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poppy 第二章

 
 「愛だァ?夢だァ?若い時分に必要なのはそんな甘っちょろいもんじゃねーよ。
 そう…カルシウムだ。カルシウムさえ取っときゃ全て上手くいくんだよ。
 受験戦争、親との確執、気になるあの娘。とりあえずカルシウムさえとっときゃ全てうまく…」
 
 「いくわけねぇだろ!!いくらカルシウムとってたってなァ、車にはねられりゃ骨も折れるわ!」
 
 イチゴ牛乳を飲む銀時に、新八はブチ切れる。新八は車にはねられて足を骨折したのだ。万事屋一行はそのお見舞いに来ている。
 
 「俺もはねられたけどピンピンしてんじゃねーか。毎日コイツ飲んでるおかげだよ」
 
 「イチゴ牛乳しか飲めないくせにエラそーなんだよ!!」
 
 雛菜は銀時からイチゴ牛乳を回収する。
 
 「ちょ、雛菜!?なにしてんの?」
 
 「こんなん飲んでるからいつまで経っても血糖値が下がらないんだよ?それに一日一杯までって言ったでしょ」
 
 「俺は一杯じゃ無くていっぱい飲みたいんだけど!!」
 
 雛菜からイチゴ牛乳を取り返そうとした銀時は大声を張り上げる。
 
 「やかましーわ!!他の患者さんに迷惑なんだよ!!今まさにデットオアアライブをさまよう患者さんだっていんだよボケが!!」
 
 「あ…すんません」
 
 銀時よりも更に大きな声で注意してきた看護婦に銀時は気のない謝罪をする。
 
 「オイオイ。エライのと相部屋だな」
 
 「ええ。もう長くないらしいですよ」
 
 新八は銀時の言葉に頷く。
 
 「僕が来てからずっとあの調子なんです」
 
 「その割には家族が来てねーな」
 
 銀時は雛菜を見て、ハッとしたように俯いた。
 
 「あ…わりぃ」
 
 銀時の様子を見て雛菜は困ったように笑う。
 
 「なんで銀ちゃんが謝るの」
 
 「いや…」
 
 新八と神楽は二人の会話についていけずに首を傾げる。
 
 「二人とも何の話してるアルカ」
 
 「何でもないよ」
 
 雛菜はニコリと笑っているが、これ以上はあまり踏み込んで欲しくなさそうだったので、二人とも大人しく引き下がる。
 
 「そろそろ行くさ。万事屋の仕事もあることだし」
 
 銀時は気まずい空気に耐えられなかったのか、椅子から立ち上がった時だった。
 
 「万事屋ァァァァァ!!」
 
 先程まで話の渦中にいた死にかけだったはずの老人がいきなり飛び起きたのだ。
 老人の傍に控えていた医者は驚きのあまり絶叫する。
 
 全員が驚く中、老人はよろよろとした足取りで万事屋一行に近づいていく。
 
 「今…万事屋って…言ったな…。それ何?なんでも…してくれんの?」
 
 「いや…なんでもって言っても死者の蘇生は無理よ!!ちょっ…こっちくんな!!」
 
 銀時達はジリジリと躙り寄ってくる老人に後ずさる。
 叫ぶ銀時の前に老人は簪を目の前に突きつけた。
 
 「コ…コレ。コイツの持ち主探してくれんか?」
 
 そう言って老人は万事屋に人捜しの依頼をしたのだ。
 
 
 
 【べちゃべちゃした団子なんてなぁ、団子じゃねぇバカヤロー】
 
 
 
