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poppy 第二章


 成り行きで銀時と新八は、新八の姉の妙を助けるためにバイクで港に向かっていた。借金のカタに連れて行かれた妙がいる遊郭である「ノーパンしゃぶしゃぶ天国」は、船そのものが遊郭になっているらしい。
 船が出るから急げと怒る新八に、銀時はこないだスピード違反で罰金取られたから、と返す。
 そんな時、空を飛ぶパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 「そこのノーヘル止まれコノヤロー。道路交通法違反だコノヤロー」

 「大丈夫ですぅ、頭固いから」

 そう言って銀時は窓を開けて、身を乗り出しながら注意してきた警察に頭突きをかます。
 
 「いだァァァ!!…もう今日は真剣持った女はいるわ、頭突きカマしてくる奴いるわ…何なんだよ!!」

 「ノーパンしゃぶしゃぶ天国出発しちゃった!!」

 新八が叫ぶ。もう原付では追いつけなくなってしまった。
 そこで銀時は空飛ぶパトカーに目を付け、パトカーを強奪しようと振り返ったときだった。

 「へぶらッ!!」

 キキーッとパトカーが止まり警察官が何者かに殴り飛ばされ、パトカーから追い出された。
 唖然とし、戸惑う新八と銀時にの前に、パトカーから現れたのは艷やかなボブカットした黒髪を持つこの世の人とは思えないほど美しい女性だった。

 新八は思わずその女性に見惚れていると、女性はツカツカと此方に歩み寄ってきた。
 その時に新八はその腰に真剣を帯刀しているのを見た。
 
 (さっきの警察が言ってたのってこの人の事だったのか…。ていうか、この人どうしたんだろ…)

 「雛菜ちゃん!?何でパトカーの中にいたわけ!?」

 声を上げたのば銀時だった。新八は知り合いだったのか、と驚く。こういっては失礼だが、こんなにも麗しい美女と銀時の接点が全く見当たらなかったからだ。
 雛菜と呼ばれた女性はニコニコと笑いながら、銀時の質問に答えた。

 「銀ちゃんを探して街に出たんだけど、真剣持ってたから捕まっちゃった」

 「何やってんだオメー!!…ってこんなことしてる場合じゃねぇな、おい新八、行くぞ!雛菜、お前も来い!!」

 そう言ってパトカーに乗り込む銀時。新八が助手席に乗り込むと、雛菜は後部座席に乗り込んだ。

 「雛菜さん、凄いですね。状況もわからないのに、付いていくなんて…」

 新八の質問に雛菜は笑って答えた。

 「えー?知らない男の子連れてるから依頼だと思って…。あ、私、万事屋の葛城雛菜って言うの」

 パトカーが思いっきり船に向かって突っ込もうとしているにも関わらず、雛菜はニコニコと笑っている。肝が据わってるな、と思いながらも可愛らしく、美しい笑顔に赤面する。

 「おい新八、何顔赤くしてんだコノヤロー。雛菜は俺のだからな」

 「違うでしょ、銀ちゃん。ごめんねー、新八君。いきなり面と向かってこんなこと言われたら驚いちゃうよね」

 どこかズレた回答をする雛菜にはぁ、と新八は曖昧に頷く。

 「おいおい、てめー姉ちゃんのこと忘れてんじゃねーだろーな」

 「わっ、忘れてるわけ無いじゃないですか!」

 一瞬頭から吹っ飛んでいただけ、と頭の中で言い訳をしていた新八は突然の衝撃に、驚いた。パトカーが船にそのまま突っ込んでいったのだ。
 新八は少し固まっていたものの、本来の目的を思い出してパトカーから降りる。

 「どーもー万事屋でーす」

 「姉上ェ!まだパンツは履いてますか!!」

 「新ちゃん!!」

 「…何ここ、しゃぶしゃぶの店?」

 格好をつけて現れた新八と銀時だが、状況を全く把握していない雛菜は困惑を露わにして、ボソッと銀時の後ろで呟く。
 借金と取り立てしていた天人は船を壊されたことにブチ切れる。

