白家騒々篇
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「泉、お前は将来何になりたいのだ?」
お父様の問いに、僕はお父様に手を伸ばしながら笑顔で答える。
「僕はお父様みたいな大将軍になりたいです!!誰もが憧れる、天下の大将軍に!!」
「…そうか」
お父様は少しだけ笑うと、僕の頭をゆっくりと撫でた。頭から退いていくその温もりを惜しく感じて、じっとお父様の手を見つめる。お父様は私の視線に気がついたのか、自分の右手を見つめていた。
「右手がどうかしたの?」
「…いや、随分と血が付いてしまったと思ってな」
お父様の言葉に首をかしげる。お父様の手には赤色などついていない。僕よりも少しだけ日に焼けた肌色だ。
「やはり私は多くの者を殺しすぎた」
「それが戦争なんじゃないの?王騎将軍がそう言ってたよ?」
「戦争にもやってはいけないことがあるのだ。私は禁忌を犯してしまった」
僕はお父様が戦っている姿は見たことが無いが、他の六大将軍から話を聞く限りは兎に角強くて、圧巻の一言に尽きるらしい。連戦連勝で、向かうところほぼ敵無し。お父様は敵の能力を図って作戦を変え、奇策を無限に繰り出すと言われている。そんなお父様とまともに渡り合える敵将は、趙国三大天の廉頗将軍くらいのものだそう。その廉頗将軍をもってして「正真正銘の怪物」と言わせたらしいのだ。お父様の強さは一重に六大将軍である自負があるからだ。そんなお父様が弱音のような言葉を吐いた事に驚きを隠せない。
僕が産まれてから程なくして、戦に出ることが無くなったらしいが…もしかするとお父様が言っていた『禁忌』が関係しているのかもしれない。ふとそんな事を思った。
お父様の言う、その『禁忌』の内容を僕は知らないけどお父様は本当に後悔しているように見えた。聞きたい。けれども聞いてはいけないような気がするから聞けない。前に王騎将軍とか摎様に聞いた時、凄く言いにくそうな顔されたし。
「白泉、目標があることは素晴らしい。…だが、お前は戦には出るな」
「…ほえ?」
驚きの余り随分と間抜けな声が出てしまったが、お父様は僕の奇声を気に留めることなくいつになく真剣な顔付きで僕の背筋も自然と伸びた。
「お前は戦に出るには優しすぎ、そして甘すぎる。お前がもし趙国と戦ったとき、お前のその身にお前が想像もできないほどの憎悪が降りかかる。その時お前は間違いなく潰れる」
お父様にとって僕はお母様の忘れ形見なのだろう。そのお陰で、僕は相当好きにやってきたし、お父様も僕の行動を咎めたことは一度だってなかった。だからお父様に僕の言葉を否定されたのは初めてだった。
なんでそんな事をいうの、という言葉が口から出そうになるのを必死に抑えながらお父様を見る。お父様があまりにも真っ直ぐ見ていたものだから、僕は少したじろいでしまった。お父様の真顔はちょっと…いや、かなり怖い。目がギョロッとしてるから。
「戦場はお前が想像しているよりずっと厳しい。もしお前が女であることを知られたら…私はその事が一番恐ろしい」
「お父様…」
ぎゅっと抱きしめてきたお父様の身体が震えているのを感じた。お父様が本気で僕を心配していることが伝わってくる。でも。
「僕はお父様のお役に立ちたい。お父様の隣で、一緒に戦いたい!」
心の内を明かすとお父様は僕の身体を更にぎゅっと抱きしめた。ちょっと苦しい。でもお父様が僕を愛してくれていることが伝わるから、凄く嬉しい。僕の肩に顔を埋め、身体を震わせるお父様の頭をゆっくりと撫でる。お父様はきっと、疲れてしまっているんだ。
「僕、これからも頑張って稽古するから、絶対に僕をお父様の副官にしてください!」
約束だよ。お父様は僕の言葉に返事をすることなくただただ僕を抱きしめていた。
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