桃太郎
「あーーー行きたくねーーーーー」
桃太郎の心の叫びは、穏やかな晴天に吸い込まれていきました。
おじいさんから渡された地図を見ながら、桃太郎は歩きます。
「えーっと、この道抜けたらひたすら川沿いに真っ直ぐだよな...てか複雑な道でもねぇのになんでこんな回り道.........あれ、もう一枚ある?」
不思議に思っていると、地図の下に紙が重なっていることに気がづきました。
「なになに...”川までは必ずこのルートを通ること。ここ以外はおばあさんが仕掛けたあらゆるトラップの犠牲になる可能性がある為、命の保証はない”......いやなんで?!」
おばあさんは、ブービートラップの名手でもあったのです。
「何者なんだよおばあさん...つーか危な...道逸れなくて良かった...」
おばあさんの底知れぬ力へ畏敬の念を浮かべつつ、同時に、おばあさんが鬼退治に出た方が良いのでは?とも思いました。
「...てかこの人より怖い鬼とかいんのかな......ん?誰かいる!おーい!」
歩みを進める桃太郎は途中、人影を見つけます。
「こんにちは、なにしてるんですか?」
「犬の散歩だが......どちら様で?」
「あ、オレ桃太郎です」
「桃太郎?」
「正確にはピーチ・沢北・太郎で、略して桃太郎です。本名は沢北」
「情報が多い」
「ですよね。まあとりあえず桃太郎って呼んでください。あなたは?」
「オレは松本」
「へー、松本さんね」
相手は、松本と名乗りました。
「ねーねー松本さん、ちょっと一緒に鬼退治行きません?」
「そんなコンビニ行くみたいな感覚で言うことじゃないだろ」
「重々しく言うより良いでしょ!行きましょうよ!」
「断る」
「きび団子もあげます!」
「いらん」
「良いじゃないですか!犬の散歩の延長だと思って!」
「どこの世界に犬の散歩の延長で鬼退治行く奴がいるんだよ」
「やりましたね、松本さんが世界初!」
「願い下げだそんな世界初!」
桃太郎は松本をお供に誘いましたが、なかなか承諾してもらえません。
「オレだって好きで行くんじゃないんですよ!でも行かなきゃいけない状況に追い込まれて!外出て数十分でこんな試練課せられたオレの気持ち、松本さんに分かります?!デッドorアライブの隣り合わせが終わらないんですよ!!!」
「そ、それは気の毒だが...オレを巻き込むのはやめろ」
「気の毒に思うならお供してくださいよ!タイムリミットまで設けられてんすよ!」
「タイムリミット?」
「そうです。おばあさんに、桃の乾物が出来るまでに帰ってこいって...」
「何者だよおばあさん」
「家の最高権力者です」
「そうか...で、それは過ぎたらどうなるんだ?」
「え?」
「いや、それだけ怯えるなら何かしらの罰でもあるのかと思ったんだが...」
「そういえば聞いてなかった...」
今更ながら気づいた桃太郎でしたが、こうも思います。
「...けど、聞かないのが正しい選択だったんだと思います」
「......そうか」
お前の言うおばあさんこそ鬼じゃないのか?と言う疑問は言葉にせず、代わりにこう告げました。
「あまりにも事情が...お供するよ」
松本は、とても心優しかったのです。
「ホントですか?!」
「ああ。このまま帰っても夢見が悪そうだしな」
「よっしゃ!!!」
すったもんだの末、松本が仲間になりました。
「あ、その犬も連れて行くんですか?」
「バカ言うな、置いてくに決まってるだろ。怪我したらどうする」
「でも犬って強いじゃないですか。牙とかあるし。なんなら松本さんより強そうですよね」
「ついてくのやめても良いんだぞ」
「げっ!ごめんなさい!」
「よし」
松本は犬に帰るよう命じます。
「あいつだけで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。賢いからな」
「ふーん...ま、とりあえず先進みますか」
「ああ」
仲間が増え、桃太郎は最初より表情も気持ちも明るくなりました。
「あ、きび団子どうぞ」
「さんきゅ......あ、美味い」
「え、ホントですか?......うまっ!」
「おい待て、毒味させたのか?」
「ち、違いますよ...あ、それより!もう少し仲間ほしくないですか?鬼も何体いるか分かんないし」
「誤魔化したな...って、調べてないのか?」
「言ったじゃないですか、外出てすぐに鬼退治送りにされたって」
「その外出てってなんなんだ?監禁でもされてたのか?」
「いや違いますけど...何気に怖いこと言いますね、松本さんて」
「選択肢のひとつとして言っただけだ。その歳まで外出てない理由なんてそんなないだろ」
「もっと他にもあるでしょ!桃の中に入ってたとか!」
「もっとねぇよ」
「オレは入ってましたけど」
「なんて?」
「ほら、オレ桃太郎なの、生誕理由が桃なんで!」
「全体的に意味が分からない」
知り合ったばかりとは思えぬ程、和気藹々と歩みを進める二人。
すると、途中に新たな影を発見します。