桃太郎


「まるっきり違うのは避けたいんですけど...反応出来ないし」
「犬かお前は」
「人間ですよ!」
「なにも全部変える必要はないピョン。沢北はそのまま残しておいて構わないピョン」
「お前はなんか希望あんのか?」
「うーん...あ、”エース沢き「”ピーチ・沢北・プリンセス”にするピョン」...被せないでくださいよ!つーか普通に嫌だ!」
「まだピーチ姫諦めてなかったのか...」
「別にピーチ姫自体に拘りはないピョン。桃から産まれたことを強調したいだけピョン」


紆余曲折あり、ようやく名前が決まりました。

「”ピーチ・沢北・太郎”...略して”桃太郎”にするピョン」
「やっぱピーチ姫気に入ってんじゃねぇか」
「略したら元の名前完全に消えたんですけど」
「細かいことは気にするなピョン。見えているものばかりが全てじゃないピョン」
「え、かっこいい...!」
「お前が単純で良かったよ、桃太郎」

おばあさんの言葉に感銘した男の子は、新しい名前を簡単に受け入れます。
ピーチ・沢北・太郎...改め、桃太郎と名付けられた男の子は、ここから新しい生活をスタートさせるのでした。


「早速だが桃太郎、鬼ヶ島行って鬼退治してこいピョン」
「ちょっと待って」
「気をつけて行けピョン」
「ねえ待ってって!!!」

おばあさんのあまりに無慈悲な振る舞いに、桃太郎の悲痛な叫びがまた響きます。

「条件はのんだはずピョン」
「そりゃそうですけど!だからっていきなりそんな鬼退治......え、鬼出んの?!」
「今かよ」
「この辺に出るわけじゃないピョン。海の向こうにある鬼ヶ島を拠点に近くの人間へ悪さをするらしいピョン」
「出ないならいいじゃないですか!」
「本来出ないこの辺にまで噂が届く程やべーってことだろ」
「そういうことピョン」
「だからってオレが行く意味あります?!見ず知らずの人の為に...!」
「お前には人の心がないのかピョン」
「おばあさんこそオレに対する人の心は?!」
「働かざる者食うべからずピョン」
「あ、ねぇわこれ」

9:1の割合で鞭を振るうおばあさんに、桃太郎はなにかを悟りました。

「この人に拾われた時点でこうなる運命だったってことか...」
「この家のルールはこいつだからな」
「まあ......もしおばあさんに拾ってもらわなかったら鬼ヶ島まで流れてたかもしんないし、そう思えば...まだなんとか」
「お前成長したなぁ」
「まだ一時間も経ってませんけどね」

僅か一時間足らずのうちに、着実に成長を見せる桃太郎。伊達におばあさんの連続口撃を受けていません。
おじいさんは、思わず同情と感心と寄せました。いくら川と海が繋がっててもそれはないだろ、と言うセリフは飲み込みます。

「決心ついたなら支度するピョン」
「はいはい」
「はいは一回ピョン」
「...はーい」
「舐め腐った態度取るようならもう一度桃に入れて鬼ヶ島に流してやるピョン。入れ」
「すんませんでした!!!」

不思議な語尾が取れたおばあさんに恐れをなした桃太郎は、鬼退治に出かけることになりました。


「とりあえずそれっぽい格好にはなったピョン」
「なかなか似合うな」
「へへ...まあそれほどでもありますけど?」

おじいさんおばあさんに着物と見事な武器を用意してもらい、少しだけ気分が上がった桃太郎。

「調子のんなピョン」
「はい...」
「まあまあ...そんくらいにしてやれよ」

すぐにおばあさんから牽制されてしまいます。

「じゃあ行きますね、すんごい嫌だけど」
「気をつけてな」
「お前が入ってた桃は乾物にしといてやるから出来上がるまでに帰ってこいピョン」
「それってどんくらいなんですか?」
「天候にもよるが...せいぜい2、3日ってとこだな」
「いやそれ無理すぎません?海越えるのにどんだけ時間かかるか分かります?」
「これは餞別のきび団子ピョン。あと土産は鬼の臓器でいいピョン」
「どうしてこう毎度毎度オレの話ガン無視なんですかこの人は...つーかリクエスト怖っ!」
「気の毒だが頑張れ、桃太郎」
「まだちょっとしか経ってないですけど、オレおじいさん結構好きです」

いつのまにか用意されていた、おばあさん特製のきび団子を腰に下げいざ出発!
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