poppy 第二章
「〜もう!銀ちゃんも新八も遅いなァ!!」
雛菜はすき焼きの材料を買いに行った二人を万事屋で待っていた。
業を煮やした雛菜は二人を迎えに行こうと、表に出た。
すると、何やら怪しいパンチパーマの男たちが彷徨いていた。
「あのガキ、こっちにいたか!?」
「いや、いねぇ!!」
「殺せっつっただけであんだけ拒否するとはな…」
「ヤバイぞ…!他の奴らが神楽が夜兎だってことに気づいたら、うちは潰されかねん!!早く奴を見つけて殺さにゃ…!」
なんて不穏な会話何だ、と眉をひそめる。『夜兎』、『殺す』、『パンチパーマ』。三つのキーワードを組み合わせた時、この間師匠から聞いた話を思い出した。
「…最近班池組が調子にのってやがってなァ…。あんまり害はねーからほっといたんだけどよ…。それがどうも様子がおかしいんだ。段々と過激になっていってやがる…」
そうか、あの人はこの事を言っていたのか、と納得した。気になるのは『夜兎』というワードだ。
戦闘種族『夜兎』。彼らは争いを好み、残虐性が高い。特徴は白い肌。彼らは日の光に弱いため常に傘を差したり、顔に包帯を巻いたりしているらしい。
「確かに自分らの言うこと聞かない手駒なら殺さなきゃだめか…」
しかし、どうも話を聞く限り、その神楽という子どもはあまり戦闘を好んでいない様子である。もし夜兎の本能のまま動くのなら、彼らが追うような事態には陥っていないだろう。
「取り敢えず銀ちゃんたち迎えに行こ」
【ジャンプは時々土曜日に出るから気をつけろ】
同時刻、原付を走らせていた銀時と新八はある少女を轢いていた。
原付に轢かれたチャイナ服の少女は蹲って倒れる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ひいちゃったよちょっとォォォ!!どーすんスか コレ!!アンタよそ見してるから…」
「騒ぐんじゃねーよ。とりあえず落ち着いてタイムマシンを探せ」
「アンタがおちつけェェ!!」
自動販売機の取り出し口のところに顔を突っ込んでタイムマシンを探そうとする銀時にツッコむ。
「だ…大丈夫だよ、オメーよぉ。お目覚めテレビの星座占いじゃ、今週の俺の運勢は最高だった。きっと奇跡的に無傷に違いねェ」
銀時はそう言いながら、少女に近づき、話しかける。
「なァ。オイ、お嬢…!!」
銀時は少女を起こそうと肩を掴んだとき、少女が倒れていた地面に血溜まりができていたことに気が付いた。
「お目覚めテレビぃぃぃぃぃ!!てめっ もう二度とみねーからなチクショー!!いや でもお天気お姉さんかわいんだよな」
銀時と新八は原付に乗り込むと、少女をロープを新八と少女に括り付けて急いで病院へ連れて行こうとした。
「オイ、どーだよ様子は」
「ピクリともしないよ」
「早く医者に連れてかなきゃ…。あー、ヤベーな…絶対雛菜キレてるよ…あいつ意外とどーでもいいとこで待つの苦手なんだよな…」
「なんか銀さんいつも雛菜さんのこと考えてますよね」
「ったりめーだろ……ん?」
後ろから高級車が近づいてきて、銀時たちが乗っている原付と並走してくる。
その時、車の窓が開いて銃を向けられる。
銀時たちが驚いている隙に車はスピードを落とし、銃口を少女に向け、発砲される。
あぶない、と思い新八は手で頭を抑えてガードしたが、弾は当たることはなかった。
不思議に思い後ろを見ると、先程まで倒れていたはずの少女が広げた傘でガードして銃弾をから守っていた。
そして、その傘を閉じると、容赦なく車のフロントガラスに傘から出る弾丸を浴びせた。
銀時と新八は開いた口が塞がらなかった。
彼らの追跡を振り切り、裏路地まで来ると、三人は一度休憩した。
「お前ら馬鹿デスか?私…スクーターはねられた位じゃ死なないヨ。コレ奴らに撃たれた傷アル。もう塞がったネ」
「お前ご飯にボンドでもかけて食べてんの?」
傷を確認しながら答える少女―神楽に銀時は呆れた声を出す。
