知りたいことを知れた日
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「土屋君、はいこれ」
「ん?何これ」
「チョコレート」
「...バレンタインはまだ先やで?」
「うん、知っとるよ?」
ならどうして、と問いかけるも彼女は笑顔ではぐらかすだけ。
その日から彼女は毎日欠かさずプレゼントをくれるようになった。
何かメッセージが込められているのかとも思った。付き合う前に自分が彼女に贈った、ホワイトデーのお返しのように。
けれど、イベントでもない日に特別な意味合いが含まれるようなものはない。頭文字を繋げてみたり、読み方を変えてみたり、いろいろ試してみたものの結果は同じだった。
しかし、意味があろうとなかろうと愛する彼女からの贈り物は嬉しい。喜んで受け取る自分を見て、彼女もまた満足そうな表情を浮かべた。
その笑顔の前では思考が麻痺してしまう。
気づけば彼女の意味深な行動が始まって数日、付き合って二度目のバレンタインを迎えた。
あれだけ毎日顔を合わせプレゼントまで貰っていると言うのに、イベントマジックにでもかかったように浮足だってしまう。あと正直、あわよくば...と不埒な気持ちがあるのも否めない。
別に初めてではないけれど、とにかく彼女に会えるのが待ち遠しくて堪らなかった。
なんて幸せな気分だった昨日までの自分。
誠に残念ながら、カケラさえ貰えずバレンタインデーが過ぎ去ったことを当日のボクから伝えておく。もちろん、色っぽい空気にもならずじまいで。
駅から家までの道のりも、家に入ってからも、二人でくつろいでいる時も、そして就寝直前も、渡される素振りすらなかった。
捨てきれない希望虚しく日付は変わり、スキンシップもそこそこでバレンタインは終了。小さく寝息を立てる彼女の隣で傷心のまま目を閉じるも眠れず、無音の中で長いか短いか分からない時間だけが過ぎていく。
こんな寝不足も、ましてチョコと真反対のあっさりさも望んでいなかった。
「おはよう、土屋君」
「お、おはよ」
「大丈夫?顔色悪ない?」
「へーきへーき、はは...」
「やったらええけど...あ、そやこれ」
受け取って、の言葉と共に彼女は笑顔で小さな箱を差し出す。動揺を隠し丁寧に包みを開封すると、察していた通り中身はチョコレートだった。
ショックより先にある考えが頭を過ぎる。
もしかすると、実は自分が日にちを勘違いしているだけかもしれない。
「...今日って何日やったっけ?」
まるで昨日なんて存在しなかったかのように振る舞う彼女に、そう思わずにはいられなかった。
「何言うてんの、15日やろ?」
「あ、あぁそやったね」
悲しいかな、僅かな希望は粉々に砕かれてしまったとさ。