あはは、ありがとうございます」
「なに、プロの人?」
「いえ、趣味です」
「すげぇ...」
「わぁ、ありがとうございます...あ、そういえば、なにかご用があったんじゃ...?」
「あ、そうだった...趣味の時間邪魔して悪いんだけどよ......美紀男、一緒に鬼退治行かねぇ?きび団子ならある!」
「本当に悪いと思ってる奴のセリフじゃねぇな」
「よりにもよって鬼退治だし...モノで釣ってる感が否めない」
「しょーがないでしょ!それが本題なんだから!あときび団子は別に釣ってるんじゃねぇし!それ言ったら二人も釣られたってことになりますけど?!」
「オレは同情だが」
「オレはなんとなくだけど」
「くっ...!」

仲間のはずの二人から、援護ではなく非難の言葉を浴びる桃太郎。
そんな様子を見た美紀男は、オロオロしながらも言いました。

「あのぉ...お供、します」
「え、マジ?!」
「はい、自分で良ければ」

仲間になることを了承してくれたのです。

「良いのか?美紀男。嫌なら今からでも断るか?」
「無理も気も遣う必要はないのに...」
「ちょっとそこ二人黙っててくださいよ!本人が良いって言ってんだから!な?」

自分を気遣う松本とイチノ、そして必死な形相の沢北に、美紀男は困ったように笑いながら頷きました。

「まあとにかく良かった...あ、きび団子食べるか?」
「わぁ、ありがとうございます」
「...なぁ桃太郎」
「はい?」
「なんで美紀男にはタメ口なんだ?お前」
「いや、なんか...弟っぽいから?」
「なんだその根拠」
「まあ合ってるっちゃ合ってるけどね」
「マジですか」
「兄貴がいるからな」
「そうなんですよ...でも、最近会えてなくて...兄ちゃん...」

暗い表情になった美紀男に事情を聞くと、驚きの事実が。
なんと、彼の兄は鬼ヶ島にいるのでした。

「な、なんで?連れてかれたのか?」
「いえ、鬼退治に」
「まさかの先人?!」
「強いもんな、河田」
「行動力もあるしなぁ、河田」
「自慢の兄ちゃんです」
「...じゃあオレ行く意味なくない?」
「帰ってきてないからお前が行くんだろ」
「まあ河田で無理な相手に勝てるかは...」
「結果分かってて行くの嫌すぎるんですけど?!」
「美紀男の前でそれを言うのかお前は」
「うっ...それは...!」
「人の心ないの?」
「ちょ、やめてくださいそのセリフ!」

同じ日に二度も人の心を疑われ、またしても追い込まれた桃太郎。
当然の如く、早々に観念しました。

「もうこうなりゃヤケだ...!妥当鬼!そんで美紀男の兄ちゃん取り返しに行きますよ!」
「桃太郎さん...!」
「忍耐力なら自信がある」
「無理矢理だが乗りかかった船だし、やれるだけやるか」

各々抱える気持ちは様々ですが、目的は同じです。

チーム桃太郎は鬼ヶ島を目指し、力強く歩み始めました。
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