poppy 第二章
「俺が以前から買いだめていた大量のチョコが姿を消した。食べた奴は正直に手ェ挙げろ。今なら四分の三殺しで許してやる」
銀時は眉間に皺を寄せ、とある人物を見ながら言う。
「四分の三ってほとんど死んでんじゃないスか。っていうかアンタ、いい加減にしないとホント糖尿になりますよ」
「そうよ銀ちゃん。いい大人なんだから自己管理ぐらいちゃんとしなきゃだめだよ?」
「ほんと雛菜さんの言うとおりですよ」
新八は雛菜の発言にうんうん、と頷く。
「またも狙われた大使館。連続爆破テロ凶行続く…。物騒な世の中アルな~。私恐いヨ。パピー、マミー」
鼻血をだらだらと垂れ流しながら言う神楽を全員が凝視する。銀時は神楽の頬をガッと掴む。
「恐いのはオメーだよ。幸せそーに鼻血たらしやがって。うまかったか俺のチョコは?」
「チョコ食べて鼻血なんてそんなベタな~」
真顔で嘘を言う神楽に銀時はブチ切れる。
「とぼけんなァァ!!鼻血から糖分の匂いがプンプンすんぞ!!」
「バカ言うな。ちょっと鼻クソ深追いしただけヨ」
「ちょっと神楽。年頃の娘がそんなこと言っちゃダメよ」
雛菜は神楽を嗜めるが、神楽はウンと言いながら鼻をほじる。それを見た銀時がまた怒鳴りつけ、新八が銀時を止めるようと銀時を羽交い締めした時だった。
ドガン
外で何かが壊れるような大きな音がした。
「なんだなんだ、オイ」
銀時達が外へ出て下を覗く。するとお登勢の店にバイクが突っ込んでいた。
「事故か…」
【池田屋篇】
雛菜はその光景を見るや否やすぐに二階から飛び降りる。雛菜は飛脚に歩み寄ると、怪我の具合を見る。
店から出てきたお登勢は飛脚の男に詰め寄る。
「くらあああああ!!ワレェェェェェ!!人の店に何してくれとんじゃアア!!死ぬ覚悟できてんだろーな!!」
お登勢は飛脚の男に馬乗りしながら胸倉を掴む。飛脚の男は恐ろしいお登勢の形相に冷や汗をかきながらも慌てて弁解をする。
「ス…スンマセン。昨日からあんまり寝てなかったもんで」
「よっしゃ!!今永遠に眠らしたらァァ!!」
お登勢はグーで男を殴ろうと大きく振りかぶる。
それを見た新八は慌ててお登勢を止めに掛かる。
「お登勢さん、怪我人相手にそんな!!」
「新八、何を言っているの。お登勢さんの家にツッコむ。即ちそれ死罪だよ」
雛菜の発言に新八はツッコむ。
「いやアンタが何を言ってるんだ」
新八は蹲る男が所々血を流しているのを見て顔を顰める。
「…こりゃひどいや。神楽ちゃん救急車呼んで」
それを聞いた神楽は何を思ったのか大声を出す。
「救急車ャャァァ!!」
「誰がそんな原始的な呼び方しろっつったよ」
銀時は散らばった手紙を拾いながら男に話し掛ける。
「飛脚か、アンタ。届け物エライことになってんぞ」
「こ…これ…」
男は脇腹を押さえながら銀時に小包を渡す。
「これを…俺の代わりに届けてください……お願い。なんか大事な届け物らしくて、届け損なったら俺…クビになっちゃうかも。おねがいしまっ…」
男はそう言い終わるとガクリと気絶した。
「おいっ!!」
銀時が呼びかけるが男はもう何も言わなかった。
万事屋は目を合わせる。行くかどうするか迷っているのだろう。
「…ったく仕方ねェ。行くか」
「私はお登勢の店片づける手伝いするね」
「分かりました。三人で行きますよ」
三人はこうして大使館へ向かった。
雛菜とお登勢は男を店に運び込んで、男を看病することにした。
雛菜は先ほど男が脇腹を押さえているのを見たため、申し訳ないと思いつつも男の服をめくって手当てをしようとした。
「……え?」
しかしその場所には傷も痣も何もなかった。
雛菜は静かに男の服を戻して、どういうことか考える。
「雛菜、ソイツの調子はどうなんだい?」
雛菜はお登勢の言葉にハッとして、急いで答える。
「あ、目立った外傷はないので大丈夫だと思います。ちょっと頭に擦り傷があるぐらいです」
雛菜の言葉にお登勢は眉をひそめる。
「じゃあ何だってんだい。ソイツはただの擦り傷で気絶したっていうのかい?」
「さぁ…。どうなんでしょうか」
雛菜は首を傾げながら男の額に絆創膏を貼る。
「っててて…」
男は横腹を押さえながら立ち上がると、お登勢と雛菜に深く頭を下げた。
「ホントにすみませんでした」
男は何度も頭を下げながらその場を立ち去っていった。
男を不審に思った雛菜はこっそりと後をつける。
しかし相手はスクーターで、雛菜は歩き。最後まで後をつけるのは難しく、聞き込みをしながら男の後を追う。
辿り着いた場所はHOTEL IKEDAYAだった。フロントに聞き込みをしていると、黒服の武装した集団が現れた。
「あら?真選組の皆さん。どうされたんですか?」
「あ?葛城じゃねェか」
雛菜がいることに気がついたたばこをくわえた男、土方十四朗が雛菜に話し掛けてくる。
「お前こんなとこで何やってやがんだ」
「店にスクーター突っ込んだ男がなんか怪しかったんでつけたらここに辿り着いたんです」
正直に答えると、土方は大きなため息を吐いた。すると土方の傍に居た茶髪の少年が雛菜に話し掛ける。