「まァいいや、大丈夫そうだから俺ら行くわ。お大事に〜」
そう言って原付を走らせるも、一向に前に進まない。驚くべきことに、神楽は片手で原付を止めていた。
「ヤクザに追われる少女見捨てる大人、見たことないネ」
「ああ俺、心は少年だからさァ。それにこの国では原チャリ片手で止める奴を少女とは呼ばん。マウンテンゴリラと呼ぶ」
そんなくだらない争いをしているときだった。ついにヤクザたちに見つかってしまった。
「おっいたぞォォ、こっちだァァ!!」
わっ、わっなどと声にならない声を上げながら原付を捨てて走る三人。
「ちょっなんなの!?アイツら!ロリコンヤクザ?」
「何?ポリゴン?」
銀時がゴミ箱を蹴って、足止め工作をしている時、神楽はこうなった経緯を話し始めた。
どうやら神楽の家が貧乏なばかりに、三食ふりかけご飯だったらしい。お金を得るために遥々江戸までやってきたが、ヤクザに用心棒として雇われ、喧嘩だけだったのが次第にエスカレートして殺しまで強要されたらしい。それが嫌で逃げてきた、と。
「てめーで入り込んだ世界だ。てめーで落とし前つけるこったな」
「おいちょっと!」
話を聞いた銀時は、神楽に厳しい言葉をかけると新八の制止も聞かずに立ち去ってしまった。
***
銀時が寄り道しているがために遅くなっているのかと思った雛菜は、団子屋に行っていた。尋ねたところ今日は来てないという。そして次に来たら溜まったツケを絶対に払わせるとも。
苦笑いをした雛菜はせめてものお詫びに、団子を三本買った。
「はいよ、毎度あり。団子一本サービスしといたよ」
「いつもすみません、ありがとうございます」
団子屋の亭主がサービスをするのは、雛菜の笑顔が見たいからなのだが、そんなことを微塵も思っていない雛菜は相変わらず良い人だな、とのほほんとしていた。
そんな時だった。
「バカですかァァお前ら!!娘っ子一人連れ戻すのに何手こずってんの!?それでも極道ですかバカヤロォォ!!」
凄い怒号が店の外から聞こえてくる。
何事か、と外に顔を出すとそこにはパンチパーマの集団がいた。言うまでもなく、件の班池組だ。
雛菜は少し考えた後、笑顔で彼らに問いかけた。
「こんにちは、万事屋です。もしよろしければ、そのお話聞かせて頂けませんか?」
「あ゛?なんだテメ……な、何でしょうか?」
振り向きながらメンチを切ってきたサングラスを掛けた班池組の頭は雛菜を見ると途端に赤面し、敬語になった。
「貴方のところ、夜兎を雇ってるんでしょ?ちょっとそのお話、知りたくて」
「ハイ喜んでーー!!」
雛菜がニッコリと笑いながら真剣をちらつかせると、まるで居酒屋のような返事が帰ってきた。
「よーし!三郎!お前はこの御方に御説明して差し上げろ!!よーし!オメーら!俺らは神楽を探しに行くぞォ!!」
「イエッサー!!」
「そこはボスじゃないのね」
ピシッと一糸乱れぬ敬礼をする彼らにどこかズレた事を言う雛菜であった。
***
新八は神楽を国に帰らせるために、追手から逃れながら駅で神楽と共にポリバケツの中に隠れていた。
「ここから電車に乗ればターミナルまですぐだ。故郷(くに)に帰れるよ。それにしてもアイツ…本当に帰るなんて…薄情な奴だ」
「気にしないネ。江戸の人皆そうアル。人に無関心。それ利口な生き方。お前のようなおせっかいの方が馬鹿ネ」
そう言い、神楽は新八に笑顔を向けた。
「でも私、そんな馬鹿のほうが好きヨ。お前は嫌いだけどな」
「アレ?今標準語で辛辣な言葉が聞こえたような…」
電車がきたため、神楽はポリバケツから出ようと立ちながら辛辣な言葉を吐き続ける。
「私メガネ男きらいなんだよね」
「オイぃぃキャラ変わってんぞ!!んだよもォ!!やってらんねーよここまでやったのに!!」
神楽はポリバケツかの縁に手をかけて止まる。
「!…アレ?ぬ…抜けないアル」
「ウソッ!僕まで…ウソッ!!ヤベッ…泣きそっ」
