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poppy 第一章


 
 「…ん、銀ちゃん!!」
 
 ぐーぐーと眠りこけていた銀時は、雛菜の声で目を覚ました。どうやら今日も松陽の授業中に眠ってしまったらしい。くわっと銀時は欠伸をした。
 
 「…はよ」
 
 「おはよう…ってもうお昼だよ!」
 
 「んな細かいことは良いの。…で何?どしたの?」
 
 普段雛菜は銀時が寝ていても起こしたりしないので、何か用があるのだろう、と思い尋ねると雛菜はとても良い笑顔で答えた。
 
 「銀ちゃん!肝だめしやろうよ!」
 
 「ははは、駄目だよ。雛菜ちゃんにはまだ早いです!!銀さん許しませんよ」
 
 雛菜は引き攣った笑顔の銀時を見ると、ニヤリと笑った。
 
 「ふ〜ん…銀ちゃんオバケ怖いんだ〜。あーあ、銀ちゃんもいたら絶対楽しいと思ったのにな〜」
 
 「そんな風に煽っても銀さんは行きま…あれ?今『も』って言った?」
 
 「うん、皆で行こうって話になったの。松陽先生も一緒だよ」
 
 「あー!肝試し楽しみだなぁー!楽しみすぎて泣けてきたよ、うん。コレアレだからね、怖くて泣いてるとかじゃないからね。勘違いしないでよね」
 
 何ツンデレヒロインみたいな事を言っているんだ、と半目になる雛菜。しかし、肝試しが企画された意図を正確に理解した銀時はそんな雛菜の反応を気にしている暇は無かった。
 
 (誰だ肝試し企画した奴ァァ!!ぜってーアレだろ。雛菜に頼られたい♡とか思ってるだろ!あわよくば雛菜とのラッキースケベ狙ってるだろ!!)
 
 銀時は戦々恐々としながら、雛菜ははしゃぎながら、それ以外の松下村塾の生徒は胸に密かな野望を抱きながら。
 夜が更けていった。
 
 
 「皆さん、私の声が聞こえますか?これから肝試しを開催しますが、私との三つ約束事を覚えていますか?ハイ、銀時。言ってみてください」
 
 「押さない駆けない催さない」
 
 「あながち間違いではないですが、それは避難訓練の時にやって下さいね。正解は、私の側を離れない、雛菜に近づいてラッキースケベを狙わない、催さないです」
 
 「一個合ってるんかい!!一番違うと思ったわ!!」
 
 笑顔でニコニコと笑いながら雛菜の手を握る松陽に生徒のツッコみが炸裂した。
 
 「じゃあ行きましょうか。五右衛門、雛菜からあと一歩離れないと私の鉄拳が飛びますよ」
 
 渋々離れていった五右衛門とは反対に銀時は松陽に近づいて行った。
 
 「おや、銀時。恐いのですか?」
 
 「大丈夫だよ、銀ちゃん。心霊現象は科学的に説明できるから」
 
 「ちっげーよ!!」
 
 満月が暗く静かな林の中を照らしているので懐中電灯無しで歩ける。夜とはいえども、今は真夏。それなのに、その場にそぐわない冷気がそこら中に漂っていた。
 
 「何か寒くね…?」
 
 「そうかな?」
 
 「何も感じませんが…。やはり銀時、恐いのですね。私の左手、空いていますよ」
 
 「うるせェェ!!」
 
 銀時は憎まれ口を叩きながらも、しっかりと松陽の手を握った。
 
 「おばけが怖いとかじゃなくて…なんか違和感…?みたいなものがあって…。松陽、なんか隠してるだろ」
 
 銀時の言葉に松陽は目を見開いた。
 
 「おや、バレちゃいましたか」
 
 雛菜は睡魔に襲われて、ウトウトし始めた。この中で最も幼い雛菜が夜遅くまで起きているのは難しい。それがわかっていた松陽は、雛菜を右手だけで抱きたげながら、苦笑いをこぼした。
 
 「だって夜遅くに雛菜を連れ出すとか、雛菜のあの親父が許すと思えねーもん」
 
 「はは、違いないですね」
 
 松陽はそういって、子供達に向き直った。そしてあからさまな演技で芝居をぶっこいた。
 
 「あら?迷っちゃいましたね〜。あー、あんなところに民家がありますね。今夜はもう戻れそうにないので、あそこで一泊しましょうか」
 
 子供達が訝しるげな視線をおくるも、松陽は頑として目をあわせず、ほら行きますよ、と子どもたちを急かした。
 松陽に連れてこられた民家は森がだいぶ開けたところにあり、背の低い手入れのされた草原の中に真新しい家が、月明かりに照らされていた。
 