 「おのれら、何さらしてくれとんじゃー!!」

 「姉上返してもらいに来た」

 新八はそう言いながら妙の手を取り、自身の後ろに隠す。

 「アホかァァ!!どいつもこいつも もう遅いゆーのが分からんかァ!!新八、お前こんな真似さらして道場タダですまさんで!!」

 「道場なんて知ったこっちゃないね。俺は姉上がいつも笑ってる道場が好きなんだ。姉上の泣き顔見るくらいならあんな道場いらない」

 「新ちゃん」

 しかしそうしているうちに大勢の天人に囲まれてしまった。

 「あらら」

 雛菜の状況にそぐわない脳天気な声が響いた。その時、男は漸く雛菜もいる事に気がつき、驚いた。

 「…ん?こりゃたまげた…こないな別嬪さん初めて会うたわ…」

 「てめっ、何厭らしい目で見てんだコノヤロー!」

 銀時は天人の発言にブチ切れるが、天人はニヤリと笑う。雛菜は冷めた目で男を見ていた。

 「たった二人で何できるゆーねん!!女二人を捕まえて、あとはいてもうたらァ!!」

 「オイ、俺が引き付けといてやるから、てめーは脱出ポッドでも探して逃げろ。雛菜、二人を護ってやれ」

 「りょーかい」

 「あんたは!?」

 新八が半分叫びながら尋ねると、銀時は新八たちに背を向けた。

 「てめーは姉ちゃん護る事だけ考えろや。俺は俺の護りてェもん護る」

 「何をゴチャゴチャぬかしとんじゃ。死ねェェ!!」

 天人がキレて銃を取り出すと同時に、目にも止まらぬ速さで天人達をふっ飛ばした。

 「はイイイイ次ィィィ!!」

 銀時は木刀を振り回し次々と天人を倒していく。

 「なっ…なんだコイツぅ!?」

 「でっ…でたらめだけど…強い!!」

 驚いて固まっている新八達に銀時は大声を上げる。

 「新一ぃぃぃ!!いけェェェ!!俺は…俺は雛菜の貞操を護るぅぅぅ!!」

 「新八だボケェェ!!つーか何しに来たんだお前!!」

 「やーね、銀ちゃん。私自分の身ぐらい自分で守れるよ」

 銀時に任せて部屋を出て、妙の手を引きながら脱出ポットを探す。

 「新ちゃん、いいの、あの人…いくらなんでも多すぎよ、敵が…」

 「大丈夫だよ。銀ちゃんは絶対に戻ってくるよ」

 雛菜がウインクをしながら答えると、妙は少し頬を染めた。

 「俺もそう思う!!だってアイツの中にはある気がするんだ!父上が言ってたあの…」

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 新八は後ろを振り返って、目を見開く。大勢の敵に追われた銀時がこちらに向かってきていたのだ。

 「ホントに戻ってきた!!ちょっと頼みますよ!原作でも一ページしかもってなかったし!!」

 「流石に人数多すぎたかぁ…」

 「キツかったんだ!!思ったよりキツかったんだ!!いいから脱出ポッドでも探せ!!」

 そう叫び、適当な部屋に飛び込む。そこにあったのは大きな『危』と書かれた機会だった。

 「んだココ!?動力室!?」

 「いきどまりや。追いかけっこはしまいやでェ」

 後ろからした声に振り返ると、そこには拳銃を構えた天人がいた。

 「哀れやの〜。昔は国を守護する剣だった侍が、今では娘っ子らも護ることもでけへん鈍や。おたくらに護れるもんなんて、もうなんもないで。この国も…空もわしら天人のもんやさかい」

 鼻血を垂らしながらもニヤリ笑う天人に、銀時も雛菜もニヤリと笑う。

 「国だ、空だァ?くれてやるよ、んなもん。こちとら目の前のもん護るのに手一杯だ」

 「それでも護りきれずによォ、今まで幾つ取り零してきたかしれねェ」

 新八と妙は銀時の言葉に耳を傾け、聞き入った。そのくらい、銀時の言葉には重みがあったのだ。

 「俺にはもう雛菜しかいねーがよォ」

 銀時は俯いていた雛菜の頭にポン、と手を載せる。

 「せめて目の前で落ちてるものがあるなら、拾ってやりてェのさ」

 「しみったれた武士道やの〜。もうお前はエエわ…去ねや」

 天人はそう言いながら拳銃を向けたが、部下の一人に止められる。

 「ちょっ、あきまへんて社長!!アレに弾あたったらどないするんてすか。船もろともおっ死にますよ」

 「ア…アカン、忘れとった…って登っちゃってるよアイツ!!おいィィ!!」

 銀時はいつの間にか機械に登っていたのだ。雛菜は天人達の気が逸れた一瞬の隙をついて、天人達を刀で一掃した。二人は見事な剣捌き、そしてその速さに目を見張る。剣を抜いたのすら見えなかった。
 まさに一瞬の出来事だった。

 「銀ちゃん!」

 雛菜が叫ぶと、銀時はニヤリと笑った。

 「客のだいじなもんは俺達の大事なもんでもある。そいつを護るためなら、俺ぁ何でもやるぜ!!」

 銀時はそう言うと、船の要の機械を木刀で叩き壊した。
 すると船は傾き、海へと落ちていった。


 「幸い海の上だったから良かったようなものの、街に落ちてたらどーなってたことやら。あんな無茶苦茶な侍見たことない。でも結局、助けられちゃったわね」

 妙は港で海を眺めながら新八に話しかける。新八は黙って姉の話を聞きながら、銀時と雛菜を眺めていた。

 「んだよォ!!江戸の風紀を乱す輩の逮捕に協力してやったんだぞ!!パトカー拝借したのぐらい水に流してくれても良いだろうが!!」

 「拝借ってお前、パトカーも俺もボロボロじゃねーか!!ただの強盗だボケ!!ってちょっとおねーちゃん、聴いてるの?なに自分関係ないみたいな顔してるの!?むしろほとんどの原因おねーちゃんだからね!?」

 「えへへ、ごめんなさぁい」

 雛菜がニッコリと笑いながら返事をすると、雛菜にボコボコにされた件の警察はデレデレした。

 「うん、可愛いから許しちゃう!!でも刀は駄目!!寄越しなさい、良い子だから!!」

 「いや、私何歳児よ…てゆーか、さっきから許可取ってるって言ってるじゃないですか!!」

 ギャーギャーと騷し声を聞きながら新八は口を開いた。

 「…姉上、俺…」

 「行きなさい」

 凛とした声に顔をあげ、妙を見る。

 「あの人達の中に何か見つけたんでしょ。行って見つけてくると良いわ。あなたの剣を」

 妙の力強い声が響く。

 「私は私のやり方で探すわ。大丈夫、もう無茶はしないから。私だって新ちゃんの泣き顔なんて、見たくないからね」

 「姉上…」

 背を向けて歩きだす妙の後ろ姿を見ながら、新八は笑った。

 (『例え剣を捨てるときが来ても、魂におさめた真っすぐな剣だけはなくすな』

 父上。この男の魂がいかなるものなのか。
 ひどく分かり辛いですが、それは鈍く…確かに光っているように思うのです)

 新八はまだ暴れて警察と喧嘩をしている雛菜と銀時にの元へ走り出した。

 (今しばらく傍らでその光…眺めて見ようと思います)
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