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poppy 第二章

 
 万事屋一行はとある幕臣から娘を探す依頼を受けた。
 銀時、新八、神楽は娘が通っていたというクラブへ行くことに、一方雛菜は別のルートから探るために、彼らと別行動をとることにした。
 
 「あのクラブ、天人が多いから気をつけて。何かあったらすぐに逃げて」
 
 雛菜はその言葉を三人に伝えたが、それをキチンと聞いていたのは新八一人だけだった。
 
 
 
 【春雨篇】
 
 
 
 雛菜はその娘を探っていると、とある組織との繋がりが見えてきたため、それらのことに詳しい人物を訪ねていた。
 
 「春雨って最近巷を騒がせてるっていう?」
 
 「オウそうよ。天人によって構成される、銀河系最大のネットワークを持つ巨大な犯罪シンジケートだ。宇宙海賊春雨ってのが正式名称だったかな。最近じゃ転生郷っつー薬捌いてるってゆー噂もある」
 
 雛菜は顎に手を当てて考え込む。依頼人の娘の君子はその天人が出入りしているというクラブで、春雨から薬を買っていたのではないか、と推測したのだ。
  
 「まずいな…」
 
 ボソリと呟いた雛菜の肩を、『情報提供者』はがしりと掴む。
 
 「おいまさか雛菜ちゃんよォ…その組織に関わろうって言うんじゃねーだろうな!?」
 
 「ちょ、ちょっと『パパ』落ち着いて!!」
 
 「パパはおめーをそんな不良娘に育てた覚えはねぇぞ!?何だ!?パパが嫌いになったのか!?反抗期か!?」
 
 「違うから!!私が春雨に入る事なんてないから!!それにもしそうなら警察庁長官、松平片栗虎の前でそんなこと言わないよ!!」
 
 暴走しているパパ、もとい松平に雛菜は叫ぶ。攘夷浪士からは破壊神と恐れられている松平だが、娘分の雛菜には極端に過保護だ。
 
 「まぁそれもそうか…。まぁ何にせよ関わるんじゃねぇぞ」
 
 雛菜は松平の言葉には返事をせずに、ソファーから立ち上がった。
 
 「教えてくれてありがとう。今度『お返し』するから」
 
 松平はハァ、とため息を吐いた後、呆れながらもオウ、と言って軽く手を挙げた。
 
 「気ィつけろよ。先に言っておくが今回の『お返し』は高くつくからな」
 
 バレてるな、と雛菜は苦笑いしながらもう一度お礼を言って長官室を後にした。
 
 
 