 銀時、雛菜、神楽は聞き込みをするために、当時団子屋があった近くの団子屋を訪れていた。
 
 「団子屋『かんざし』?そんなもん知らねーな」
 
 団子屋の店主に聞くも、店主は聞き覚えがないようだった。
 
 「昔この辺にあったってきいたぜ」
 
 「ダメだ俺ァ三日以上前のことは思い出せねェ。それよりよォ銀時。お前たまったツケ払って行けよ」
 
 「銀ちゃんまたツケためてるの?」
 
 雛菜は呆れた目で銀時を見る。銀時はさり気なく目を逸らしながら聞かなかったことにする。
 
 「その『かんざし』で奉公してた綾乃って娘を探してんだ。娘っつっても五十年も前の話だから今はバーサンだろーけどな」
 
 銀時は団子を食べながら話し続けた。
 
 「…あれ?」
 
 「どうしたー?雛菜」
 
 雛菜はその言葉に顎に手をを当てて考え込む。しかし思い出せなかったのか、「何でもない」と首を横に振った。
 
 「ダメだ俺ァ四十以上の女には興味ねーから。どうせならお雛菜みたいに若くて綺麗なねーちゃんが良いから」
 
 どう反応したら良いのか分からずに雛菜は曖昧に笑う。神楽は店主の発言を聞いておかしな所に食いつく。
 
 「お雛菜って、お雛様みたいアル」
 
 「てめーは黙ってろ」
 
 ゴス、と銀時は神楽にチョップを入れる。
 
 「それよりよォ銀時。お前たまったツケ払っていけよ」
 
 万事屋一行はそれ以上話が聞けないと分かったので、そそくさと退散した。
 
 「…定春使って探せば良いアル」
 
 打つ手がなくなった銀時達は神楽の発言を採用し、定春に簪の匂いを嗅いでもらい探すことにした。
 
 定春は簪の匂い、そして地面の匂いを交互に嗅ぎながら件の娘を探す。銀時はその非生産的なやり方に顔を顰めた。
 
 「オーイ。さすがに無理だろコレ。五十年も経ってんだ。匂いなんて残ってるかよ」
 
 「分からないアルヨ。綾乃さんもしかして体臭キツかったかもしれないアル」
 
 「バカ。別嬪さんってのは理屈抜きで良い匂いがするものなの。雛菜みたいにな」
 
 銀時は雛菜の肩を抱き寄せて雛菜の首筋に顔を埋める。雛菜はいきなりのことに身体を硬直させる。神楽はその光景を見てぶちギレながら銀時に跳び蹴りをかます。
 
 「グハッ!!」
 
 「テンメェェェ!!雛菜姉に何やってるアルカ!!ああん?」
 
 神楽は神楽の蹴りをまともにくらって倒れた銀時の上に馬乗りになって胸倉を掴む。ハッとした雛菜は慌てて神楽を止める。
 
 「かっ、神楽落ち着いて!!」
 
 「大丈夫アル!!雛菜姉にセクハラした奴は私が全員ぶっ殺すアル!!」
 
 「私は大丈夫だから!!」
 
 神楽は雛菜の発言にヒートアップして更に銀時をぐらぐらと揺さぶる。銀時はもう白目になって半分意識を飛ばしている。
 
 「そういう事いう人が結局泣き寝入りすることになるアル!!ちゃんと警察に突き出さなきゃダメアル!!」
 
 「分かった、分かったから銀ちゃんを放してあげて!!」
 
 雛菜が必死に宥めると、神楽は渋々銀時から手を離した。やっと開放された銀時は咳き込みながら辺りを見渡す。
 
 「アレ?定春ドコ行ったんだ?」
 
 「あ…本当だ」
 
 定春は三人の側を離れて、スナックお登勢の前にお座りをしていた。
 
 「オイ定春!お前家戻って来てんじゃねーか!!散歩気分かバカヤロー!!」
 
 定春はスナックお登勢の扉をバンバンと前足で叩く。
 
 「オイまさか…」
 
 中から出てきたのは当然のことながらお登勢。
 
 「なんだよ。今日はえらく早いじゃないのかィ、雛菜。まだ店やる時間じゃ無いよ。あたしらは夜の蝶だろ」
 
