あと、少し
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小走りで向かった先は、作業していた場所から一番近い美術室。ここなら絵の具なんかの使用も日常茶飯事、汚れ洗いにはもってこいの場所。
それに、放課後なら鍵を借りなくとも部員がいるだろうし、この時期なら使用する生徒も多いから確実に空いているはずだ。
「すみませんちょっと......あ、誰もおらん」
思った通り美術室の鍵は空いていたが、今は誰もいないらしい。
まあ、その方が却ってこちらも気兼ねせずに済む。あまり話したことのない人と無言で同じ空間にいるのはキツイし。
汚れが顔につかないよう、素早く慎重に服を脱ぐ。
幸いなことにインナーにまでは達しておらず、少しだけ安堵した。
それも束の間。
閉めたはずの扉が、ガラッ!と開かれる音が静かな空間に響く。
反射的にそちらを振り返ると、そこにはよく見知った人物がいた。
「...土屋君?」
「あれ、上田さんやん」
彼は土屋淳君。
今はクラスが違うけど、一年の時に同じクラスで親しくなった友人の一人だ。
「びっくりしたぁ...」
「それはお互い様やな。なにしとんの?そないな格好して」
「あーちょっとアクシデントあってん...そんで服が悲惨なことに」
ほら、と言いながらペンキの乾きかけている服を差し出す。
「大変やったなぁ...せっかくやからボクも落とすん手伝うわ」
「え、そんなん悪いやん」
「ええよ。早よせんともっと酷なるで?」
「んーそれもそやなぁ......悪いけどお願いするね」
「ん、任せとき。初めての共同作業開始や」
「なに言うてんの」
「ホンマのことやろ?」
「そやけど」
「ほな始めよか」
「マイペース...」
ついうっかりペースに呑まれてしまった...いや、それよりも。
友人とは言え、たまたま居合わせただけの相手をこんなことに付き合わせてしまうなんて...。申し訳ないやら恥ずかしいやらでいっぱいになる。
「...お恥ずかしい限りやなぁ」
「まあまあ、困った時はお互い様やろ?」
「そやけど......ありがとう」
「ええよ。せやけど、下に染みんかったんは幸いやったなぁ」
「うん、さすがに下は替え持ってへんから」
「けど上どないするん?」
「体操服着るわ。もう帰るだけやし、なんか言われても事情説明したら大丈夫やと思う」
「それやったらええけど...で、その体操服は持ってきてへんの?」
「...あっ」
指摘されてようやく気づいた。今ここにあるのは汚れを落とす為、水浸しになった服のみ。
あの二人の相手と服の汚れに気を取られ、替えを取りに行くことが完全に頭から抜け落ちていた。
着るもの自体はあっても乾ききっていない状態。
......困った。