 「松陽、これ…」
 
 「ごめんくださーい」
 
 「おい」
 
 銀時にこれ以上言わせまい、と銀時に被せるようにして声を上げる松陽に銀時はイラッとした。
 
 「はーい!どちらさま…あら、良いオトコ…」
 
 中から出てきたのはピンクのフリルのエプロンを身に着けた、青髭が特徴的な厳つい男だった。
 
 「いや何でだよ、普通こういうのって髪の毛の長い白い着物を着た女性とか、見るからに怪しい老婆じゃねぇのかよ。怪しいは怪しいでも、何でオカマなんだよ」
 
 「コラ、銀時。たとえ本当の事でもそれは失礼ですよ」
 
 「先生が一番失礼です」
 
 「どっちもどっちだバカヤロー」
 
 不毛な言い争いをする松陽と銀時を止めたのはキレた青髭エプロンだった。
 
 「…まぁ良いや。おーい、坊主共。こっち来いや」
 
 しかしな子どもたちは怯えて動かなかった。
 
 「何してんだ。中入んなかったら獣に食われるかもしんねーぞ」
 
 「あなたにくわれるくらいなら、獣に食われたほうがマシです!!」
 
 「ざけんなガキ!!俺にんな趣味はねぇ!!」
 
 明らかに食べるほうの「食う」ではなく犯すのほうの「くう」と言われた青髭エプロンはブチ切れた。
 
 「まぁまぁ、さ…んんっ。取り敢えず皆さん中に入りましょう。この方が外で寝ずの番をして下さるそうですから」
 
 「おいテメェふざけんなよ」
 
 「じゃあ入りましょうか」
 
 松陽の言葉に安心した彼らは家の中に入っていった。子供達が全員中に入った後で自分も中に入ろうとした青髭エプロンは目の前でドアを閉めらた。
 
 
 
 ***
 
 
 
 松陽が貞操の危機から逃れ、安心して寝ていた子どもたちを起こしたのは、未明ごろだった。
 
 「おはようございます。それそろ時間ですよ、さぁ皆さん。外に出てください」
 
 嬉々として追い出す松陽に皆は何も言わなかった。
 雛菜は昨日肝試しの途中で寝てしまった事を悔やんでいた。
 
 「銀ちゃん、幽霊見た?」
 
 「見てねーよ。つーかんなモンいねーんだろ?」
 
 「いないとは思ってるけど、いてほしいなっていう願望もあるの!!」
 
 矛盾した雛菜の考えに笑っていると、松陽は全員に語りかけてきた。
 
 「さて、皆さん。月を見てください」
 
 え?と戸惑うも全員が月を見る。いつもと変わらない、綺麗な三日月だ。
 
 「これから皆さんに見ていただくのは、月食です」
 
 「えっ!?月食!?」
 
 その言葉に反応したのは雛菜だけだった。
 他の人はみんな頭にはてなマークを浮かべた。
 
 「月食というのは、太陽、地球、月が一直線に並んだときに月が欠けて見える現象のことです。」
 
 松陽の説明を聞きながら、全員月をじっと見つめている。
 
 「えー?欠けてるかな…」
 
 「私達が肝試しに出かけたときは、満月でした。ですが今は、」
 
 「三日月ですね!!時間をかけてゆっくり欠けていっているんだ…!!」
 
 「正解です、雛菜。さぁ皆さん。あと十分ほどで月は完全に見えなくなりますよ」
 
 それから十分間、はしゃぎ、目をキラキラさせて月を見る雛菜を見て、銀時は松陽の意図を理解してしまった。そして雛菜がどれだけ愛されているかも。
 
 「わぁー!!完全に見えなくなった!!」
 
 月はもう見えなくなり、あたりを照らすのは行灯の光だけになった。
 
 「先生、次に月が出てくるのはいつですか?」
 
 「あと一時間後ぐらいですね。皆さん、今のうちにご飯を食べてしまいましょう」
 
 そう言うと松陽と青髭エプロンは皆にカレーを配膳した。
 
 「おい、松陽」
 
 銀時が雛菜に聞こえないように松陽に話しかける。
 
 「これ企画したのって、あいつの親父だろ」
 
 「正解です、銀時。誕生日プレゼント、だそうです」
 
 雛菜はどうやら理科に興味があるようですから、と笑う。銀時は半目になった。
 
 「肝試しなんてくだらない嘘つきやがって…」
 
 「良いじゃないですか、面白いんですから。それに、本当に出たでしょう?」
 
 「まぁ、妖怪は出たけど…」
 
 銀時が青髭エプロンを見ながら渋い顔をする。雛菜は青髭エプロンと何故か楽しそうに話している。
 
 「え?…あぁ…、あれ佐吉さんですよ」
 
 「オイ!!いい歳こいたおっさん共が何やってるんだ!!」
 
 松陽は何故かポンポン、と銀時の頭を撫でると皆のお皿を回収していった。
 
 「…あれ?」
 
 そのお皿の数の合計は全部で十枚のはずが、何故か十一枚あった。
 
 「まさか、ね…」
 
 銀時は呟くと、帰りの支度をするみんなの元へと駆けていった。
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