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私が働いているのは、家から近所のこぢんまりしたパン屋。
夫婦で個人経営されていて、お客様もほとんどが常連。私自身も小さい頃から親に連れられ、ある程度の年齢になってからは一人でもよく通う程大好きな場所。高校生の時に始めたバイトを経て、有難いことにそのまま雇用継続してもらっている。
パンは美味しいし、ご夫婦はもちろん常連の人達も顔馴染みで恵まれた職場だ。
「奈緒子ちゃん。そろそろ彼、来る時間やない?」
ただ一つを除いて。
「あーっと、買い出しに...」
「今日は特に買うものあらへんよ」
「うっ...お、おじちゃん手伝ってくる」
「今発酵中やで?イースト菌にでもなんの?」
「ならんよ?!」
「ほらもう、往生際が悪いで」
「...そもそもなんで私が行かなあかんの?」
「やって御指名やから」
「いつからここ指名制度になったんよ。キャバクラとちゃうでしょ」
「明確に言われてへんけど、目で訴えられてもうとるからねぇ...抗えへんって言うんかなぁ」
「営業妨害で出禁にしたらええ?」
「コラ、そないなこと言わんの。常連さんやし、態度もようて問題なんてあらへんのやから。あと目の保養になる」
「絶対最後のが本音やん」
「うふふ」
お茶目に笑うおばちゃんに抗議しようと口を開いたその時、ドアベルの音が店内に響く。
「いらっしゃ、いま...せぇ...」
「いらっしゃませ!...あら!」
最後の方は消えそうになりつつ、一応最後まで言い切る私と、軽快な声が更にワントーン上がるおばちゃん。
「こんにちは。今日もええ天気ですね」
人好きのする笑顔のままそう話すのは、たった今話題に挙がった張本人。
「まあまあ、ちょうどキミの話しとったんよ!」
「ボクのですか?なんや照れますわ」
「あらぁ、照れとる顔もサマになって!ホンマええ男やわぁ」
「おおきに。奥さんもいつ見てもお綺麗ですよ」
「この子はもう、お世辞が上手いんやから!」
「はは、ホンマのことですよ......奈緒子さん、どこ行きはるんです?」
弾む話題に耳を傾けつつ、今なら離れてもバレないのでは?と現場からの逃亡を画策していると、それを牽制するかのように名指しされる。
「お、お話中やったんで、奥で仕事しよかなー...て」
「なんやそうやったんです?てっきりボクが来たもんやから逃亡でもするんか思いましたわ」
「あははははは...お客様にまさかそんな失礼なこと、ねぇ?」
「そんなら目ぇ見て言うてほしいなぁ...あ、もしかして照れてはるんです?」
「断じて違う」
「そこは目ぇ見て言わんでええんですよ?」
「それは失礼しました」
「まあ結果的に奈緒子さんの可愛い顔見れたんでええですけど」
入店してはや5分、トングもトレーも持たずレジ前で喋り倒すこの人は、このお店で働く私にとって唯一の懸念。
「はぁ...そうやって揶揄わんとってくださいよ、土屋さん」
常連客の一人、土屋さんである。