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暗殺×黒バス

 
 浅野はいつも通り本人の了解を得ずに当たり前のように榊原の席に座って架純と向きあった。

 「今日は何だか機嫌が良いね。やはり球技大会が楽しみなのかい?」

 「あぁ、思いっきりバスケができるからな」

 無表情を装っているが、架純からは確かに喜びが滲み出ていた。架純が一番好きなスポーツはバスケだ。榊原が言うには、よく架純の兄と一緒にやっていたらしい。

 「架純のバスケを見るのは初めてだな」

 「架純は凄く上手だよ。きっと僕でも彼女には勝てない。架純さん、応援に行かせて貰うよ」

 「…そう、ありがと」

 それだけ言うと、架純はカタンと席を立って教室を出て行ってしまった。一方、取り残された浅野は架純がお礼を言ったことに動揺していた。

 「架純に感謝されたの、初めてだ…」

 「浅野くんって、以外とウブだよね」

 浅野は問答無用で榊原の腹に拳を入れた。

 * * *

 ブザービートと共に架純の3Pが決まる。結果は言うまでもないだろう。トリプルスコアの差を付けての圧勝だ。

 「架純、お疲れ」

 「赤司さん、流石だね」

 「架純さんの3P、美しかったよ」

 「トリプルスコアだなんてやるなぁ」

 「お疲れ様、赤司」

 浅野、荒木、榊原、瀬尾、小山。五英傑が皆、次々に架純に労いの言葉を掛ける。架純にとって勝利することが当然であっても、A組を優勝に導いたのは間違いなく架純だからだ。A組は元々、女子の人数が極端に少ない。クラスに40人も居るにも関わらず、女子の人数はたったの5人。ぎりぎりバスケができる人数だ。
 控えの選手が居ないため、たったの通常の半分の時間で行われた20分間のゲームとはいえ、連続で2試合もすれば当然疲労も溜まる。そんな中で完璧なゲームメイクでチームを勝利へ導いたのだ。

 榊原曰く、架純のバスケの才能は架純の兄譲りらしい。驚異的に頭が良いからこそこんな芸当をやってのけるのだ。

 「本当に来ていたのか」

 「来ると言っただろう?僕が約束を破るとでも?」

 浅野の言葉に架純はふっ、と笑みを零した。

 「いや、お前なら来るだろうとは思っていた。だが五英傑全員が来るとは思っていなかったのでな。少々驚いているだけだ。ありがとな」

 素直にお礼を言う架純に朝教室で話をしていなかった三人がポカンと口を開ける。

 「赤司がお礼を言った…」

 「月が爆発するかも…いやもうしてたわ…」

 「赤司さんってツンデレだったのか…」

 架純はツンデレと言った荒木を睨みつける。荒木はすぐに口を噤んだ。賢明な判断だ。教室に戻った瞬間に、バタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。やって来たのは女子バスケ部のマネージャーだった。
 マネージャーは架純を見ると勢い良くスライディング土下座をした。

 「架純様!!私たちにお力を貸して頂けませんか!?」

 「…は?」

 架純は状況が理解できないのか、ポカンと口を開けている。架純のこんな表情は初めて見る。

 「実は…」

 マネージャーの口から出た言葉は到底信じられないものだった。
 エキシビションマッチと称したE組いじめの一貫として、女バスがE組を叩きのめすはずだった。だか実際は女バスが押されており、このままでは危ういんだとか。

 「架純様!!ご無礼は承知の上です!!ですがこのままでは…。お願いします!!E組とのエキシビションマッチに出て頂けないでしょうか!!」

 「…私は勝利以外には興味ない。女バスの勝利を約束しよう」

 「ありがとうございますっ!!」

 勢い良く教室を飛び出して行ったマネージャーに架純はため息を吐いてから後を追った。残された五英傑は視線を交わす。

 「どうする?」

 「決まっている。見に行く一択だ。行くぞ」

 架純と五英傑が体育館へと来た時点で、試合は残り8分だった。8分で得点差は10点。E組がリードしている。

 「女バス、タイムカード!!」

 タイムカードを取って、架純の元へやって来た女バスの選手達。架純は仁王立ちをして女バスをジロリと見ている。その様子はさながら女王のような風格さえあった。
 生まれながらにして人の上に立つ存在というのは彼女のような事をいうのだろう。

 「マネージャーにも伝えたが、私が出る以上勝利以外は有り得ない。ゲームメイクは全て私がやる。
 絶対に勝つ。だから必ず私を信じて最後までゲームをして欲しい」

 「はいっ!!」

 厳しい顔をしていたが一転、架純は柔らかい表情になった。

 「お前達の力は信用している。2年間、お前達が努力してきたことを私は知っている。よろしく頼むよ」

 架純のその言葉に明らかに女バスの空気が変わった。力が漲っていて、ものすごい闘気が漂っている。間違いなく今の女バスはさっきとは別物だ。
 試合に参加しない浅野でさえも架純の言葉は胸に来るものがあった。あらゆる面で人よりも突出している所謂天才であり、その美貌からも羨望や憧れの対象である架純に全幅の信頼を寄せられているのだ。浅野は羨ましい、だなんて場違いな感想を抱いてしまった。

 それに浅野はやらない、いや正確に言えばできない、興味深い指揮の上げ方だった。こんなにモチベーションを上げることなど、浅野にはできない。これに対抗できるのは浅野の父である理事長の洗脳くらいだろう。

 「お前達、勝つぞ!!」

 「はいっ!!」

 架純に付き従っている様はまるで統率された軍隊のようだった。E組の女子達も先程とは全く雰囲気が異なることに気がついたのか、眉間に皺を寄せたり、困惑したりしていた。だがE組のキャプテンである片岡メグだけは違った。
 臆すること無く架純の前に立つと、宣言した。
 愚かな女だ。浅野はその様子を冷たい目で見ていた。

 「勝利は私達E組が頂きます!!」

 架純はそれを冷たい目で見ていた。

 「君は賢いと思っていたが…残念だ」

 架純は片岡の肩に手を置くと、転ばせた。浅野はその光景にぞっと背筋が凍った。架純がこんなに冷たい目をしているのを見るのは初めてだった。

 「言っただろう、喧嘩を売る相手は選べ、と」

 悔しそうに顔を歪める片岡を一瞥すると、選手達に指示を出し始めた。それからの出来事は…やはり言うまでもない。架純は的確な指示とパス回しでいつも以上の力を女バスに出させ、自身も3Pシュートを10回以上決めて、ダブルスコアという大差を付けて圧勝した。

 「だから言っただろう。私が出る以上、勝利以外は有り得ない、と」

 そう言いながら不敵に笑う架純の姿が、浅野の脳裏から暫く離れなかった。
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