電車が出る注意音が鳴り響く。慌てた新八はポリバケツを転がして移動した。
「もういい転がれ!!」
もう少しで、電車に乗れる。そう思った頃だった。何者かに足で止められた。
「オイオイダメだよ〜。駆け込み乗車は危ないよ。残念だったな神楽ぁ。もうちょっとで逃げれたのに」
「井上…!!」
「お前らみたいな戦うしか脳のない蛮族が殺しが嫌だなんて笑わせるな、ええ?夜兎族さんよぉ…」
「夜兎族?」
新八の発言に井上は呆れた。
「おやおや、何も知らずにコイツに協力してたのかィ。オタクも名前くらい聞いた事あるだろう?最強最悪の傭兵部族『夜兎』」
「お前は隠していたようだったが、その肌と傘が何よりの証拠。それに何より戦うお前は楽しそうだったぞ。薄っぺらい道徳心で本能を拒絶したところで、お前の本能は血を求めてるんだよ、神楽」
「違うネ!、私は…」
神楽は否定しようとしたが、井上は話を聞かず、ポリバケツを蹴飛ばし、新八と神楽を線路に蹴り落とした。
「戦えないお前に価値はない。サイナラ」
そして、最悪なタイミングで電車が近付いてきてしまった。新八は必死に助けを求めるが、彼らは新八を見捨てた。
「ふん、あばよ。さぁ!あの女のもとに行くぞ!!」
轢かれる、と思った時だった。
「ったく手間かけさせんじゃねーよ!!」
「おーい、だいじょーぶー?」
「銀さん!!…と雛菜さん!?」
そこには原付に乗ってこちらに向かってくる銀時と雛菜がいた。
「歯ァ食いしばれっ!!」
「ちょっ…待ってェェ!!」
銀時は木刀でポリバケツを殴って空中へ放り投げた。
ポリバケツはそのまま派手な音をたてながら、プラットホームへと落ちていった。
「なっ…何だァァ!!何がおきたァ!!」
「私戦うの好き。それ夜兎の本能…否定しないアル」
ポリバケツが粉々に壊れたことで解放された神楽は傘を持ちながら、井上達に一歩ずつゆっくりと近づいていく。
「でも私、これからは夜兎の血と戦いたいネ。変わるため戦うアル」
井上は逃げた仲間たちに取り残され、神楽にボコボコにされた。
「助けに来るならハナから付いてくれば良いのに」
「わけのわからない奴ネ…シャイボーイか?」
新八は肩をもみながら、神楽は井上のパンチパーマを剃りながらジャンプを読んでいる銀時に話しかける。
「いやジャンプ買いに行くついでに気になったからよ。死ななくて良かったね〜」
「僕らの命は二百二十円にも及ばないんですか。てか雛菜さんはどうして銀さんと一緒にいたんですか?」
「新八たちがあまりに遅いから、道草食ってるのかな〜って思って、団子屋に行ったら銀ちゃんに会ったのよ。その後はまァ成り行きで…」
「あぁ、それで手に団子持ってるんですか…」
新八が雛菜の言葉に納得していると、電車が来る音がした。
「おっ、電車来たぜ。早く行け。そして二度と戻ってくるな災厄娘」
「うん、そうしたいのはやまやまアルが、よくよく考えたら故郷に帰るためのお金持ってないネ。だからも少し地球残って金ためたいアル。
ということでお前のところでバイトさせてくれアル」
その発言に銀時はジャンプを破り、新八は固まった。しかし雛菜は嬉しそうだ。
「良いよー!おいで!!歓迎するよ!」
「えっ!ごっつ綺麗なお姉ちゃんもこいつらと一緒に働いてるアルか!?」
神楽は少し頬を染めながら問いかけると、雛菜は妹ができたようで嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべた。
「そうよー!!洋服とか色々な荷物はある?」
「無いアル」
「じゃあ、この後見に行きましょうか」
「え!?良いアルか!?」
「勿論よ、万事屋に来るのなら、私の妹になるようなものだもの。さぁ、行きましょう!!」
「やったー!!雛菜姉大好きアル!!」
雛菜と神楽はキャッキャっと早々に立ち去ってしまう。
反対する間も与えて貰えなかった、新八と銀時は顔を青くしたのだった。
「んな、バイオレンスな娘置いて置けるかァァァ!!」