poppy 第二章
池田屋の討ち入りの時に捕まった銀時、神楽、新八は取り調べを終えて三日後にようやく開放された。
その連絡を受けた雛菜は急いで大江戸警察署へと足を向けた。しかしそこには銀時達はいなかった。
「あれ、おかしいなー。ニアミス?」
首をかしげていると、中から同心達が出てきた。
「あ!おねーちゃん、脱獄犯を見てないか!?」
「私はここから出た人を誰一人見てません。お役に立てなくて申し訳ありません」
眉毛を下げながら言うと、同人は納得して立ち去っていった。
「その脱獄犯と銀ちゃん達が一緒に居たりして。…ってそんなわけないよね」
雛菜は道端に落ちているゲロを踏まないように気を付けながら、銀時達を探し始めた。
【一度した約束は死んでも守れ】
「ん~全然見つからない…」
銀時達を探し始めてかなり経つが、三人はなかなか見つからない。
「あれ、お嬢じゃねーかィ。こんな所で一体何してんでィ」
銀時だったらココも有り得るかも、とラブホ街を覗いていたとき後ろから唐突に声を掛けられて肩が大きく跳ねる。慌てて振り返るとそこに居たのは沖田だった。隊服を着ているので、見回りの最中だろう。 沖田はチューイングを膨らましながら雛菜に近づき、雛菜の手首を掴む。
「未成年がこんな所にいちゃいけねーだろ。補導対象だぜィ」
雛菜は沖田のその発言にピシリと固まる。
「私もう二十五歳だよ…?」
沖田は雛菜をマジマジと見つめる。垂れ目がちの大きな目やあどけない表情はどう見ても二十五歳には見えなかった。総悟と同い年か、下手したらそれより下にも見える。
沖田はフッと鼻で笑った。
「嘘吐くんじゃねェや。そんな嘘はすぐにバレるぜ。それとも」
沖田は雛菜の腕をぐい、と引っ張って耳元で囁く。
「そんなにヤりてェのか」
雛菜は目を見開いた後、沖田からパッと離れる。少し呆れながら沖田を睨む。
「違うわよ。ちょっと人を探してただけ。それに一人でこんな所に来ないよ」
「それもそうか。まぁでも」
ガシャン
「補導はするけどねィ」
「…え」
* * *
補導(無実、しかもなぜか手錠を掛けられた)された雛菜は沖田に真選組屯所へと連行された。取調室に放り込まれ、むすくれながら待っているとそこに現れたのは土方だった。
雛菜はようやくまともに話ができる人が来たとホッとした。
「で、何だお前。未成年のくせにムラムラしてたのか」
「違いますよ。人を探しに行ってたんです。それと」
「あー、うん。そう言う言い訳は良いから、な。そういうのは二十歳になってからな。分かったか?」
話を聞かない土方にイラッとした雛菜はバン、と机に免許証を叩きつけた。
「私二十五歳ですよ」
土方を睨みつけながら言うと、土方は「あ?」と良いながら免許証を手に取った。
「…嘘だろ」
しげしげと眺める土方に雛菜は本当です、と言う。
土方ははぁ、とため息を吐くと立ち上がって取調室のドアを開けた。
「…悪かったな」
「いえ、誤解が解けたなら良かったです」
ニコリと笑った雛菜に土方は渋い顔をする。
「でもラブホ街にはもう一人で行くんじゃねぇぞ。お前なんかは特に格好の餌食だぞ」
「そうですかね?帯刀してる女を狙う人なんていますかね?」
首をかしげる雛菜に土方はチベスナ顔になった。
「たとえ帯刀してても、お前ぐらいの女だったら声もかけたくなるだろ」
雛菜は目を丸くしたが、土方が心配していることが分かったのか、表情を弛めた。
「心配して下さってありがとうございます。次からは気をつけますね」
では、と言って立ち去る雛菜を土方は眺めていた。
「あれ、土方さん。お嬢帰しちまったんですかィ」
「たりめーだろ。補導の必要なんてねぇんだから」
ふーん、と言いながら沖田は土方に斬りかかる。
「うおっ!!何しやがんだテメー!」
「…別に気にくわねーだけでィ」
* * *
雛菜が買い物を終えて万事屋へ帰ると、もう既にみんな帰ってきていた。
「あっ!みんな帰って来てたんだね」
「雛菜姉ー!!ただいまアル!!」
「おかえりなさい、神楽」
飛びついてきた神楽を雛菜は笑いながら受け止める。
「ただいまかえりました、雛菜さん」
「おかえりなさい、新八」
頭にはちまきをして、はっぴを着た新八も笑顔で雛菜に駆けよる。雛菜は新八も抱き締める。
「…銀ちゃんは?」
二人を抱き締めながら銀時を見ると、銀時は頭をかきながら照れくさそうに雛菜に笑いかけた。
「ただいま、雛菜」
「おかえりなさい、銀ちゃん!!」