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poppy 第二章

 
 万事屋一行は妙に呼び出されてラーメン屋に来ていた。聞くところによると、妙はこの間から深刻なストーカー被害を受けているのだそう。
 
 「良かったじゃねーか。嫁の貰い手があってよォ。帯刀してたってこたァ幕臣か何かか?玉の輿じゃねーか。本性がバレないうちに籍入れとけ、籍!」
 
 「それどーいう意味」
 
 妙は銀時の顔をテーブルに叩きつける。
 
 「最初はね、そのうち諦めるだろうと思って大して気にしてなかったんだけど……。気がついたらね、どこ行ってもあの男の姿があることに気づいて。ああ、異常だって」
 
 妙がため息を吐いて話している中、銀時と神楽は時間内に食べ終えたらタダになるラーメンに夢中になっている。
 
 「ハイあと三十秒」
 
 「ハイハイラストスパート。噛まないで飲み込め神楽。頼むぞ金持ってきてねーんだから」
 
 「きーてんのアンタら!!」
 
 新八は話を聞かない銀時達に青筋を立てる。
 
 「二人は気にしなくて良いよ。私が聞いてるから」
 
 お冷やを飲む雛菜を見て、新八はホッと息をつく。
 
 「やっぱりまともに取り合ってくれるのは雛菜さんだけですよ。銀さんなんかろくに話も聞かないし」
 
 文句を言う新八に銀時は眉をひそめる。
 
 「んだよ。俺にどーしろっての。仕事の依頼なら出すもん出してもらわにゃ」
 
 銀時の発言に新八は半目になる。
 
 「銀さん。僕もう二カ月給料もらってないんスけど。出るとこ出ても良いんスよ」
 
 「え?雛菜からもらってんじゃん」
 
 銀時の発言に雛菜は眉を寄せる。
 
 「あれがお給料な訳ないでしょ。万事屋の仕事無いんだから。あれは私のポケットマネーだよ」
 
 「雛菜さんのはお小遣い、って形で頂いてるんですよ。それに雛菜さんも万事屋はアルバイトなんですから、給料をもらう側でしょう。それなのに僕たちにお金払ってくれるとか…。ホントもう雛菜さんには頭が上がらないですよ」
 
 新八はうんうんと頷く。
 
 「ホント駄目な幼馴染みでごめんね、新八」
 
 雛菜の発言に冷や汗をダラダラと流した銀時は急に立ち上がって大声を出した。
 
 「ストーカーめェェ!!どこだァァ!!成敗してくれる!!」
 
 すると向かいのテーブルの下から男が出てきた。
 
 「なんだァァァ!!やれるものならやってみろ!!」
 
 「ホントにいたよ」
 
 目が合った雛菜と男は、お互いの顔を見て目を丸くする。
 
 「こ、近藤さん!?」
 
 「あれ?雛菜ちゃん?なんだか久しぶりだねー」
 
 近藤は呑気に笑っているが、新八は焦る。
 
 「え!?雛菜さん知り合いなんですか?」
 
 「…あー、うん。まぁね」
 
 目を逸らす雛菜に新八は首を傾げる。
 
 「ストーカーと呼ばれて出てくるとは馬鹿な野郎だ。己がストーカーであることを認めたか?」
 
 「人は皆愛を求め追い続けるストーカーよ」
 
 近藤は銀時の問いに悪びれもせずに返す。
 
 「ときに貴様。お妙さんと先程より親しげに話しているが、一体どーゆー関係だ。うらやましいこと山のごとしだ」
 
 妙は銀時の腕にサラリと組んで微笑む。
 
 「許嫁ですぅ。私この人と春に結婚するの」
 
 「俺が結婚したいのは雛菜だけだ」
 
 妙は銀時の発言にボディーブローを入れる。銀時はぐはっと言いながら黙った。
 
 「もうあんな事もそんな事もしちゃってるんです。だから私のことは諦めて」
 
 近藤は妙の発言にブチ切れる。
 
 「あ、あんな事もこんな事もそんな事もだとォォォォォォ!!」
 
 「いや、そんな事はしてないですよ」
 
 新八が間髪を入れず否定するが、近藤の耳には入らない。
 
 「いやっ!!良いんだお妙さん!!君がどんな人生を歩んでいようと、俺はありのままの君を受け止めるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
 
