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poppy 第一章

 
 最近雛菜と一緒に居る時間が減った。雛菜は相変わらず先生が暇なときは、先生のところへ行ったし、勉強の話をしたいときはヅラの所へ行った。
 まぁ高杉とは俺と比べたら断然俺との方が仲が良いから別に良いけど。
 でも妹分があいつらに取られたような気がしておもしろくない。
 それでも、大切な話は誰よりも先に俺に報告してくれるから、やっぱり嬉しい。
 
 「銀ちゃん!!聞いて!!私に弟ができた!!」
 
 「弟?」
 
 「そうっ!!名前は劉っていうんだって!!お父様が教えてくれたの!!」
 
 「ふーん、じゃあ俺にも弟ができたって訳か」
 
 「そうだよ!!」
 
 頬を桃色に染めて喜ぶコイツはたいそう可愛らしい。その艶やかな黒髪を撫でると、猫のように目を細めて笑った。ぐうかわ。
 
 「お前ももう七歳だもんな。しっかりしたおねーちゃんになって、劉を護ってやんねーとな」
 
 「うん!!もし劉に悪い虫がついたら、私がぶっ飛ばさないと!!」
 
 「雛菜が言うと洒落にならないんだけど」
 
 そういう俺の突っ込みを無視して、先生にも伝えてくる!!と元気よく走り去っていってしまった。
 
 「なんだ?寂しいのか?」
 
 「うっせぇ」
 
 ニヤニヤとしながら俺を見下すように柱に凭れているコイツは、悔しいが絵になる。高杉のくせに。
 
 「お前、雛菜の事好きなのか?」
 
 何故こんな言葉が出たのか、自分でも分からなかった。
 
 「俺はモテる」
 
 「は?何?自慢か?」
 
 「最後まで話を聞け。だから俺に媚びを売ってくる女が多い。まぁ容姿だけじゃなくて、金持ちの一人息子って事もあるんだろうがなぁ」
 
 ククッ、と笑うコイツは女にモテることに特になんとも思っていない様子だ。段々とイライラしてきた俺は、早く言え、と先を促した。
 
 「だがアイツは違ぇ。女のように媚びずに美しい魂、自分の信念を持ってやがる。そいつが眩しくってなぁ」
 
 高杉は本当に眩しそうに目を細めた。俺は真っ赤に染まる夕空を眺め、そっと息をついた。
 
 「アイツは初めて会ったときから眩しかったな。親に大切に愛されて育てられてきた事がすぐに分かった。まぁ、女だって事で悲しい目にあったことはあったみてぇだが。それでもアイツは女であることに誇りを持ってたんだよ」
 
 「あぁ、それは分かる。父親が大好きだって顔に出てるからな。母親は会ったことねぇから知らねぇが。アイツのことだ。大切にしてるんだろうぜ」
 
 俺はその時、初めて気がついた。もう雛菜と出会って二年近くになる。毎日のように雛菜の家に押しかけている。それなのに、
 
 「雛菜の母親に会ったことねぇな」
 
 「そうなのか?」
 
 「あぁ、いつも父親が出てくるから…弟ができたって事は母親が居ねぇって訳でもないだろうし、どうしたんだろうなぁ」
 
 「病気がちなんじゃねぇか?」
 
 「さぁね、でもそんな話も聞いたことねぇな」
 
 父親の話はよくしてくるが、母親の話は驚くほどされない。いったい何故なのか。
 
 「聞いてみるか?」
 
 「でも聞かれたくないことだったらなぁ…」
 
 「取り敢えず容姿でも想像してみるか?」
 
 「あ、良いな、ソレ」
 
 俄然乗ってきた。基本馬の合わない俺と高杉がこういう風に仲良くしているのは珍しい。
 これも雛菜の力なのだろうか、と思うと影響力が強すぎてつい頬が緩んでしまう。
 
 「きっと黒髪ストレートだな。父親は茶髪の癖っ毛だから、アイツの黒髪は母親譲りだろ」
 
 「あぁ、それは間違いないだろうな。たれ気味の緑色の目は父親譲りだろ。鼻も父親に似てる気がするな」
 
 「アレ、なんか雛菜って父親にかなり似てないか?」
 
 「…確かに。でも薄めの唇はたぶん母親似じゃね?」
 
 「あぁー、確かに父親には似てねぇな」
 
 色々と話し合った結果、雛菜の母親の容姿は黒髪ストレートで薄めの唇ということしか分からなかった。
 
 「全然想像できてねーじゃん」
 
 「それな」
 
 「何の話ですか?」
 
 「雛菜の母親の…って松陽先生!?」
 
 俺達が松陽の登場に驚いていると、松陽はいたずらが成功した子どものように笑った。雛菜はきょとんとした表情で俺達を見つめている。
 
 「何でお母様の話を…?」
 
 「雛菜の母親を見た事ねぇって話になってな」
 
 「あぁ、晋ちゃんの言う通りそうかも。お母様、基本離れに居るから」
 
 「離れ?」
 
 俺が首をかしげると、雛菜はこくりと頷いた。
 
 「お父様から言われたでしょ?離れには近づいちゃダメって」
 
 俺はその時に、よく吉田家に遊びに行くようになってから高良に言われたことを思いだした。確かにそんなことも言っていた気がする
 
 「お母様はお外に出られないんだって。だからね、私が外の話をいっぱいしてあげているの!!」
 
 松陽はそういって楽しげ笑うに俯く雛菜の頭を軽く撫でた。
 
 「そうだったんですか」
 
 「うん!!でもお父様には、外でお母様の話はしちゃ駄目って言われてるから、この事は内緒ね!!ヅラもだよ!!」
 
 「ああ、約束しよう」
 
 「え??」
 
 後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返ると、ヅラが膝を抱えて座っていた。
 
 「ずっとスタンバってました」
 
 「知らねぇよ!!てか雛菜よく気がついたな!!」
 
 「まぁね!!」
 
 「さすが雛菜だな」
 
 「雛菜は凄いですね」
 
 「誰も居ることに気づいていなかったというのかァァァ!!」
 
 「うるせェェェ!!てかみんな雛菜甘やかしすぎだろ!!」
 
 今日は一つ、知ることができた。謎が多い、コイツのことを。
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