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poppy 第二章


 スナックお登勢にて、お登勢にお茶碗を差し出す神楽。頬にご飯粒をつけて、口をモゴモゴと動かしていた。
 
 「おかわりヨロシ?」
 
 「てめっ何杯目だと思ってんだ。ウチは定食屋じゃねーんだっつーの。ここは酒と健全なエロを嗜む店…親父の聖地、スナックなんだよ!そんなに飯食いてーならファミレス行って、お子様ランチでも頼みな」
 
 「なるほど、ここが聖地なら雛菜は聖母だな」
 
 「母ってついてるから、聖母はお登勢さんじゃないですか?」
 
 「おいおい、見ろよ新八。あのババアが聖母に見えるか?あんなのただの妖怪だよ?」
 
 新八と額を突き合わせてプスプスと憎たらしくと笑う銀時を、雛菜は注意した。
 
 「ちょっと銀ちゃん!なんてこと言うの!銀ちゃんも年取ったら妖怪になるんだよ!」
 
 フォローになっていない雛菜の発言にお登勢は真顔になった。
 
 「雛菜、あんたの今月の給料無しでも良いかい?」
 
 「おい、そんなことよりオカズ寄越せよ。たくあんでヨロシ」

 「食う割には嗜好が地味だな、オイ。ちょっとォ!!銀時!!何だいこの娘!!もう五合も飯食べてるよ!!どこの娘だい!!」
 
 銀時に向かってキレるお登勢。しかし銀時と新八にいつもの勢いはなく、げっそりとしている。
 
 「五合か…まだまだこれからですね」
 
 「もうウチには砂糖と塩しかねーもんな」
 
 そんな二人の様子に戸惑うお登勢。雛菜はそんなお登勢の隣で苦笑いを浮かべていた。
 
 「すみません、お登勢さん。神楽ちゃんが食べた分のご飯代、私の給料から天引きしてください」
 
 「なに言ってんだい、アンタにそんなことするわけ無いだろ、ちゃんと銀時に払わせるから」
 
 そう母親のような笑みを浮かべて優しく微笑むお登勢に雛菜は申し訳なさそうな笑みを浮かべた。お登勢は雛菜から視線を外し、神楽を見ると再び驚愕した。
 
 「ってオイぃぃぃ!!まだ食うんかいィィ!!ちょっと誰か止めてェェェ!!」
 
 「ほんっとにすみません!!お登勢さん!!」
 
 
 
 【第一印象がいい奴にロクな奴はいない】
 
 
 
