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poppy 第二章

 
 「ただいまー」
 
 雛菜はいつも通りお登勢で働き終えてから万事屋へ帰ると、そこには見たこと無いほど大きな白い犬がお座りをしていた。
 雛菜は何も言わずに扉を閉めて考える。そして疲れがたまった結果、幻覚を見たのだという結論に至り、もう一度扉を開ける。
 やはり大きな白い犬が居た。
 
 「クゥーン」
 
 犬はゆっくりとした動きで、雛菜にすり寄ってきた。雛菜はそっとその犬を撫でる。モフモフとした毛の感触に雛菜は相好を崩した。
 
 「フフッ、可愛い」
 
 「アンッ!!」
 
 しばらくその感触を楽しんだ後、ブーツを脱いで家の中へ入る。
 犬は雛菜の後をてくてくと付いてきた。
 
 雛菜は寝室の襖を開けると、そこには部屋を散らかしたまま、だらしなくよだれを垂らしながら寝ている銀時が居た。スナックお登勢で働いた日は、雛菜はお登勢の所に止まっている。そのため普段銀時は寝室を一人で使っているのだが。
 
 「ちょっとこれはね…」
 
 銀時の周りにはエロ本やティッシュが転がっていた。
 
 「はぁ…」
 
 雛菜はため息を吐くと、すぐに扉を閉めて朝食の準備を始める。
 犬は雛菜に付いてこようとする。
 
 「ごめんね、危ないからここで待っててね」
 
 顎の辺りを撫でながら言うと、犬は大人しく座って気持ちよさそうに目を細めた。
 
 「あなたは良い子だね」
 
 最後に一撫でしてから台所へ行き、朝食を作り始めた。
 
 
 
 【疲れたときには酸っぱいものを】
 
 
 
 雛菜が味噌汁を作り終えたときに、新八が万事屋へやって来た。
 
 「おはよう、新八」
 
 「おはようございます、雛菜さん。お、今日は出汁巻き卵ですか!!良いですね!うわぁー大根おろしまで乗ってる!!」
 
 新八は美味しそうな卵焼きの匂いに、目を輝かせる。雛菜は新八があまりにも誉めるので嬉しそうに笑った。 
 
 「ありがとう。銀ちゃん起こしてきて貰っても良い?」
 
 「はい!分かりました!」
 
 雛菜は新八にフライパンと菜箸を渡す。新八は笑顔でそれらを受け取ると、カンカンと音を鳴らしながら起こしに行った。
 
 「銀さーん!!神楽ちゃーん!!起きて下さい!!朝ですよー!!」
 
 この起こし方を別名、フライパンドラムという。この音は意外と煩く、寝ている人の耳に響くのだ。
 
 「もう!!起きて下さい!銀さ…」
 
 新八が慌てて襖を閉める音がしたので酷い部屋の状況を雛菜に見せまいとしてくれたのだろう。
 雛菜はクスッと笑いながらご飯を運んだ。
 犬が近寄ってきたので、また撫でながら神楽が寝ている押し入れに声をかける。
 
 「神楽起きて。ご飯だよ」
 
 神楽はすぐに押し入れの襖を開けた。
 
 「雛菜姉、定春…おはようアル…」
 
 雛菜は神楽の発言に首を傾げる。
 
 「神楽、定春って誰のこと?」
 
 神楽はフワァ、と欠伸をしながら答える。
 
 「雛菜が触っているその犬のことアル」
 
 雛菜はマジマジと犬、もとい定春を眺める。
 
 「あなた定春って言うのね」
 
 「ト●ロか」
 
 銀時が起きてきたようで、雛菜にツッコミを入れる。
 
 「銀ちゃんおはよう。新八、銀ちゃんを起こしてくれてありがとね」
 
 雛菜が新八に微笑みかけると、新八はぶんぶんと凄い勢いで首を横に振った。
 
 「ぜっ、全然大丈夫です!!寧ろ僕が銀さんを起こしに行って良かったですよ!!ホント!」
 
 銀時は新八を後ろに向かせてヒソヒソ話をする。
 「バレる」とか、「絶対に言うな」などの単語が雛菜の耳に入ったが、知らないふりをして神楽に顔を洗ってくるように言う。
 
 「ねぇ、定春のご飯はどこにあるの?」
 
 相変わらず新八とコソコソ話している銀時に声をかけると、銀時はビクッと肩を揺らした後に冷や汗を流しながら笑顔で答えた。
 
 「定春のご飯なら押し入れの下に入ってるよ、ウン」
 
 「分かった。ありがとう」
 
 雛菜は定春の餌と餌入れを引っ張り出す。その間、定春はずっと銀時と新八を雛菜に近づけまいとするかのように唸っていた。
 
 「はい、定春。ご飯だよ」
 
 「ワンッ」
 
 定春は雛菜に頭を撫でられながら、餌を食べ始めた。
 
 「あー、定春可愛いー」
 
 雛菜が定春に癒やされていると、やけに静かなことに気がついた。
 何かと思い、後ろ振り返ると銀時と新八が信じられない者を見る目で雛菜を見つめていた。
 
 「雛菜さん…定春に何をしたんですか?」
 
 「え?何もしてないよ」
 
 銀時と新八は顔を見合わせる。
 
 「え?ありえませんよね?だって定春、僕たちにあんなに威嚇したり、噛みついたりしてきたんですもん」
 
 「いや!でも雛菜なら有り得るな…なんか雛菜って動物に好かれそうじゃん」
 
 「あぁ、確かにそうですね」
 
 二人が納得していると、身だしなみを整えた神楽が戻ってきた。
 
 「さ、みんなご飯食べましょ!新八も食べるでしょ?」
 
 「はい、頂きます!」
 
 四人はソファーに座って手を合わせた。
 
 「いただきます!!」
 
 「アンッ!!」
 
 全員銀時の方向を見る。銀時の頭には定春が噛みついていた。
 
 「誰が俺の頭を頂くんじゃねぇ!!」
 
 どうやら定春が銀時に懐くのはまだまだ先のことになりそうだ。
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