桃太郎


「今絶対殺す気だったでしょ?!」
「おじいさん、これは食えないピョン。異物混入だったピョン」
「そもそもこんだけデカいし、あんま美味くなさそうだったけどな」
「多少味は悪くとも栄養価はそこまで変わらんピョン。最悪畑の肥やしにする予定だったピョン」
「合理主義だな、相変わらず」
「オレのことスルーしないでくれません?!」

桃から人が飛び出した光景を目の当たりにしてなお、マイペースに会話を続ける二人に、男の子は困惑を隠せません。

「この大きさなら人一人くらい入ってても不思議じゃないピョン」
「思いの外デカい奴だったけどな」
「そういう問題じゃねぇし!てか切る前に前振りくらいしてくれません?!心の準備もないまま包丁が鼻先スレスレにくる気持ち分かります?!」
「そんなバイオレンスな場面に遭う予定はないピョン」
「オレは遭ったんですよ!今!!!」
「桃に入ってるからだろ」
「正論やめてくださいよ!はぁ、もうヤダこの家...ここ来るまでもなんかすんごい転がされたし、ガタガタ揺れて酔ったし...挙句畑の肥やしとか...」
「銛で突かれなかっただけマシだと思うピョン」
「突くってなに?!オレを?!桃を?!」
「位置的にお前を突いていた可能性は高いピョン」
「やっぱオレのこと仕留める気じゃん!」
「結果論としてそうなるだけピョン。透視も出来ないのに人がいるかどうかなんて知らんピョン」
「嘘!!!さっき人一人入ってても不思議じゃないって言ったじゃん!」
「不思議ではないだけでいるはずとは言ってないピョン」
「ねぇこの人なんなの?!」
「ここの家主ピョン。そしてお前は見知らぬ人物ピョン」

驚きで引いた涙を再び目に浮かべ、男の子は叫びました。
途中から静観していたおじいさんは、さすがに男の子を哀れに思い、助け舟を出すことに。

「まあとりあえず.........名前は?」
「グスッ...オレっすか?」
「おう」
「...沢北です」
「桃から産まれたからピーチ姫にするピョン」
「沢北って言ったじゃん!ねぇ!言ったじゃん!」
「あんまり気にするな、キリねぇぞ」
「...そうします、めっちゃ疲れた」
「で、沢北...だっけ?お前なんで桃の中に入ってたんだ?つーか服は着てんだな」
「一身上の都合と大人の事情です」
「お、おう」
「さっきまでと温度差ありすぎピョン」
「しょーがないでしょ、そう言うアレなんですから...」
「まあそれはいいとして、お前行く宛あんのか?」
「ないですね......え、ここに置いてくれないんですか?」
「なんで住む気満々なんだピョン」
「拾ったら最後まで面倒見るもんでしょ!」
「お前なかなか図太い神経してるな......どうするよ?おばあさん」
「...若干癪に触るがこいつの言うことにも一理あるピョン」
「なんで毎回あたり強いの?ねえ?」
「無視しろっつったろ、これがウチのボスだ」
「...はーい」

悩んだ末、不法投棄するのも気が引けたおばあさんは、男の子を家に置くことにしました。
この家のパワーバランスはおばあさんの方が上なのです。

「よし!一応ありがとうございます!」
「良かったな、沢北」
「その代わり条件があるピョン」

おばあさんは以下の条件を提示しました。
①名付けさせること
②桃の始末は自分ですること
③住む以上はこの家のルールに従うこと

「これを守るピョン」
「②と③はまあ分かるんですけど...①っていります?オレ名乗りましたよね?勝手に名付けようとしたからツッコミましたよね?」
「今日からお前は新しい道を歩むことになるピョン。それ即ち生まれ変わることピョン」
「生まれ変わる...」
「だから新しい名前が必要になるピョン」
「分かりました!」
「納得してるから良いけど...お前チョロすぎだろ」

まんまとおばあさんに言いくるめられた沢北は、結局改名の書に拇印したのです。
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