 「へェ〜、じゃああの娘も出稼ぎで地球に。金欠で故郷に帰れなくなったところをアンタが預かったわけ…」
 
 お登勢はそう言いながら、少し心配そうな顔をする。
 
 「バカだねぇ、アンタも。家賃もロクに払えない身分のクセに。あんな大食らいどうすんだい?言っとくけど家賃はまけねぇよ」
 
 「オレだって好きで置いている訳じゃねぇよ。あんな胃袋拡張娘。でもさァ、雛菜も乗り気だし、追い出そうとしたらドメスティックバイオレンスだぜ?全くもう…」
 
 ガシャン、と神楽が投げたガラスのコップが銀時に命中する。銀時は白目を剥いて机に倒れる。
 
 「なんか言ったアルか?」
 
 「言ってません」
 
 神楽の半分脅しの発言に、新八、お登勢、雛菜の声がハモる。
 
 「いだだだ」
 
 「アノ、大丈夫デスカ?コレデ頭冷ヤストイイデスヨ」
 
 銀時におしぼりを渡してきたのは、猫耳の個性的な顔立ちをした女性だった。
 
 「ん?…あぁ、アンタか。雛菜が言ってた新入りって…」
 
 「ハイ、今週カラ働カセテイタダイテマス。キャサリン言イマス」
 
 「キャサリンも出稼ぎでうちに来たクチでねェ。実家に仕送りするために頑張ってんだ」
 
 その発言に銀時は感心した。
 
 「たいしたもんだ。どっかの誰かなんて己の食欲を満たすためだけに…」
 
 その発言に再びガラスのコップを投げられて、銀時は撃沈した。
 
 「もう、神楽ちゃん、頭はダメよ。投げるなら股間にしなさい。まだ死なないから」
 
 「いや雛菜さん、銀さんの股間に何か恨みでもあるんですか!?」
 
 新八のツッコミに雛菜は何も言わなかった。
 
 「えっ…ちょっと何があったんですか…!?何か怖いんですけど…!?」
 
 「ひ、雛菜!?あんた一体どうしたんだい?いつもの天使の面影は何処に行ったんだい!?」
 
 みんなが雛菜をなだめようと焦っていた時だった。
 
 「すんませーん」
 
 ガラララとドアが開き、二人の岡っ引きが中に入ってきた。
 
 「このへんでさァ、店の売り上げ持ち逃げされる事件が多発しててね。なんでも犯人は不法侵入してきた天人らしいんだが。この辺はそういう労働者多いだろ、何か知らない?」
 
 「知ってますよ、犯人はコイツです」
 
 そう言って神楽を差した銀時の指を神楽はへし折る。
 
 「おまっ…何晒してくれとんじゃァァ!!」
 
 「下らない冗談嫌いネ」
 
 ぎゃいぎゃいと騒ぐ銀時と神楽を見て岡っ引きはなんとも言えない顔をした。
 
 「…なんか大丈夫そうね」
 
 「あぁ、もう帰っとくれ。ウチはそんな悪い娘雇ってな…」
 
 ブォンブォンとバイクの音がしたため、店の扉から外を見るとキャサリンが銀時のスクーターで様々な荷物を載せて走り去るところだった。
 
 「アバヨ、腐れババア」
 
 その瞬間、お登勢は叫んだ。
 
 「雛菜!!追いかけるんじゃないよ!!」
 
 雛菜は帯刀していた刀を抜刀し、今にもキャサリンを殺そうとして腰を下ろしていたからだ。完全に瞳孔も開いている。
 
 「雛菜」
 
 お登勢がもう一度いうと、雛菜は刀をしまい悔しそうに唇をかんだ。
 気まずい沈黙は新八の一言によって吹き飛ばされた。
 
 「お登勢さん、店の金レジごとなくなってますよ!!」
 
 「あれ俺の原チャリもねーじゃねーか」
 
 「あ…そういえば私の傘もないヨ」
 
 遠くからキャサリンのバーカと叫ぶ声が聞こえてきて、銀時と神楽はブチ切れた。
 
 「あんのブス女ァァァァァ!!」
 
 「血祭りじゃァァァァ!!」
 
 そう言うと雛菜を除いた万事屋メンバーはパトカーに乗ってキャサリンを追いかけてしまった。
 
 お登勢は俯いたまま何も喋らない雛菜頭をポン、と軽く叩いた。
 
 「ついてくるなら剣は置いてきな、雛菜」
 
 「!はい!!」
  雛菜は力強く返事をすると、お登勢の後を追いかけていった。
 
 
 
 * * *
 
 
 
 「そこまでだよ、キャサリン!!」
 
 雛菜とお登勢がキャサリンがいるところまでたどり着いたとき、銀時達が乗っていたパトカーは川に沈んでいて、キャサリンはそれを見て薄ら笑いを浮かべていた。
 キャサリンはお登勢の声を聞いて顔を上げる。
 