「じゃあさっさとここから立ち去りなせェ、お嬢。俺達これから桂んトコに討ち入りに行かなきゃならないんでィ」
「桂って桂小太郎?」
雛菜の質問に土方は頷くと、雛菜は眉をひそめた。そして何かを考える様子を見せた。
「お嬢?一体どうしたんでィ」
「ねぇ、その討ち入り、私も行っても良い?迷惑はかけないから」
雛菜がコテン、と首を傾げながら土方に尋ねる。土方は目を見開いたがすぐに駄目だ、と言う。雛菜に助け船を出したのは茶髪の少年、沖田総悟だった。
「良いんじゃないですかィ。お嬢は自分の命くらい自分で守れやすぜィ。それにいざとなったら俺が守りまさァ」
「ありがとう、総悟」
雛菜はその大きな目を猫のように細めながら笑う。その笑顔にさすがの土方も何も言えなくなり、仕方なしに同行を許可した。
「…ったくしょうがねぇな。ただし絶対に前に出んじゃねぇぞ」
「大丈夫ですよー」
土方はニコニコと笑っている雛菜にため息を吐きつつも、討ち入りに向かった。
* * *
攘夷志士が密会している部屋へ辿り着くと、土方は襖を蹴破った。
「御用改めである!神妙にしろテロリストども」
その言葉に攘夷志士達は慌てて逃げ出す。
「しっ…真選組だァっ!!」
「イカン逃げろォ!!」
土方は刀を掲げながら声を張り上げる。
「一人残らず討ちとれェェ!!」
真選組と攘夷志士の交戦が始まると、雛菜は土方の言いつけを守りながら目的の人物を探す。
キョロキョロとしていると、沖田に手で制された。
「お嬢、後ろに下がっときなァ。土方さん、危ないですぜ」
そう言う沖田はバズーカを構えている。その視線の先には土方が誰かと言い合いをしていた。
「ちょ、ちょっと待って総悟!」
雛菜の制止も虚しく、沖田は容赦なくバズーカを撃った。
「うおわァァァ!!」
土方は大声を上げながら間一髪のところでその攻撃を避ける。雛菜は慌てて土方に駆けよる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「生きてやすか、土方さん」
土方は雛菜に手を借りながら起き上がる。そして元凶の沖田にブチ切れる。
「バカヤロー。おっ死ぬところだったぜ」
沖田は土方が無事だったのを見ると舌打ちを打った。
「チッ、しくじったか」
「しくじったって何だ!!オイッ!こっち見ろオイッ!!」
雛菜はいつもの光景に苦笑いを浮かべる。
「相変わらず仲が良いのか悪いのかよく分かりませんね」
「良いわけねーだろ。どこに目ェつけてんだテメー」
土方は青筋を浮かべながら答える。
「副長!!桂達が隠れている場所を見つけました」
その隊士が案内したのは、物置のような場所だった。
「オイッ出てきやがれ!無駄な抵抗は止めな!ここは十四階だ。逃げ場なんてどこにも無いんだよ」
バズーカを構えながら何度も説得するが、そんなことで出てくるわけもなかった。
沖田はアゴに手を当てながら思い出したように土方に話し掛ける。
「土方さん。夕方のドラマの再放送始まっちまいますぜ」
「やべェ。ビデオ予約すんの忘れてた。さっさと済まそう。発射用意!」
隊士達が撃つ準備をした時、突然襖が蹴破られて大使館へ行ったはずの三人が飛び出してきた。
「えぇっ!?銀ちゃん達何やってんの!?」
隊士達は雛菜と同様に突然現れて疾走する謎の三人組に驚く(しかも銀時は頭が完全に爆発している)。しまいにはその尋常じゃ無い様子をみて道を譲る始末だ。
「なっ…何やってんだ止めろォォ!!」
「止めるならこの爆弾止めてくれェ!爆弾処理班とかさ…なんかいるだろオイ!!」
銀時の言葉に隊士達は我先にと逃げ出す。その時雛菜はどさくさに紛れて懐かしい長髪が視界を横切ったのに気がついた。
雛菜は爆弾が爆発する音を聞きながら屋上へ出た長髪、桂小太郎に声を掛ける。
「ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
桂はいつもの定型文を言いながら振り返る。そして、少し悲しげな笑顔を浮かべた雛菜を見た。最初は眉をひそめていたが、だんだんと目を見開いていった。
「…まさかとは思うが、ひよこか?」
「そうだよ。今は吉田じゃなくて葛城雛菜だけどね」
桂はそうか…、と言いながら雛菜に近寄ってギュッと抱き締める。雛菜も桂の背中に腕を回す。
「ひよこ…雛菜…すまない…っ。約束を守ってやれなかった…!!」
雛菜は顔を上げ、桂の頬にそっと手を当てる。桂は泣いてこそいなかったが、それでもゆらゆらと揺らめいていた。
「なんで謝るの…?守ってくれたじゃない。だってまた会えたんだから」
雛菜は涙を流しながらも嬉しそうに目を細めて笑う。
「またヅラに会えて良かった」
桂は鼻を啜りながら「ヅラじゃない桂だ」と言った。
「じゃあね、ヅラ。また会おうね」
雛菜はスルリと桂から離れる。桂はフッと笑いながらヘリコプターに乗り込んだ。
「また会おう、ひよこ!!」
雛菜は優しい目で飛び去っていくヘリコプターをじっと見つめていた。