知らないことを知った日
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「待った?」
「全然。ボクも今来たとこ」
「お返しなんか気にせんでええのに...なんや悪いわ」
「気にせんといて。ボクかて休みに呼び出してもうたし、おあいこや」
「うーん...なら、ええか」
これからデートです、みたいな会話。
でも彼とは友人関係。
高校を卒業して別々の大学に行くことになっているものの、連絡を取り合うのは以前と変わらない。
まあ卒業したのついこの間だけど。
ちなみに今日はバレンタインのお返しを渡すからと呼び出された。
気を遣わせて申し訳ないとは思ったけれど、新生活がスタートすればこうして会うことも難しくなるかもしれないから、と言われては断れない。
もう一度言うが、彼とは友人関係である。
「はい、お返し」
「わざわざありがとう」
「毎年同じので芸がないやろ?」
「んーん、これ好き」
土屋君のお返しは三年連続で飴だ。
彼は芸がないと言うけれど、美味しいのはもちろんのこと、透明な小瓶からのぞく飴玉がキラキラして見た目にも楽しい。フレーバーだって毎年違う。
「黄色...レモンかパイン?あ、案外バナナとか」
「食べて確かめてみ?」
言われるまま一つ取り出し口に放り込むと、甘さと独特の酸味が広がった。
「... レモン!」
「正解」
「これホンマ美味しい。ありがとう土屋君」
「喜んでもらえてなによりや。ああ、そや上田さん...ホワイトデーのお返しの意味って知っとる?」
「全然」
「そやろなぁ」
「例えばどんなん?」
「うーん...」
クッキーは友達、マカロンは特別な人、マシュマロはお断りなどがあり、女性がチョコレートと共に込めた気持ちを男性側もお菓子を通じて返すらしい。
「いろいろあるんやなぁ」
「昔と今で意味が違うもんもあるし、意味知らんと返す人もおるけどな」
「土屋君詳しいなぁ」
「せやろ?...それと」
「それと?」
「それにもちゃんと意味あるで」
土屋君の視線は私の手に注がれている。
「これにも?どんなん?」
「飴は固い、なかなか溶けん、あと甘いやろ?」
「うん」
「関係が長続きする、崩れ難い」
「うんうん」
「あと、甘い関係を望む」
「...うん?」
「端的に言うたら好きってことや」
そう言って土屋君は柔らかく微笑んだ。
今しがた受けた説明を頭の中で整理するが、理解すればするほど逆に謎は深まるばかり。
そんな心情を知ってか知らずか、彼は更に続ける。
「味によって意味も変わってくるんや。メロンはデートに誘う、リンゴは運命の相手。で、レモン味の飴は真実の愛」
メロン、リンゴ、そしてレモン。今まで彼からお返しに貰った飴のフレーバーだった。
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