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土屋さんがここへ通うようになったのは、半年程前から。
一見さんだったから、と言うのもあるけれど、品のある顔立ちに柔らかな物腰で、思わず見惚れてしまったのを覚えている。曰く、転職を機にこっちの方へ引っ越してきたのだとかで、今の職は割と時間に余裕があるらしい。
まさか週3ペースで訪れる常連になろうとは思いもしなかったけど。
「さてと...接客は奈緒子ちゃんに頼むわぁ」
「え」
「うち奥でやらなあかんこと思い出してん」
「さっきない言うてたやん?!」
「せやから思い出したんよ。頼むで奈緒子ちゃん」
「...分かりましたぁ」
「ほな、あとは若いお二人でよろしゅう」
「お見合いか!」
「ほほほほ...ほな、土屋君。ゆっくりしてってや」
「はい、そのつもりです。店長によろしゅう伝えといてください」
「はいはい、任せといてや」
ニコニコと奥へ消えていくおばちゃんを恨めしそうに見送り、任せられた仕事を遂行する。
「...で、なんにするんですか」
ただし私流のやり方で。
(店員としてはあかんけど、まあ態度悪すぎんわけちゃうし...)
「奈緒子さんのオススメで」
(この人もこの人でホンマ動じへんな...)
自分を棚に上げるわけではないが、そのマイペースさが羨ましい。
「今日のオススメはシナモンロールです」
「理由は?」
「めっちゃ綺麗に巻けたんです。あと表面のアイシングも完璧な仕上がり」
「あ、ホンマや」
「もちろん味も最高ですよ?」
土屋さんはここで買い物をする時、”私のオススメ”を訊ねる。商品の入れ替わりがそんなに多くはないこのお店で、週3回とも必ずそれを欠かさない。
当然、店内全ての商品が自信を持って薦められる商品だから、彼が通い始めて間もない間は順番にプレゼンしていた。
全ての商品を紹介し終わる頃には立派な常連になっていたのに、彼は今でもその儀式を欠かさない。一通りの説明はしてしまったので、それなら...と、その日一番出来が良いものを紹介するようになった。
見た目でも、フィリングでも、なんでも良い。とにかく自分が一番!と思うもの。
「...けど、土屋さんにはちょい甘すぎちゃうかなぁ」
しかし、彼にも好みの味があるのは理解している。
そういう時はこうやって出方を伺うのだが、次にくる彼のセリフは毎回同じ。
「せやったらボク向けのオススメは?」
そして、この後のやりとりも定例化している。
「...それやったらやっぱこのクリームパンですね」
「甜菜糖入りカスタード?」
「はい」
上白糖やグラニュー糖より少し控えめな甘さの甜菜糖。それを使ったカスタードをパン生地で包み、低温で焼き上げたクリームパン。
普通のクリームパンと違って、見た目も白っぽい仕上がりにしてある。
最初にオススメを聞かれた時、あまり甘すぎるのは...と若干言いづらそうにした土屋さんに紹介したものだ。個人的にもトップ3に入るくらい好き。
幸いにも彼の好みに合っていたようで、自分のオススメが甘めになる時はこっちも挙げるようにしている。
(まあ、そうやのうてもこのクリームパンはいつも絶対買ってくれはるんやけど...)