 「残念だよ。あたしゃアンタのこと嫌いじゃなかったんだけどねェ。でもありゃあ、偽りの姿だったんだねェ。家族のために働いているっていうアレはウソじゃないみたいだが」
 
 そう言ってお登勢はちらりと雛菜を見た。
 キャサリンはそれが意味することを知らない。
 
 「…お登勢サン…アナタ馬鹿ネ…雛菜モ…。世話好キ結構。デモ度ガ過ギル。私ノヨウナ奴ニツケコマレルネ」
 
 お登勢はタバコを取り出しながら笑った。
 
 「こいつは性分さね。もう治らんよ。でもおかげで面白い連中とも会えたがねェ」
 
 「ある男はこうさ。ありゃ雪の降る寒い日だったねェ。あたしゃ気まぐれに旦那の墓参りに出かけたんだ。お供え物置いて立ち去ろうとしたら、墓石が口をききやがったんだ。
 
 『オーイ、ババー。それまんじゅうか?食べていい?腹減って死にそうなんだ』
 
 『こりゃ、私の旦那のもんだ。旦那に聞きな』
 
 そう言ったら間髪入れずそいつはまんじゅう食い始めた。
 
 『何つってた?私の旦那』
 
 そう聞いたらそいつ何て答えたと思う。死人が口きくかって。だから一方的に約束してきたってんだ」
 
 キャサリンはスクーターのエンジンをかけて、お登勢に向かってスクーターを走らせる。
 
 「この恩は忘れねェ。アンタのバーさん…。老い先短い命だろうが」
 
 この先はあんたの代わりに俺が護ってやるってさ
 
 川から出てきた銀時はキャサリンに木刀を叩き込んだ。
 
 
 
 * * *
 
 
 キャサリンはその後同心に引き渡された。
 雛菜はパトカーに乗り込むキャサリンに、話し掛ける。
 
 「キャサリン」
 
 「…何デスカ」
 
 雛菜はキャサリンをギュッと抱きしめた。キャサリンは目を見開く。
 
 「さっきはごめんなさい。大切な仲間のあなたに剣を向けてしまった」
 
 「仲間ナンカジャネーヨ。バカオンナ」
 
 キャサリンは憎まれ口を叩いたが、少し鼻声になっていた。雛菜はするりとキャサリンから離れて笑った。
 
 「また一緒に働こうね」
 
 「二度トモウアンナ所デ働カネーヨ」
 
 そっぽを向くキャサリンに雛菜は笑い声を上げる。
 
 「またね、キャサリン」
 
 「ジャーナ」
 
 キャサリンはその声を最後に、パトカーで連行された。じーっとその後ろ姿を眺めて居ると、隣には銀時が立っていた。雛菜は銀時を見ると、あ、と声を上げた。
 
 「そーいえば、銀ちゃんとお登勢さんの馴れ初め、初めて聞いた」
 
 銀時は雛菜の発言でぞわり、と全身に鳥肌が立った。
 
 「おまっ!!何気持ちわりーこと言ってんだ!!」
 
 雛菜はそんな銀時の様子に悪びれることなく笑う。
 
 「ごめんごめん。でもお登勢さんが銀ちゃんを連れてきたときには、聞けなかったから」
 
 「…気になってた?」
 
 「まぁそりゃあ、十何年も再開してなかった幼馴染みがあんなボロボロの状態で連れてこられたらビックリするよ」
 
 雛菜が苦笑すると、銀時の顔に影が差した。
 
 「…ごめんな」
 
 「何で銀ちゃんが謝るの」
 
 雛菜は少し背伸びをしながら、銀時の頭をわしゃわしゃとかいくぐる。
 
 「…チビ」
 
 「銀ちゃんが大きいの」
 
 雛菜は銀時に優しく微笑みかけた。銀時はその笑顔が眩しくて、目を合わせていられずに慌てて話を逸らした。
 
 「そっ、そういえばバーさん、今月と来月の家賃チャラにしてくれるってさ」
 
 雛菜は銀時の頭から手を離してクスリと笑った。
 
 「じゃあ三ヶ月分の家賃はキチンと払わないとね」
 
 銀時はその言葉を聞いてがっくりとうなだれた。
 
 「チクショー!!三ヶ月分の家賃をチャラにしてもらえば良かったァァァ!!」
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