催涙雨って。


「さっきの話やけど」
「...どれ?」
「セックスする為に雨降らして隠しとるんやないかって話」
「ああ、それ......がなに?」
「よう考えたら雲の上に居る人らに天候関係あらへんなぁ、て」
「そんな身も蓋もない......」
「それで、や」
「うん」
「彦星なりの気遣いなんちゃうかな」
「気遣い?」
「雨音で普段より周り気にせんでええやろ?」

その問いかけが指し示すものがなにか、すぐピンときた。
恥ずかしいやら悔しいやらで掛けていたタオルケットに潜り込むが、話し続ける彼の声はバッチリ聞こえてくる。

「一番よう見える時に諸事情で隠す罪滅ぼし、かもしれへんなぁ」
「.........別にそんなのしなくてもウチは、その............う、薄くないし...壁」
「そやけど.........ん?」
「え?」

どうやら彼はベッドから降りてどこかへ歩いているらしい。
小さく足音が聞こえた思ったらすぐ止まり、今度はカーテンを開ける音がした。

「やんどったんやな、雨」

声につられて顔を覗かせると手招きで呼ばれる。
このまま行くのは...と憚られたが優しい声でおいで、と言われては行くしかない。
包まっていたタオルケットを身体に巻き直して傍へ寄り、外を確認する。

「......ホントだ」

なるほどたしかに、雨音は完全にやんでいた。
湿気を含む空気が肌に纏わりついてくる。

「けど天の川は見えへんなぁ... まだ人前に出されへんのかな」
「ああ、メイク直しとか?」
「んー...まあ人前に出されへん顔しとるっちゅー意味では一緒やな」

悪戯っぽく笑ったかと思うと、次の瞬間には彼の腕の中に閉じ込められていた。
数分前の出来事を思い出して顔が熱くなる。

「まだ慣れへんの?」
「...ダメかな?」
「まさか。初々しい反応で可愛いで」
「...そう」
「まあもうちょい積極的「ちょっと」...冗談やって」
「もう............あ、また降り出した」
「彦星はまだ織姫隠しときたいみたいやなぁ......ボクも便乗させてもらうわ」

そう言うと、彼は私を抱きかかえてベッドまで歩き出した。
この先起こる展開は彼の発言から明白。

締め切った窓の向こう、静かに降っていた雨がまた少しずつ強くなっていくのを感じた。
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