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「ちょうどお預かりしますね、ありがとうございました」
会計を終えてマニュアル通りの挨拶をするも、土屋さんはレジ前から動こうとしない。
「奈緒子さん」
「ありがとうございました、またのお越しを」
「もちろんすぐ来るで。そんでな、奈緒子さん」
「お気をつけてお帰りください」
「ひとつ忘れもんあんねん」
「あ...それはすみません、なんですか?」
「スマイルひとつ」
「ファストフード店ちゃうんですよ早よ帰れ」
「ははは、辛辣やなぁ」
店員としても人としても少々...いや、かなり酷い言い方だと自覚はしているが、ある意味信頼あってのこれなので見逃してもらいたいところだ。決して本人が笑ってるから良いだろうなどとは思っていない。
(...まあ、私が心配したとこで当の本人は楽しんどる節あるし、うん)
「ホンマ素直な人やなぁ」
「土屋さんもなかなかマイペースやと思いますよ」
「ボクら気が合うなぁ」
「...そないなことばっか言うて揶揄うんやめてくださいよ」
「ボクはいつでも本気やで?」
「そーですか。で、そろそろお帰りになります?」
「なりません言うたら居ってええの?」
「ダメ言うても居るやないですか...日中に余裕あるお仕事や言うてましたけど、そない暇なんですか?」
「まあ大して他に趣味あらへんからなぁ...こっちで親しいんこの店の人らくらいやし」
「土屋さん...」
「せやから、ここ通って奈緒子さんらと話すんがボクの一番好きな時間や」
(そんな風に言われてら適当に遇らわれへんやんか...)
本心からだと分かるその笑顔を前にすると、なにも言えなくなる。
そもそも彼が嫌いだから雑にしているのではない。あくまでコミュニケーション、所謂ボケとツッコミみたいなもの。
彼が私達に親しみを感じてくれているように、私達も同じように思っている。
「...あの、いつも来てくれはるんホンマに感謝してます。おばちゃんもおじちゃんも、土屋さん来た日は嬉しそうにしとるし」
「ボクも二人には元気もろてるからなぁ......奈緒子さんは?」
「はい?」
「奈緒子さんはボクが来るん嬉しない?」
「...私も嬉しいですよ、大事なお客様やから」
「それやったら良かったわ。あ、さっき趣味ない言うたけど奈緒子さんに会いに来るん趣味やったわ、うっかりしとった」
「土屋さんに優しさは不要やって再認識しましたわ、またのお越しを」
「あっはっはっ」
大切に思っているのは本音だが、こういうとこはどうにかならないものか。
(...毎回この手のやり方に引っかかる自分も自分やけど)
「さて...さすがにそろそろお暇するわ」
「またのお越しを」
「あ、お二人に挨拶せんと」
「私から伝えとくんで気にせんとってください」
「え、そないボクが他の人と話すん嫌なん?」
「そのポジティブさ、ちょっとだけ羨ましいです」
「照れるわぁ」
「...はぁ。とにかく今二人作業中やから、私が言うときます」
「んー...邪魔するんはあかんもんな。お願いしとくわ」
「はい。じゃ、お気をつけて」
「ん。ほな奈緒子さん、また」
再び鳴るドアベル。
店内に再び静寂が訪れた。