 雛菜はポン、と手を叩いた。
 
 「そうだ、どこかで聞いたことあると思ったらお登勢さんだ」
 
 「何の話だい?」
 
 話が見えないお登勢を横目に、神楽と銀時は顔を見合わせる。
 
 「いやいやいや、コレはないよな」
 
 「ナイナイ」
 
 「間違っても綾乃ってツラじゃねーもんな」
 
 アハハ、と笑う銀時と神楽にお登勢は不思議そうな顔をする。
 
 「何であたしの本名知ってんだィ?」
 
 銀時は信じられずに真顔になって叫ぶ。
 
 「ウソつくんじゃねェェェ!!ババア!!おめーが綾乃のわけねーだろ!!百歩譲っても上に『宇宙戦艦』がつくよ!!」
 
 「メカ扱いかァァァ!!」
 
 「銀ちゃん、昔お登勢さんは男どもが取り合うほどの美人だったんだよ」
 
 雛菜の発言にお登勢はフッと笑う。
 
 「なんだィ。今は美人じゃないってのかィ?」
 
 「もちろん今もお美しいです」
 
 即座に答えた雛菜に神楽と銀時は呆れた顔をする。
 
 「雛菜、悪いことは言わねぇから眼科行け」
 
 「失礼だなオイ」
 
 お登勢はため息をつきながらも、名前の説明をする。
 
 「お登勢ってのは夜の名…いわば源氏名よ。私の本名は寺田綾乃って言うんだィ」
 
 「なんかやる気なくなっちゃったなオイ」
 
 「何嫌そうな顔してんだコラァァァ!!」
 
 嫌そうな顔をする銀時と神楽にお登勢はブチ切れる。
 その時、お登勢の店の電話がなった。
 
 「あ、私が出ます」
 
 雛菜は電話に出ようとしたお登勢を止めて電話に出る。電話の相手は新八だった。
 
 「あ、もしもしお登勢さん!?銀さんはいますか!?」
 
 「銀ちゃんならここにいるよ」
 
 「あ!!雛菜さんでしたか!!早く来て下さい!!もうあのおじいさんが危ないんです!!」
 
 「!!」
 
 
 
 * * *
 
 
 
 新八の電話を受けた四人は定春に乗って、老人の病室の窓に突っ込んだ。
 
 「ギャァァァ!!」
 
 突然のことに驚く医者をよそ目に、銀時は定春から降りて老人に近づく。
 
 「オイじーさん。連れてきてやったぞ」
 
 「い゙!?お登勢さん!?」
 
 お登勢を見た新八はまずいものでも見たかのような表情をする。老人は新八の声に反応したのか、ピクリと動いてうっすらと目を開ける。
 何の言葉も発しない老人の頭を銀時は叩く。
 
 「オイ聞いてんのかじーさん」
 
 「ちょっ、何やってんの君ィィィ!?」
 
 医者は銀時を止めるが、銀時は全く気にせずに老人に話しかける。
 
 「かんざしはきっちり返したからな…。見えるか?じーさん」
 
 老人の前に現れたのは、例のかんざしを挿したお登勢。
 老人はお登勢を見ると涙を浮かべながら笑った。
 
 「…綾乃さん。やっぱアンタかんざしがよく似合うなァ…」
 
 綾乃はニッコリと笑って、老人の手を握った。
 
 「ありがとう」
 
 
 
 * * *
 
 
 
 病室を出て帰路に着いている時、銀時はお登勢に尋ねた。
 
 「ばーさんよォ。アンタひょっとして覚えてたってことはねーよな?」
 
 「フン、さあねィ」
 
 お登勢は簪を揺らしながら笑った。
 
 「さてと…団子でも食べに行くとするかィ」
 
 その時、銀時にはお登勢が若いときの姿に見えた。銀時は目をこすりながら曖昧に返事をした。
 
 「ん…ああ」
 
 雛菜は銀時の様子を見てクスリと笑い、定春の頭を撫でた。
 
 「変な銀ちゃん」
 
 「アンッ!!」
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