 * * *
 
 
 雛菜は警察庁を出た後、すぐにクラブへ向かった。
 クラブの裏口から侵入しようとしたとき、上から何かが落ちてきた。
 
 恐る恐る近づき、それを覗き込んで息を呑んだ。
 
 「銀ちゃん…!!」
 
 銀時は左肩を負傷し、行方を追っていた公子を抱えていた。
 
 ガサッ
 
 音がした方を慌てて振り返ると、そこには刀を持った攘夷志士と思われる牢人が居た。
 その浪人は雛菜が帯刀しているのを見て、同胞だと思ったのか声をかけてきた。
 
 「その人…桂さんのご友人ですよね。よかったら俺が運びますよ」
 
 雛菜はさすがに一人で二人を運ぶのは難しいため、その牢人の手を借りて桂達のアジトへ運んでもらうことにした。桂は雛菜、そして銀時の様子を見て酷く驚いていた。
 
 「ひよこ!?それに銀時も…!!なぜお前達がここにいるんだ!!」
 
 桂は雛菜に事情を聞きながら、部屋を用意してくれた。
 
 「私も何が起こったのかはよく分からないんだ…。銀時達とは別行動だったから…」
 
 「にしても何故銀時はあそこにいたのだ」
 
 「依頼の関係であそこに行ったの。探している人がそこに出入りしてたみたいだから。あ、探してる人っていうのは銀ちゃんの隣に寝てるこの人ね」
 
 桂はそれを聞くと公子を見ながら眉をひそめた。
 
 「まさかこの人は春雨の関係者か…?」
 
 雛菜は銀時の患部を手当てしながら否定する。
 
 「いや、春雨って言うよりは薬…転生郷のほうの関係者だと思う。春雨から転生郷を買ってたんじゃないかな」
 
 桂は公子の顔を見て頷く。
 
 「確かにこの女子、顔色が物凄く悪い。物凄く土気色だ」
 
 「ヅラ、これはガングロっていうギャルのファッションだよ」
 
 雛菜は桂のボケに淡々と突っ込む。
 
 「何!?コレがファッションだというのか!?これのどこがオシャレなんだ!真っ黒黒助じゃないか!!ト●ロに出られるぞ!!」
 
 「いや、出られないよ」
 
 「んん…っ」
 
 「!!」
 
 銀時が軽く息を漏らしたので雛菜と桂は銀時を見る。銀時は大量の汗をかいて魘されている。
 
 「…昔の夢でも見ておるのか?」
 
 「昔?」
 
 雛菜が首をかしげると、桂はああ、と言いながら雛菜に説明した。
 
 「そうだな。雛菜は知らないのだったな。…俺達は攘夷戦争に参加していたんだ」
 
 その話をしてくると思わなかった雛菜は目を見開いた後で頷いた。
 
 「…うん、知ってるよ。ヅラも晋ちゃんも、銀ちゃんも…みんな参加してたんだよね」
 
 今度は桂が雛菜の言葉に驚いた。
 
 「知っておったのか」
 
 「そんな驚くこと?」
 
 「銀時が戦争のことを雛菜に話すとは思えないからな」
 
 「銀ちゃんから聞いたことは無いよ。ただ知り合いに攘夷戦争に詳しい人が居たから…」
 
 「そうなのか」
 
 桂は雛菜の言葉に納得して、話し続ける。
 
 「恐らく銀時は未だに多くの仲間を失ったことを後悔しているのだろう。本当にあの戦争は犠牲しか産まなんだ」
 
 雛菜は着流しの裾を抑えながら立ち上がる。
 
 「戦争って言うのはいつも為政者の都合でおきるもの。いつだって犠牲しか産まない」
 
 雛菜は桂を見下ろす。
 
 「ヅラは本当に今のまま攘夷活動を続けて、これ以上大切な人を失っても良いの?私はこれ以上大切な人達が死ぬのは嫌だよ」
 
 雛菜は桂の手を両手で握り、真っ直ぐと桂の目を見る。桂は静かに雛菜を見返した。
 
 「私は今いる大切な仲間を護るためにいる。銀ちゃん、新八、神楽…。もちろんヅラもだよ。私はヅラが死ぬ所なんて見たくない」
 
 桂は少し目を見開いて狼狽える。
 雛菜はすっと手を離して、襖へ近づく。
 
 「私はちょっと用事があるから…。銀ちゃんを見ててもらってもいい?」
 
 「…ああ」
 
 「ありがとう」
 
 雛菜はそう言うと、急いで部屋を出て行った。
 
 「…どんだプロポーズだな」
 
 桂は片手で顔を覆いながら呟いた。
 
 「やはり初恋の人には永遠に敵わないものなんだな。お前もそうだろう、銀時」
 
 「うっせぇ」
 
 銀時は顔を顰めながら答えた。
 
 
 
 * * *
 
 
 
 雛菜がクラブへ戻ると、そこに神楽も新八もいなかった。店にいた人に二人のことを尋ねると、春雨に連れて行かれていた、と教えてくれた。
 雛菜は宇宙海賊春雨の交通手段が船型の宇宙船であることを知っていたため、クラブから最も近い位置にある港へ来ていた。船には見張りの天人が一人。
 
 「どうやって潜入しよう…」
 
 「詮無きこと。ひよこも宇宙キャプテンになれば良いのだ」
 
 雛菜は急に後ろから話し掛けられたため、驚いて叫びそうになった。慌てて口を押さえながら後ろを振り返ると、そこには宇宙キャプテンの格好をした桂と銀時がいた。
 桂は眼帯を、銀時はペンで描いたらしい縫合の痕があった。
 
