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使用済みのトングとトレーを洗い場へ運び、汚れを落として丁寧に拭く。あとは元の場所へ戻して、これで一段落。
(...さて、と)
「おばちゃーん」
「はいはい...あら、土屋君帰ったん?」
「ついさっき。二人によろしゅう言うてたよ」
「ホンマ律儀な子やねぇ」
「せやね。あ、おばちゃん。用もう終わったんやったらここ変わってもらってええかな?」
「ええよ。休憩入る?」
「んーん。明日の分のカスタード作ろ思て」
「あら、助かるわ。もううちのクリームパンは奈緒子ちゃんの作るカスタードしか考えられへんからなぁ」
「えへ、そう言うてもらえて嬉しい!ほな、作ってくるわ。休憩はその後もらうね」
「はいよ、ゆっくりでええからね」
「はーい」
必要な材料と道具を台の上に並べて気合を入れる。
作るのは、先程土屋さんも買ってくれたクリームパン...の中身のカスタード。
このお店のカスタードクリームは、私がここで正式に働くようになってからずっと担当しているもの。特別難しいものじゃないけど、大好きなお店の大好きなパンに自分の作ったものを使ってもらえるのは嬉しい。
ぐるぐる混ぜて、お鍋にかけて、とろみがつくまでの間に「美味しくなーれ」と心を込めて。
......なんて、素敵な話で終わりじゃなかったりする。
混ぜる手は止めずに、姿勢を崩さず、表情だって動かさない。
でも心の中は正反対に乱れまくっている。
(はぁ.........ホンッッッマ!あの人は!)
あの人とはもちろん、土屋さんのこと。
だけど、怒ってるわけじゃない。
むしろ、その逆。
(こっちも気もしらんと...!はぁ.........)
カスタードクリームを作る時だけ、おまじないと一緒に混ぜ込むこの気持ち。
(.........好き)
誰にも言えない、私だけの秘密。
最初はただのお客様だった。
ご贔屓にしてくれて、愛想も良くて、落ち着いて見えるけとたまにボケをかましてくるユニークな一面もあって。
「人として好き」が「特別な好き」に変わったタイミングは自分でも分からないけど、恋なんて多分そういうものだろう。
それを自覚してからは、この気持ちを悟られないよう気を張った。
(そんで照れ隠しに悪態つくとか、我ながらテンプレすぎや...)
程よい固さに仕上がったそれをバットへ移し、粗熱がとれるのを待つ。
見た目は普通のカスタードクリーム。
でも、その中に込められているのは複雑で大きすぎる想い。これでもかってくらい、たくさん。
当然、彼は知る由もないのだが、そんなものを薦められていると知ったら、一体どう思うだろう。美味しいからという純粋な理由以外に、邪心があると知ったら。
(口が裂けても言わへんけど......けど、もし気づいたら...)
控えめな甘さのお砂糖なのに、いつもと同じレシピなのに、もしも甘く感じたら......その時は、混ぜて包み込んだ気持ちを素直に曝け出してしまおうか。