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poppy 第二章

 
 ここは真選組屯所。隊士達は先日起きた宇宙海賊春雨の船の沈没に一枚噛んでいたと噂される官僚、蛙型の天人である禽夜を警護するという任務にあたっていた。
 しかしここに真選組隊士ではない人物が一人。
 
 「葛城、何でてめーがここにいんだ」
 
 「『パパ』に『お返し』しなきゃいけないから」
 
 土方は雛菜のその発言を聞くと、顔を顰めた。
 
 「お前何したんだよ」
 
 「ちょっと情報を提供してもらっただけだよ」
 
 「…春雨の船沈没させたのおめーじゃねぇだろうな?」
 
 「沈没なんかさせてないよ」
 
 ニッコリと笑う雛菜に土方は訝しげな顔を向ける。
 
 「まぁいいじゃないですかィ、土方さん。お嬢がいれば隊士達の志気も多少なりとも上がりますよ。ほら見て下せェ、皆の顔」
 
 土方は沖田の言葉を聞いて、隊士達の顔を見る。確かに隊士達はいつもよりもずっとキリッとした顔をしていた。だが。
 
 「いや、全員警備する気ゼロなんだけど。警護対象じゃなくて、葛城しか見てないんだけど」
 
 隊士達はチラッと何度も雛菜を見ては顔を赤らめていた。中には真選組の隊服を身につけている雛菜に、興奮している奴もいた。
 
 「でも山崎はちゃんとやってまさァ。ミントンを」
 
 山崎は真剣な表情でバドミントンのラケットを素振りしていた。雛菜が山崎に向かって笑顔で軽く手を振ると、山崎は顔をタコのように真っ赤にさせた。
 
 「山崎ィィィ!!てめ何やってんだ!何顔赤くしてんだコノヤロォォォ!!」
 
 土方は山崎を殴りに行く。沖田はやる気なさげに縁側に座り込むと、文句を言った。
 
 「海賊とつるんでいたかもしれねぇガマを何で俺らが守らなくちゃイケないんでィ」
 
 近藤は沖田の隣に座り、沖田を諭した。
 
 「総悟よォ、あんまりゴチャゴチャ考えんのはやめとけ。目の前で命狙われてる奴がいたら、いい奴だろーが悪い奴だろーが手ェ差し伸べる。それが人間のあるべき姿ってもんだよ」
 
 近藤の言葉に雛菜は目を細める。近藤は向かいの回廊に禽夜が出歩いているのを見て、声を荒げる。
 
 「あ!!ちょっと勝手に出歩かんでください!!ちょっとォォォ!!」 
 
 近藤は禽夜を追い掛けに行く。
 
 沖田はため息を吐く。
 
 「はぁ~底なしのお人好しだ、あの人ァ」
 
 「ね、眩しくってしかたがないよ」
 
 「奇遇だな。俺もでィ」
 
 沖田がそう言ったとき、銃声が鳴り響いた。
 
 「局長ォォォ!!」
 
 その言葉に沖田も雛菜も弾かれたように走りだして近藤に駆けよる。
 
 「近藤さんしっかり!!」
 
 雛菜は近藤の様子を見ると、自身のジャケットを脱いで急いで患部を圧迫する。
 
 「局長ォォォ!!」
 
 禽夜は近藤を見下しながら吐き捨てた。
  
 「フン、猿でも盾代わりにはなったようだな」
 
 沖田はその言葉を聞いた瞬間抜刀しようと刀に手をかけるが、土方に腕を掴まれて止められる。
 
 「止めとけ。瞳孔開いてんぞ」
 
 
 
 【男にはカエルに触れて一人前みたいな訳の分からないルールがある】
 
 
 
 監察の山崎の報告により、禽夜を狙っているのは『廻天党』という過激攘夷派浪士集団であることが分かった。
 土方はそれを聞いて自身を責める。
 
 「今回のことは俺の責任だ。指揮系統から配置まで全ての面で甘かった。もう一回仕切り直しだ」
 
 「副長」
 
 隊士達は先程の禽夜の言葉に憤りをおぼえていたため、すっかりやる気をなくしていた。
 
 「あのガマが言ったこと聞いたかよ!あんな事言われてまだ奴を護るってのか!?野郎は人間のことゴミみてーにしか思っちゃいねー。自分を庇った近藤さんにも何も感じちゃいねーんだ」
 
 原田の言葉を受けて、山崎は土方にある物を見せる。
 
 「副長、勝手ですがこの屋敷、色々調べてみました。倉庫からどっさり麻薬が…。もう間違いなく奴ァクロです」
 
 山崎が見せた物は、転生郷だった。雛菜は逃がしていたか、と内心舌打ちをする。
 
 「こんな奴を護れなんざ、俺達のいる幕府は一体どうなって…」
 
 「フン、何を今更」
 
 土方は山崎の台詞をぶった切る。
 
 「今の幕府は人間のためになんか機能してねェ。んなこたァとっくに分かってたことじゃねェか」
 
 土方は立ち上がって襖に手をかける。
 「てめーらの剣は何のためにある?幕府護るためか?将軍護るためか?
 
