催涙雨って。
「もっとポジティブに捉えてもいいと思う」
なんて、年に一度どころかほぼ毎日顔を合わす恋人にボヤいてみる。
会いたい時に会える自分がなにを感情移入しているのやら...とはなるが、気になったのだから仕方ない。
催涙雨。
ただの雨よりストーリ性はあれど、雨で川の水嵩が増し逢瀬が叶わなくなった二人が流す涙.........それはちょっと物悲しい。
「せめて悲し涙じゃなくて一年振りに会えた織姫と彦星の嬉し涙、とか」
「ほんなら、天の川隠しとんのは好きな女の泣き顔他人に見せたない...っちゅーことやな」
言い方が若干卑猥に感じるけれど、つまりはそう。
久々の再会に涙した姿を天を見上げる人々の目から隠す為のものと捉えれば雨の七夕も悪くない。
「独占欲強いんやなぁ、彦星」
「え?優しいじゃなくて?」
「それやったら夜中雨にせんでもええやんか」
「まあ...そうかもだけど」
「別の意味もあるんちゃうかな」
「別の?」
「例えば......人目を憚らなあかんことしとる、とか」
「人目を......」
なんとなく、彼の言いたいことは分かる。
愛し合う恋人同士が再会し、その愛を確かめる方法のうちのひとつ。
「平たく言うたらセックスしとるんやないかな」
ほら、やっぱりね。
屈託のない彼の笑顔に負けじと微笑み返す。
「...少しはオブラートに包めない?」
「無垢な子どもとちゃうからなぁ」
「もっと風情を感じようよ」
「七夕に雨降るんは今日が初めてちゃうし」
「でも.........やっぱなんでもない」
視線を外して溜息を吐き、笑顔の睨めっこは中断。
だってなにを言っても勝てる気がしないから。
もう一度顔をあげると、彼の顔はさっきよりずっと近くて、そのまま唇が重ねられた。
言い終わるのを待ってくれたのか、それとも諦めるのを分かっていて楽しんでいるのか......いずれにしろ図ったようなタイミングに今更驚しはしない。
織姫と彦星も私達と同じことをしているのかな...と雨音を聞きながらぼんやり考える。
その考えもすぐ、もたらされる快楽の中へと消えていった。