 「何それ。まさかとは思うけど…。変装のつもりなの」
 
 雛菜の発言に桂はドヤ顔をする。
 
 「どうだ。完璧な変装だろう?」
 
 「いや、まんま桂じゃない」
 
 「そのま●ま東みたいに言うな」
 
 「だれもそんな事言ってないよ。それにヅラに知事は無理でしょ」
 
 「大丈夫だ。マンゴーを売ることぐらい、俺にもできる」
 
 「おーい、なんの話してんだお前ら。ちなみに俺はヅラには宮崎県知事は無理でも発作●ンにならなれると思う」
 
 「銀時貴様!!俺を号泣議員と一緒にするのか!?」
 
 「あー、はいはい。分かったから!!もう東●原でも野●村でも良いから」
 
 「言っちゃったよ。本名言わないようにしてたのに」
 
 雛菜はヒートアップした謎の衆議院議員談義を強制的に終わらせる。雛菜は桂からマントだけ受け取り、着流しの上にそれを身につける。
 
 「よしっ、じゃあ行こっか」
 
 「お前それ全然宇宙キャプテンじゃなくね?髑髏とかもないし」 
 
 銀時のツッコミは無視しながら、三人は見張りに近づく。
 
 「あのー、すみませーん」
 
 「あ?何だお前ら」
 
 銀時が雛菜の背中を押して前に出すので、雛菜は仕方なくニッコリと作り笑いを浮かべながら見張りに話しかける。
 
 「私達、海賊になるのが子どもの頃からの夢なんです。だから私達も連れて行ってくれません?」
 
 見張りは雛菜を値踏みするように上から下まで眺めると、舌舐めずりをした。
 雛菜は吐き気がしたが、それを必死に抑えて営業スマイルを浮かべる。伊達に十数年もスナックで働いていない。そういう視線には慣れていた。
 
 「姉ちゃんだけなら良いけどよォ、男二人はダメだ」
 
 「何でだよ~。俺達も海賊になりてーんだよ~。俺達も連れてってくれよ~。な?ヅラ」
 
 「ヅラじゃないキャプテンカツーラだ」
 
 雛菜は何となく二人は強行突破しか無理そうだと察したため、見張りが二人に気を取られている内にさり気なく宇宙船の中へ入り、天人に出くわさないように気を付けながら進む。途中でフード付きの全身を隠せるくらい大きなマントを見つけたので、それを身につけてフードを深く被る。
 
