それは中毒と云う
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「弱み握られてんの?」
通算5回目の浮気で大喧嘩になった後(と言っても一方的に感情をぶつけただけ)、結局許してしまった時に友人が投げかけた言葉。
否定したらしたで、余計に心配になると頭を抱えられる始末。肉体的な傷こそ出来ないけどDVと変わらないと嘆く友人の優しさに、正直感動した。
別にマゾヒストじゃないし、浮気されるのは嫌に決まってる。でなければ何度も喧嘩なんかしない。
「はぁ...」
「どないしたん、溜息なんかついて。幸せ逃げてしまうよ?」
「これ以上逃げる程の幸せ、うちにあるんかな」
「随分ネガティブやなぁ...ボクが慰めよか?」
「間に合うてます、お気遣いアリガトウ」
「ははっ最後めっちゃ棒読みやん」
「気のせい気のせい」
ああ、そうそう。
彼氏の裏切り行為とは他に、もうひとつ頭を抱えていることがある。
「相変わらず素っ気ないなぁ。ボクのこと嫌い?」
「別に嫌いなわけじゃ...」
「ほな好きってことやな?」
「まあ友達としては」
「両想いで嬉しいわ」
「...ははは」
この会話相手こそ現在進行形で増長しつつある悩みの種。
端的に言うと彼から猛アプローチを受けている。
ちなみに今はその相手と帰路を共にしている状況なのだが、これは言い訳させてほしい。
私と彼の所属する委員会が開かれたこと、体育館の点検作業によって会議終了前に彼の部活は切り上げられていたこと。おまけに帰る方向まで同じ。
暗くなるし危ないからと諭す様に言われては、断ることなど出来なかった。
「土屋君、前も言うたけど困るよ」
「なにが?」
「...好きとか両想いとか」
「ええやん、友達としてなんやろ?」
「でも彼氏に悪いし」
「ふーん?」
「ふーん、て...他人事みたいに」
「事実そうやからなぁ。少なくとも上田さんの彼氏君とは友達ちゃうし」
「えっそうなんや」
「知らんかった?」
「男子って割とみんな友達なんや思てて」
「ないない」
「...普通に考えたら当然か」
「女子のが友好関係広いやろ」
「うーん...人によるんちゃう?」
「どっちもどっち、てことやな」
「せやね」
二人が友達関係でないことに少し安堵する。さすがにこれ以上複雑な人間関係を築きたくはない。
他愛無い話を続けるうちに大通りへ差し掛かる。
学生や仕事を終えた大人が多く行き交うような道。暗くなってきたとは言え、酔っ払いや素行不良者達が屯う時間帯でもない。自宅は通り沿いに進めばすぐだ。
「土屋君、もうここでええよ」
「ホンマに?」
「うん、送ってくれてありがとう」
「ボクがしたくてやったことやから」
「まあそやけど」
「そんなすんなり引かんでも」
「この手の言い合い終わりが見えへんから先手打っとかなね」
「残念やなぁ。上田さんとのお喋りやったら永遠でもかまへんのに」
「はいはい」
「自分、あしらい方慣れてきたなぁ」
「せやろ?」
軽口を叩くものの、下手に食い下がらないのが彼の良いところだと思う。弁えていると言うか、線引きが出来ていると言うか。
だからこそ扱いに困るのもまた事実。
「またね、土屋君」
「また明日」