 「愛してねーよ」
 
 紳士ぶってお辞儀をする近藤に妙は一刀両断する。
 
 「おい白髪パーマ!!お前がお妙さんの許嫁だろうと関係ない!!お前なんかより俺の方がお妙さんを愛してる!!決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」
 
 雛菜ははぁ、とため息を吐くとメールを打ち始めた。
 
 
 
 【粘り強さとしつこさは紙一重】
 
 
 
 四人は橋の上で河原で銀時が来るのを待っている近藤を見ていた。
 
 「よけいな嘘つかなきゃ良かったわ。なんだかかえって大変な状況になってる気が…。それにあの人多分強い…。決闘前にあの落ち着きぶりは、何度も死線をくぐり抜けてきた証拠よ」
 
 「心配いらないヨ。銀ちゃんピンチの時は私の傘が火を吹くネ」
 
 ガシャン、と傘を構える神楽を雛菜は宥める。
 
 「大丈夫だよ、神楽。銀ちゃんはこういう時は楽にセコく勝つのが信条だから」
 
 雛菜のフォローになっていないフォローに妙も新八も微妙な顔をする。
 
 「おいッ!!アイツはどーした!?」
 
 「あーなんか厠行ってくるって言ってました」
 
 その後すぐにいつも通り木刀をぶら下げた銀時が現れた。
 雛菜は眉をひそめて、携帯を取り出して電話を掛ける。なかなか出ない相手に何度もかけなおす。
 二、三回繰り返すと相手は漸く出た。
 
 「あっ!!出た!!土方さん!」
 
 「うるっせェェ!!テメーなに何度もかけてきてんだよ!!うるっせんだよ総悟!!」
 
 雛菜はその発言にそういうことか、と納得する。何度かけても出なかったのは沖田の悪戯電話だと勘違いしたらしい。
 
 「土方さん、総悟じゃありません。葛城です」
 
 「あ゛!?……すまねぇ、間違えた」
 
 土方は己の間違いに気がついたようで雛菜に謝った。
 
 「いえ、大丈夫です。そんなことより土方さん、近藤さんが大変なんです。すぐに橋の上まで来て下さい」 
 
 「近藤さんが!?分かった、すぐに向かう」
 
 雛菜は電話が切れたのを確認すると、河原の様子を見た。
 
 「…あー、やっぱりね」
 
 そこに広がっていた光景は褌丸出しの状態で伸びていた近藤だった。万事屋一行はもう既に姿を消していた。
 
 「雛菜ちゃん」
 
 雛菜の隣に来たのは妙だった。
 
 「銀さんに結局全部泥を被せてしまったわ」
 
 微笑んでいる妙に雛菜も笑う。
 
 「ホント、不器用なんだから」
 
 「そうね。後でお礼言ってもらっても良いかしら?」
 
 「分かった」
 
 笑顔で妙を見送っていると、後ろから話し掛けられた。
 
 「おい葛城」
 
 「あ、土方さん。遅かったですね」
 
 雛菜はそう言うと、河原を指した。
 
 「近藤さんの回収、よろしくお願いしますね」
 
 土方は近藤の様子に目を見開いて驚く。
 
 「オイこれどういう事だ」
 
 土方の問いに雛菜はありのまま伝える。
 
 「近藤さんがとある女性をかけて決闘して負けてこうなりました」
 
 「は?くだらねェ…」
 
 呆れている土方に雛菜は釘を刺した。
 
 「近藤さん、真選組局長という立場にも関わらず、私の友人をストーキングしてます。止めるようにちゃんと言い聞かせておいて下さいね」
 
 雛菜のその言葉に土方は深くため息をついた。
 
 「…すまねぇとその女に伝えといてくれ」
 
 雛菜はクスリと笑う。土方はそんな雛菜の様子を見て不思議そうに首を傾げる。
 
 「何がおかしいんだ?」
 
 「ふふっ、ストーカーするにしても直接面と向かって告白したり、正面突破なところが近藤さんらしくて」
 
 その言葉に土方もフッと笑う。
 
 「良くも悪くも馬鹿正直だからな」
 
 雛菜は土方にお辞儀をしてその場を立ち去ろうとした。
 
 「葛城。お前も気をつけろよ」
 
 土方の言葉に雛菜は声を上げて笑った。
 
 「相変わらず土方さんは心配性ですね」
 
 「うるせー」
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