桃太郎
「あ、あれ見てください!誰かいますよ!」
「あれは...イチノか?」
「え、知り合いですか?」
「ああ。おーい、イチノ!」
イチノと呼ばれた男の子が、こちらに気づきました。
「松本?」
「奇遇だな。なにしてたんだ?」
「三猿って分かる?あれについて考えてた」
「...何故?」
「見ざる言わざる聞かざる...これって一種の忍耐だなって。最終的に本物の猿見たくなって」
「ちょっとよく分からないが...見れたのか?」
「いや。ここには居ないみたい」
「...そうか」
「松本こそどうしたの。こんなところで」
「あー...オレは犬の散歩してたんだが...」
「へぇ...見ない間に随分大きくなったね。犬らしさもなくなった気がするけど」
「あれ、まさかオレのこと言ってます?この人」
「言葉まで話せるようになったんだ。すごいね」
「いやオレ犬じゃありませんよ?!」
「イチノ、こいつは人間......なのか?」
「ちょっとそこ迷わないでくださいよ!」
「でもお前生まれが...」
「ほんの少し特殊なだけでしょ!人間ですよ!」
「人面犬?」
「だから!人間!ひ!と!」
マイペースかつ、表情を崩さず淡々と続けるこの様は、どことなくおばあさんを思い起こさせます。
このままでは埒があかないと判断した松本により、事情が説明されました。
「...と言うわけで、今は鬼退治に行く途中なんだ」
「なるほど」
「あと、この桃太郎は一応人間だ。少なくとも犬ではない」
「そっか。松本ん家の犬が進化したわけじゃなかったんだ」
「まだそれ言ってるんですか?!」
「冗談だよ」
「冗談ぽく聞こえないんですけど...まあいいや、イチノさん...ですよね?一緒に鬼退治行きませんか?」
「良いけど」
「そこをなんとか!今ならきび団子も...って、え?いいの?」
「うん」
意外な程あっさり仲間になることを承諾され、桃太郎と松本は驚きます。
「良いのか?そんな即決して」
「うん」
「誘ったオレが言うのもなんですけど、死と隣合わせになるかもしれないですよ?」
「死と隣り合わせなのは生きてる以上避けられないことだよ」
「た、たしかに...!」
真理をつくような言葉に、やはりおばあさんと似ている、と桃太郎は思いました。
「じゃあイチノさんもお供決定ってことで!」
「うん。よろしく、二人とも」
「よろしくお願いします!」
「よろしくな」
松本に引き続き、イチノが新たな仲間に加わり、桃太郎は喜びます。
「なんかイチノさん強そうだしホント良かったー!」
「そう?」
「そうですよ!おばあさん...オレを拾ってくれた人なんですけど、その人とすげー似てて頼もしいです!あ、きび団子どうぞ」
「ありがとう......あ、美味しい」
「でしょ?」
「お前それオレに毒味させたの忘れてないからな」
「ど、毒味じゃないですってば!」
「ははは。仲良いね、二人」
最初よりも、随分賑やかになってきました。
桃太郎も、最初とは打って変わって楽しそうにしています。
「あともう一人くらいほしいなぁ」
「まあ...多いに越したことはないからな」
「ダメ元で一人誘ってみようか?」
「!誰か心当たりあるんですか?」
「うん。まあどうするかは本人次第だけど...聞いてみるだけなら。もう少し行ったとこにいる」
イチノの言う通り先へ進むと、離れたところからでもよく分かる、大きな人影が見えました。