 しばらく様子を見ていると、天人達がどこか一カ所に集まろうとしているのが分かったため、雛菜は天人に着いて行く。その先に出たのは甲板だった。
 
 「っ!!新八!」
 
 雛菜が見たのは天人に髪を掴まれている新八だった。
 雛菜は新八にすぐに駆け寄る。
 
 「大丈夫!?新八!!」
 
 「まさかその声…。雛菜さん!?」
 
 新八は驚きの声を上げる。天人達は急に現れた雛菜に驚き、戸惑っていた。
 
 「おい、お前桂の仲間か?」
 
 天人の一人が雛菜の米神に銃を突きつける。
 雛菜は一度瞬きをすると、一瞬でその銃を刀でバラバラに斬った。
 
 「なっ…!!」
 
 「速っ…。全然見えなかった…」
 
 驚いていた新八は思い出したかのように叫んだ。
 
 「雛菜さん!!神楽ちゃんが!!」
 
 雛菜は新八が指す方向を見る。すると神楽が板で後襟を引っかけられて、海の上に今にも放り出されそうになっていた。
 
 「神楽!!」
 
 「神楽ちゃんを離せ!!ここは侍の国だぞ!!お前らなんて出てけ!!」
 
 神楽をぶら下げていた天人はフッと新八をあざ笑った。
 
 「侍だァ?そんなもんこの世の中にはいねっ…!!」
 
 天人は言葉を失った。先程まで気絶していたはずの神楽が振り返ってニヤリと笑ったからだ。
 
 「ほァちゃァァァ!!」
 
 神楽は天人に跳び蹴りをする。しかしその反動で神楽の身体はゆっくりと海へ向かって落ちていく。
 
 「神楽!!」
 
 「神楽ちゃ…!!」
 
 身を乗り出す新八と雛菜に向かって神楽は笑った。
 
 「足手まといになるのは御免ヨ。バイバイ」
 
 「待てェェェ!!」
 
 その時、銀時の声が響いた。
 
 「待て待て待て待て待て待てェェェ!!」
 
 銀時は神楽をキャッチすると、そのまま甲板に突っ込んだ。
 
 「…いでで。傷口開いちゃったよ。あのォ、面接会場はここですか?」
 
 銀時は左肩を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
 
 「こんにちは、坂田銀時です。キャプテン志望してます。趣味は糖分摂取、特技は目ェ開けたまま寝れることです」
 
 「銀さん!!」
 
 「てめェ来てやがったのか」
 
 神楽を人質にしていた天人はつぶやく。
 
 ドドン
 
 爆発音が響く。船の中から天人が急いで出てきた。
 
 「陀絡さん!!倉庫で爆発が!!転生郷が!!」
 
 「俺の用は終わったぞ」
 
 桂が甲板へ両手に爆弾を持って出てくる。
 
 「あとはお前の番だ、銀時。好きに暴れるがいい。邪魔する奴は俺が除こう」
 
 「私も。銀ちゃんの邪魔はさせない」
 
 雛菜も自身の刀に手をかけて構える。
 
 「てめェは…桂!!」
 
 「桂じゃない!!キャプテンカツーラだァァァ!!」
 
 桂は天人達に爆弾を投げつける。雛菜は抜刀し、周りにいた天人を一掃する。
 
 「やれェェェ!!桂の首を取れェェ!!」
 
 「こっちの奴もだ!!コイツの首も取れェェ!!」
 
 雛菜が天人達を相手にしている間に銀時は陀絡を相手にする。
 
 「てめーら終わったな。完全に春雨を敵に回したぞ。今に宇宙中に散らばる春雨がテメーらを殺しに来るだろう」
 
 陀絡の言葉に銀時は刀に手をかけながら答える。
 
 「知るかよ。終わんのはてめーだ。いいか…てめーらが宇宙のどこで何をしようが構わねー。だが俺のこの剣、コイツの届く範囲は俺の国だ。
 無粋に入ってきて俺のモンに触れる奴ァ、将軍だろーが、宇宙海賊だろーが、隕石だろーがぶった斬る!!」
 
 銀時と陀絡は剣を交える。一瞬の攻防の末に勝負は決まった。陀絡はクク、と笑う。
 
 「オイ、てめっ便所で手ェ洗わねーわりに結構綺麗じゃねェか」
 
 陀絡はそう言うと、バタンと倒れた。
 
 
 
 * * *
 
 
 
 「アー、ダメっすね。ホントフラフラして歩けない」
 
 「日ぃ浴びすぎてクラクラするヨ。おんぶ」
 
 春雨を倒した後、文句を言って帰ろうとしない二人に銀時はキレる。
 
 「何甘えてんだ腐れガキども!!誰が一番疲れてんのか分かってんのか!!二日酔いの上に身体中ボロボロでも頑張ったんだよ銀さん!!」
 
 「僕らなんて少しとはいえヤバい薬嗅がされたんですからね!!」
 
 「付き合ってらんねー。俺先帰るからな」
 
 銀時は神楽と新八を置いた行こうとするが、二人は動かない。
 
 「いい加減にしろよコラァァァ!!上等だおんぶでも何でもしてやらァァァ!!」
 
 その言葉を聞くと、神楽と新八は銀時に飛びつく。
 
 「元気爆発じゃねーか、おめーら!!」
 
 銀時は二人を背負う。雛菜はフラリと銀時の横に現れた。
 
 「あ、お前ドコ行ってたんだよ」
 
 「ちょっと後片付けをね」
 
 銀時は少し顔を顰めたが何も言わなかった。
 
 「銀ちゃん私ラーメン食べたくなってきたヨ」
 
 「僕寿司で良いですよ」
 
 「バカヤロー、誕生日以外にそんなもん食えると思うなよ!!」
 
 銀時は面倒くさそうに呟いた。
 
 「…ったくよ~。重てーな、ちくしょッ」
 
 雛菜はクスリと笑って銀時に寄り添った。
 
 「私も今度は一緒に背負うよ」
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