世界一不恰好な女雛の話
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
色とりどりに咲き誇る花
生い茂る緑からのぞく木漏れ日
鮮やかな空色と光をを映す水面
辺りをたちまち別世界にしてしまう雪化粧
夜空を輝かせる星々...所謂、絶景と呼ばれる光景はたくさん存在する。
目の前に広がる景色は、そのどれにも該当しない。
「わぁ...」
けれど、感嘆のため息は自然とこぼれ落ちていた。
校舎三階、西側の窓に面した階段。
普段の人通りも多くないが、放課後にあたるこの時間帯、加えて休日の今日はより閑散としている。来る途中に誰かとすれ違うこともなかったし、もしかすると教師を除いたら校舎内にいるのは自分だけなのかも。
さて、そんなうらさびしい場所で一体なにに感動したのか。
「きれー...」
元から赤みがかった色の造りのものが、窓から差し込む夕日で一層鮮やかな赤色へと染まっている。
これこそが答え。雛人形どころか屏風や雪洞もない殺風景なものではあるけれど、まるで雛壇のように見事な赤い階段が目の前で存在を主張していた。
うん、予想通り...いや、予想以上。
用事もないのに休日の学校、それもこんな時間にわざわざ足を運んだ甲斐がある。なにより、ちゃんと晴れてくれて良かった。
「ふふ、女雛!......なーんて」
自分でやっておいてなんだけど、ちょっと恥ずかしい。
でもほら、テンション上がっちゃったし、誰も見てないし。なんならこの為に来た、みたいなとこもあるし。
「んー、これがお雛様の景色......になるんかな?...けど、やっぱ一人やと寂しいなぁ」
一番上の段に腰を下ろし、自分以外は影もない壇上を見渡す。
校舎内の階段とは言え、折角の立派な雛壇に雛飾りはひとつだけ。いっそ席替えして一人何役もやってみようか。誰も見てないし...っと、いけないいけない。ほぼ毎日通っている学校で、いつもと少し違う環境ってだけなのに楽しすぎる。
...なんて、浮ついていたから、
「せめて男雛役がおったら...」
自分の世界に入りすぎたから、
「そんならボクがやろか?」
声をかけられる程近くに人がいるなんて、それがまさか......密かに片想いしてる相手だなんて思わなかった。
「つ、土屋君...!?」
「はーい、土屋君やで」
こちらの動揺が目に入らないのか、はたまたお構いなしなのか、いつの間にか隣をポジション取っている土屋君。
鏡を見なくても分かる。茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべて答える彼とは反対に、自分の表情は引き攣っているに違いない。