 俺は違う。
 
 覚えてるか?あの頃学もねェ、居場所もねェ、剣しか脳のねェゴロツキの俺達をきったねー芋道場に迎え入れてくれたのは誰か」
 
 隊士達は土方の言葉に俯く。
 
 「廃刀令で剣を失い、道場さえも失いながら、それでも俺達を見捨てなかったのは誰か。
 無くした剣をもう一度取り戻してくれたのは誰か」
 
 雛菜は土方の言葉に聞き入る。土方の言葉は、近藤への感謝に溢れていた。
 
 「…幕府でも将軍でもねェ。俺の大将はあの頃から近藤だけだよ」
 
 土方はフゥ、と煙草をふかしながら笑う。
 
 「大将が護るって言ったんなら仕方がねェ。俺ァそいつがどんな奴だろーと護るだけよ。気にくわねーってんなら帰れ。俺ァ止めねェよ」
 
 そう言って土方は部屋を出て行く。雛菜は土方の後に着いて行った。
 
 「土方さん」
 
 土方は振り返る。
 
 「…葛城」
 
 「みなさん、近藤さんを本当に尊敬してらっしゃるんですね。どうりで真選組は強いわけだ」
 
 雛菜の言葉に土方はフッと笑った。
 
 「護りたい奴がいれば自然と強くなるもんよ」
 
 「そうですね」
 
 二人が外に出ると、そこには沖田と、沖田によって磔にされて足元に火を焚かれた禽夜がいた。
 
 「何してんのォォォォォ!!お前!!」
 
 「大丈夫大丈夫。死んでませんぜ。要は護れば良いんでしょ?これで敵誘き出してパパッと一掃。攻めの守りでさァ」
 
 「貴様ァ!!こんなことしてタダで済むと…モペッ」
 
 沖田は怒鳴りつける禽夜の口に薪を突っ込む。
 
 「土方さん。俺もアンタと同じでさァ。早い話、真選組にいるのは近藤さんが好きだからでしてねぇ。でも何分、あの人ァ、人が良すぎらァ。他人の良いところ見つけるのは得意だが、悪いところを見ようとしねェ。
 俺や土方さんみたいな性悪がいて、それで丁度良いんですよ、真選組は」
 
 土方は沖田の話を聞くとフン、と笑った。
 
 「あーなんだか今夜は冷え込むな…。薪をもっと焚け総悟」
 
 「はいよ!!」
 
 沖田は珍しく土方に素直に返事をする。
 雛菜はあるものを見てにんまり笑う。
 
 「どうやらおいでなさったようですよ」
 
 雛菜がそう言ったと同時に、廻天党の浪士たちが禽夜の屋敷の門に現れた。三人は刀に手をかける。
 
 「天誅ぅぅぅ!!奸賊めェェ!!成敗に参った!!どけェ、幕府の犬ども。貴様らが如きにわか侍が真の侍に勝てると思うてか」
 
 雛菜はその言葉を聞くや否や、天誅と書かれたはちまきを着けた浪人の懐に入る。
 
 「なっ!!」
 
 「お前達が真の侍?馬鹿言うな。真の侍っていうのは、弱き己を律し、強き己に近づこうとする。自分なりの美意識に沿って精進する。そんな志を持つ人のこと」
 
 雛菜はその男の顔をグーで思いっきり殴りつける。
 
 「お前ごときが真の侍を語るな」
 
 男は後ろにいた浪士達を巻き込んで派手にぶっ飛ばされた。
 
 「全く、喧嘩っ早い奴よ」
 
 撃たれて寝込んでいたはずの近藤の声が響く。
 
 「雛菜ちゃんに遅れをとるな!!バカガエルを護れェェェ!!」
 
 近藤の一声に隊士達の士気は上がる。
 
 「いくぞォォォ!!」
 
 
 
 * * *
 
 
 
 廻天党の浪士達を捕まえ、禽夜を守り抜いた真選組は屯所へ戻った。松平に言われた『お返し』、即ち禽夜を護るという仕事が終わった雛菜はその足で万事屋へ帰ろうとした。しかし土方に止められる。
 
 「待て、葛城」
 
 雛菜はゆっくりと振り返る。
 
 「何でしょう、土方さん」
 
 「帰るんだろ。必要ないとは思うが、送っていく」
 
 「一言余計ですけど、ありがとうございます」
 
 雛菜はニッコリと笑って、素直に送って貰う。土方はずっと何かを聞きたそうにソワソワしていた。
 
 「土方さん。言いたいことがあるなら、どうぞ」
 
 雛菜がそう言うと、土方はギクッとした後に問うてきた。
 
 「お前のあの身のこなし、只者じゃねぇな。お前、何やってたんだ」
 
 疑るような土方の眼差しに雛菜は苦笑いをした。
 
 「まぁ剣術と合気道は幼い頃からやってましたけど、それ以外は特に何も」
 
 「にしては真剣慣れしすぎじゃねェか?」
 
 「私は居合術を使います。つまり、稽古も真剣で行うんですよ。真剣慣れしているのはそのためです」
 
 「あぁ、そういうことか」
 
 土方は雛菜の言葉に安心したように納得する。確かに雛菜の居合術は見事なもので、刀を抜いた素振りも見せなかったほどだ。
 
 「にしても何をやったらあんなに強くなるんだかね。もはや人外レベルじゃねぇか」
 
 雛菜は土方の問いに困ったように笑う。
 
 「人外レベルの人を師匠にもったら、ですかね?」
 
 「師弟そろって人外レベルたァ、そら恐ろしいな」
 
 土方はククッ、と笑う。気がついたらもう万事屋の前まで着いていた。
 
 「今度隊士達に稽古をつけてくれねェか」
 
 雛菜は目を丸くしたが、嬉しそうに笑った。
 
 「もちろん!先に言っておきますが、私はスパルタですからね」
 
 雛菜が不敵に笑うと、土方もまた不敵に笑う。
 
 「好都合だ。寧ろどんどんしばいてやってくれ」
 
 「後悔しないように気をつけて下さいね」
 
 後日、真選組の稽古に招かれた雛菜は、文字通り真選組隊士達が音を上げるぐらい厳しい稽古をつけたのだった。
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